女体化した勇者と魔王が一緒に旅するようになった理由

ルシェ(Twitter名はカイトGT)

文字の大きさ
上 下
144 / 169
水の大陸編

弱者の抵抗

しおりを挟む
 双竜は咆哮をあげ、アウスを威嚇するような声を出しながら、彼女を睨みつける。

「アウス!!、絶対に許さない!」

 私が炎のブレスを奴に放つが、奴は獄炎の中を涼しそうにこちらに向かってくる。
 それを見た青いドラゴンは水のブレスを放つ。
 炎の中に水のブレスを入れ、極地的な環境を作り出すが、それでも奴には通用しないようだ。
 熱い物と冷たい物を同時に受ければ、普通は辛そうな顔をするだろうが、奴は多少なりともその不気味な表情を崩さない。

「ふふふ...、アウラ...生きていたのね」

 青いドラゴンはその問いに答える。

「姉さん...、なぜ貴女があちら側に付いてしまったのかは分かりませんが、こうなってしまった以上、私と貴女は殺しあう宿命にあるというわけですね...」

 私にはなんとなくわかっていた。
 龍同士の念のようなものだろうか?、アウスとアウラ、この二人からは龍の鼓動のような物を感じるのだ。
 ただ、アウラからは暖かい光のような念を、アウスからは暗い闇のような念を感じる。
 少し怖いが、お姉ちゃんを失った自分は、これ以上同士を失う訳には行かないと思い、アウラの前に立ち、奴の方を向く。

「あらあら、貴女は火の守護龍の妹さんね...、残念だけど、貴女には興味がないの...、退いてくれる?」

 ...、やはり面向かってこいつの前に立つのは恐ろしい。
 こうやって前に立っているだけで怖いくらいだ。
 龍の私にすら恐怖を感じさせる彼女は、相当な実力者なのだ。

「悪いけど...、私はこれ以上同じような目に合う龍を増やす訳には行かない、貴女とアウラが姉妹だと分かったのならなおさら引き退る訳には行かない...」

「そう...、なら死んでも文句言わないでね...」

 明らかな殺気が増す。
 気を保つだけでもやっとな程の空気に押し潰されそうになる。
 どうしても火の大陸での惨敗が脳裏にちらつき、負けるというビジョンが明確になっていく...。

「...怖いのなら元の巣に戻って震えていなさい...、私の邪魔さえしなければ貴女には何もしない...」

 私の足の部分を優しく触りながら、アウラの方に向かっていくアウス。
 その言葉に安堵してしまう自分が嫌になり、奴に特攻するが。

「止まりなさい...」

 ただ一言だけ言われ、顔面に拳を入れられ、龍化が解ける。
 殴られた顔を庇いながら、奴を視界の中に収めようとしていると、もう1発お腹の辺りを蹴られ、その場に蹲り、呻き声をあげる。
 ゴホッゴホッと咳を混みながら上を向くと、奴の氷の剣が輝いていた。

「終わり...」

 冷たく言い放った彼女は、白刃の刃でとどめを刺そうとする。
 容赦ないその姿は、魔の者と言われても違和感がない。
 刃が私に突き刺さろうとした瞬間。

「させない!」

 アウラが魔法で水のシールドを私の前に作ってくれたお陰で助かった。
 剣は水の濁流に飲み込まれ粉砕された。

「...、少しは成長したのかな?アウラ...」

 奴が少しずつアウラに向かっていくのを、蹲りながら見る事しか出来なかった。

(なんて私は無力なのだろう...、ここでもただ足を引っ張っただけで何もできていない...)

 腹を抑えながら、アウスとアウラの戦いを見ているが、明らかにアウスの方が優勢だ...。
 何かしないといけないと思うのだが、足が震える上、心臓の鼓動が速くなり緊張感が高まってくる。
 怖い...だけど...、同種族が死ぬのはもう見たくない。

(お姉ちゃん!、力を貸して...!)

 そう思った時、獄炎の炎と共に、私の姿はお姉ちゃんの物となっていた。
 お姉ちゃんなら絶対に怖くても戦う。
 私の為に生きてくれたお姉ちゃんの事を考えながら、私は身体を変化させたのだ。

「貴女は...!」

 アウスが驚いたような目で私を見てくる。
 当然の反応だ、自分の手で殺した者が生きていると分かればそんな表情をするだろう。

「お姉ちゃんの力...、借りるよ...!」

 私は拳を振り上げると、半龍化し、奴に殴りかかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...