女体化した勇者と魔王が一緒に旅するようになった理由

水の大陸編

兄弟の真実

「失礼します」

　ノック二回した後に彼の部屋に入る。

「なんだアウスか...、その様子だと負けたようだな...」

　彼は偉そうに椅子に座りながらこちらを見て来る。
　見上げているのに、まるで見下げられているような感覚に陥る。
　それだけ目の前の男の存在感がすごいのだろう。
　今の姿でも、恐らく私の方が格下であることはなんとなくわかる。
　何故か分からないが、彼は私を過大評価していると見られる節が所々に見受けられる。

「ええ、それも一度負かした相手にね、数の暴力にあったとは言え、少しプライドが傷ついたわね」

　彼はその言葉を聞くと豪勢に笑った。

「アウスがそのようなことを言うとはな！、これは一本取られた！」

　はははと笑う彼に、私は冷ややかな視線を送る。

「それはそうと、聞きたいことがあるのだけれど...」

「ほう、何かね？」

「タクヤについて」

　その話題を出すと、より一層笑いだす彼を見た私は、顔には出さないが不快感で一杯になる。

「タクヤについてだと？、物好きもいたものだな」

「私の質問に答えてくださるかしら？」

「ふん、お前には火の大陸での功績がある、いうてみい」

　私は一呼吸置いたのちに口を動かす。

「あなたよね？ああなるように仕組んだのは」

　彼は拍手をしながら「ご名答」と答える。

「良くわかったな、勝手に潰しあってくれれば勇者の1人を潰せると思って私が仕向けたのだよ、まあ思わぬ収穫も得たし、奴を仲間に引き入れたのは成功だったな」

「ふふふ、私の情報網を甘く見ないで欲しいわね」

　何気ない会話を続けているように見えるが、これは私の情報網の広さを奴に教えているのである。
　そうすれば奴は私がどこまで知っているのかに興味を持つはず。
　その為に出すカードは...。
　私が交渉するための話題を考えていると。

「いいことを聞かせてくれたお礼に教えてやろう、私がタクヤにやったことをな」

　以外、私がカードを切る前に答えてくれるとは...罠か？。
　少し身構えながら話を続ける。

「まず、奴の幼馴染を殺し、その後で奴の技術で古代兵器ブンブンを蘇生させた、まあ奴の技術を買っていたのは事実だが、まさか本当にブンブンを蘇生させてしまうとは、全く末恐ろしい奴よ」

　彼は嬉しそうに笑う。

「その言葉、タクヤに伝えてもいいのかしら？」

　まあ、無駄だろうが一応ゆすりをかける。

「無駄無駄、奴に何を言っても無駄だ、奴には暗示をかけている、兄貴が全て悪いという暗示をな、そしてそれは私が死ぬ以外には解けない」

　やっぱりなと、私は面白くなさそうに笑う。

「相変わらず悪趣味ね」

「利用できる物はなんでも利用する、それが私のやり方だ」

　こいつの言っていることは本当だ、私もこいつには弱みを握られているため逆らうことができない。
　妹だろうと殺せる私にも、弱みとい物は存在する。
　これが意外に厄介で、それさえなければ実力行使で今すぐにでも奴を噛み殺したいところなのだが、全力を出したとしても勝てるかの見込みは正直できていない。

「あなたろくな死に方はしないわね」

　皮肉をたっぷりと込めて言う。
　彼は頷いて答える。

「まあ、私にいい未来は待っていないだろうな、だがそんな物はもう関係ないのだよ、私はただザーク様が育ってくれさえすれば良いのだから」

　不気味に笑う彼が恐ろしく感じた私はスッと部屋から立ち去った。