女体化した勇者と魔王が一緒に旅するようになった理由

水の大陸編

優しい君

　コツコツという足音で目を冷ます。

「ごめんなさい、起こしちゃいましたか？、タオルの替えを持ってきたので背中拭きますね」

　確かに僕の体は汗をかいていたので、タオルを受け取り自分で拭く。
　正直体を拭いてもらうなど、もう子供ではないので恥ずかしい。
　そんな僕の様子を見た彼女は少し笑う。

「タクヤさんって、体を拭いてもらうのが恥ずかしいんですか？」

「女性に体を拭いてもらうなど、僕にはもったいない事だと思うだけです」

「？、そうですか？私は毎日の様にザーク様のお身体を拭いていますが、その様な事を言われたことはないですね」

「それはザーク様も女の子だからです、僕は男なので、女性に頼るなど、自分のプライドが許せないだけなのでお構いなく」

　ささっと体を拭き終わると、彼女にタオルを返す時に一応礼を言う。

「ありがとう」

「どういたしまして」

　何気ないやりとりだが、少ししあわせな気分になる。

(こんないい子を雇うとは、流石メイシス様だ...)

　話しているだけでこんな気持ちにさせてくれる女性は貴重だと思える。
　彼女は僕にとって、理想のメイドだと言えるだろう。
　存在しているだけで癒しを与えてくれる存在というのは、存外なかなか見つからない物だ。
　自分にとっては、アサミがそれに当てはまるのだが、この少女も負けず劣らずの性能をしている。
　いや、性格が優しい分、彼女の方が勝っているかもしれない。
　アサミ勝気な性格を思い出すと、自然に笑みがこぼれてしまう。
　そこを彼女に見られたのでツッコまれる。

「あ、また笑っていますね、友人さんのことですか？」

「良く分かったな...、アオさんの言う通りですよ」

　ふふんと嬉しそうに笑顔を見せた彼女が続けて口を開いた。

「少し話して貰えるかしら？、友人さんのこと」

　僕は少し考えたが、別に減るものでもないので答えることにした。
　アサミについての談笑は、時間が経つのも忘れるほど楽しいもので、彼女が僕の発言に対し一字一句反応してくれるのがとても嬉しい。
　ついつい時間が経つのも忘れて話していた為、すっかり夜になってしまい、申し訳無い気持ちになった。

「アオさんはメイドなんですよね？、長い時間を僕に割いていただいて本当に申し訳ない」

　僕が頭を下げると、彼女は優しく返す。

「大丈夫です、私は最近アウス様に魔法の特訓をしていただいて仕事の処理が早くなっているので、この時間も余った時間をどうしようか考えた結果ですから、どうお気になさらないで下さいね」

「凄いですね、メイドの仕事をしながら僕の面倒まで見れるなんて...」

　目の前の少女は小さいが、立派なメイドなのだろう。
　その証拠に、手の皮膚は擦り切れている。
　あれは何度も冷たい水に手をつけて雑巾を絞っているとできるものであることは自分もよく知っていた。
　水の大陸で掃除の仕事を引き受けた時には、必ずあのような擦り傷ができていたのを思い出して懐かしむ。
　その痛みに耐えながら、皆に笑顔を振りまくことができるという事。
　それこそが彼女の凄い所であると、思わずにはいられない。

「そろそろお夕飯のご飯が炊ける頃ね、ではまた後で、美味しいご飯を一緒に食べましょうね」

　彼女は笑顔のまま姿を消した。
　楽しそうに立ち去る彼女を、彼女の姿が見えなくなるまで見つめていた。