なぜか異世界に幼女で転生してしまった私は、優秀な親の子供だったのですが!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)

文字の大きさ
上 下
218 / 361

氷聖

しおりを挟む
「ちょっと言いすぎたかしら...」

 私はカリンに言いすぎたと思っている。
 でも、あれくらい言わないとまた妹に魔法を教えてくれとせがむと思えたから釘を刺したのだ。
 それがどれだけ妹を苦しめているか知りもせず、無邪気な笑顔で「教えてお母さん」と言うのだろう。
 普通ならいい親子関係のはずなのに、そこに“賢聖としての責務”が入ってくると一気に話がややこしくなってしまう現実...。

「...、エルカ...、あなたやっぱり聖人に向いてないわよ...」

 姉だから分かる。
 エルカという女は聖人としての義務よりも母親としての愛を取る人物であると断言できるのだ。
 これは彼女との長い時を費やして得た絆のようなものだろう。
 だからこそ私が聖人としての選ばれれば良かったのにと今でも思わずにはいられない。
 はあっとため息をこぼした瞬間だった。

「プラム、久しぶりだな...」

 聞き覚えのある声を聞いてとっさに振り向く私。

「ジスカ...!」

 私の言葉を聞いた彼は苦笑する。

「おいおい、妹よその言い方はないんじゃないか?、仮にも聖人となった兄に向かってな...」

 彼の名前はジスカ。
 私の兄で“氷聖”の名を冠する聖人だ。
 プラム同じく、白い髪に青い瞳、服装は賢者のローブを身に纏っていた。
 私はいけ好かない兄の態度を見て機嫌を悪くする。

「あなたのその態度、聖人とは程遠いと思うのだけど、ああ違ったのかしら?」

「減らず口は相変わらずだな、それよりも魔女の封印をしたエルカ様はどちらに?」

「今あの子はぐ~ぐ~眠ってるわよ、魔女の封印にはかなり魔力を消耗するの」

「それはそれは...、お会いするのはまた今度にした方が良さそうだな」

 奇妙な雰囲気に私は息苦しくなる。
 こいつは生まれた時から自分の事を特別な何かなのだと勘違いしているサイコ野郎だ。
 一応同じ師の元でエルカと一緒に修行していた身である。
 一応言っておくと、私とエルカは実の姉妹ではない。
 師匠が同じだった為、彼女は私のことを姉弟子だと敬い「姉さん」と敬称で呼んでくれているのである。
 目の前の彼は私にとって血の繋がりのある実の兄だと言い張る奇妙な男に他ならない。
 確かに見た目の特徴こそ似ているものの、肝心の証拠がないのだ。
 それなのに直感と言う理由だけで私の事を妹だと言い張る変態である。
 彼と話していると本当に疲れてくるので紅茶のポットを魔法で取り出し楽しもうとすると...。

「兄にも一杯くれないか?」

「...自分で出せば?」

 私がそう言うと、彼はフッと笑いこう呟く。

「いや、妹が普段飲んでいる紅茶の質がどれほどの物か知りたくなってね、それとも兄に飲ませるのには値しない質の悪い紅茶なのかな?」

 ふふんと笑う彼を見ているとちょっとした怒りを覚えてしまう私。

「あ~はい!はい!、入れればいいんでしょ、入れれば!」

 私は乱暴に彼の前に紅茶を差し出しました。

「ご苦労」

 スッと手を伸ばし優雅に紅茶を飲む兄。
 その姿を見ていると思わず舌打ちをせずには入られません。

(なんでこんな奴が女神クティルに聖人として選ばれたのかしら?、私の方がこんな奴よりもよっぽど聖人として向いていると思うのだけど...)

 これだけは私の中で納得の行かない出来事です。
 なぜこんな変態を聖人として女神様が選んだのか理由も意図も全く不明なのでした。

「うん、美味い!、さすが氷の女王プラム、我が妹が嗜むに相応しい味の紅茶だ」

「それ、インスタントの紅茶よ」

「えっ...」

 突如カップを皿の上に置き苦虫を潰した様な顔をする兄。
 さっきまで自信満々に「美味い!」とほざいていたのが今更恥ずかしくなったのか突然立ち上がり赤面しながらこう言いました。

「失礼する!」

(はっ!、バカ兄が!、絶対に兄貴といってやるもんですか!!)

 そう、私が彼のことを兄ということは絶対にないのです。
 例え私の師匠の頼みでも、絶対にあんな奴の事を兄と呼ぶなんて御免ですね。

(女神様...、なんであんな馬鹿に聖人の血を与え、私には与えて下さらなかったのですか?)

 私はある意味で女神を呪っている。
 私を純血の選択者として選ばなかったどころか、エルカという最もそれに合わない少女を選んだことに対し、憤怒しか感じないのだ。
 彼女は人という生き物に対して優しすぎる。
 それ自体はとても素晴らしい事なのだが、いずれきたるであろう“選択の時”に彼女が最良の道を選ぶことができるとは到底思えないのだ。

(エルカ...、私はあなたの姉として切に願う)

「私はあなたの姉なのだから、もっと頼ってほしい...」

 確かに私は聖人ではないし、まして彼女の選択に口を出せるような立場にすらいない。
 言ってしまえば蚊帳の外なのだ。
 でもあの子は、私の力をもう一度必要としてくれる...、はずだった...。
 あの時の私に何か隠している表情がいまだに忘れられそうにありません...。

「なんであなたは...、いつもお姉ちゃんを真の意味で頼ってくれないの?、私ってそんなに頼りない?」

 少女はただ独り言の様に呟く。
 自分以外に誰もいない無数の本がある世界で、ただ1人感傷に浸る姿のみが残った...。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

精霊に転生した少女は周りに溺愛される

紅葉
恋愛
ある日親の喧嘩に巻き込まれてしまい、刺されて人生を終わらせてしまった少女がいた 。 それを見た神様は新たな人生を与える 親のことで嫌気を指していた少女は人以外で転生させてくれるようにお願いした。神様はそれを了承して精霊に転生させることにした。 果たしてその少女は新たな精霊としての人生の中で幸せをつかめることができるのか‼️ 初めて書いてみました。気に入ってくれると嬉しいです!!ぜひ気楽に感想書いてください!

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

形成級メイクで異世界転生してしまった〜まじか最高!〜

ななこ
ファンタジー
ぱっちり二重、艶やかな唇、薄く色付いた頬、乳白色の肌、細身すぎないプロポーション。 全部努力の賜物だけどほんとの姿じゃない。 神様は勘違いしていたらしい。 形成級ナチュラルメイクのこの顔面が、素の顔だと!! ……ラッキーサイコー!!!  すっぴんが地味系女子だった主人公OL(二十代後半)が、全身形成級の姿が素の姿となった美少女冒険者(16歳)になり異世界を謳歌する話。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...