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黒の回廊

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 白の回廊を突き進むと、今度は黒の回廊にたどり着いた。

「...うぐっ!?」

 こちらは一歩を踏み出すだけでとてつもなく気分が悪くなる。

(なんだこの気持ち...! 心が塗り潰されるような...。深い闇の中に溶かされて堕とされていくような...そんな感覚...)

 俺と佐藤と蜜香は苦しそうにしているのだが、愛川だけは無表情を貫いている。

「何? 皆なんで苦しんでいるの?」

「ハハッ、さすが愛川さんだ。伊達に魔王をやってきたわけじゃないね」

 と石川が少し笑って言っていたが、彼自身も少し苦しそうだ。

 恐らくだが、石川だけは心構えができているからこそこの部屋への耐性があるのだろう。

 愛川は...、多分自分の中の闇が深すぎてこの程度の闇ならば逆に取り込むくらいの勢いなのだと思う。

「皆! 心を強く持て! これは精神攻撃だ!!!」

 明らかに悪意のある攻撃に俺たちは戸惑うが、愛川だけはやはりなんともないようだ。

 苦しむ俺に愛川はこう呟いた。

「カズ君、一度勇者の力を押さえて魔王としてのあなたを出したらどう? そうすればきっと楽になれるよ」

 愛川の言葉通り俺は【絆の勇者】としての力を抑えて自分の心を【感情の魔王】に傾ける。

 すると確かに楽になってきたが、これでは俺だけが楽になるだけだろう。

 他の3人...、特に蜜香は1番心の闇が少ないらしく相当苦しんでいるのが分かる。

 純真無垢に育ってきた者にほどこの回廊は激しく牙を剥くのだろう。

「一度撤退を...」

 俺がそう呟こうとしたのだが、石川に止められた。

「ダメだ高坂、このゲートは恐らく一度しか開けられない。事前に言っていただろう? 皆の覚悟が決まるまで調停者には挑まないって。黒木さんも覚悟してこの場にいるはずだ。もしもついてこられないと言うのなら、ここで捨てていくしかない」

 その非常なる言葉に俺は怒りが込み上げてくる。

「石川!!! お前自分が何を言っているのか分かっているのか!?」

 その瞬間に魔王ではなく勇者としての自分が顔を出して心が塗りつぶされる感覚が大きくなってしまう。

「ぐっ...!」

「高坂、今は1人でも多く調停者の元に辿り着く事が先決だ。この時点でついてこられないと言うのならどのみちこの先では通用しない」

 そんな石川の言葉に蜜香が声を溢すのだった。
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