女体化した勇者と魔王が一緒に旅するようになった理由

ルシェ(Twitter名はカイトGT)

文字の大きさ
上 下
136 / 169
水の大陸編

そうだ...

しおりを挟む
「そうだ...、兄さんが悪い...」

 ブンブンから降りてきたタクヤは呟いている。
 その様子が不気味なのでマオが少し震えている。

「ユウリ...、なんか怖い...」

 ギュッと俺の服を掴む彼女をそっと後ろに隠す。
 確かに、今のタクヤは普通ではない。
 さっきまでの陽気な感じが微塵も感じられず、俺が今まで戦ってきたどんな魔物よりも純粋な悪に染まっている気がする...。
 この殺気は、ユウトにのみ向けられている。
 それ以外の者にはまるで興味がないようだ。
 一瞬だけユウトの仲間に興味を持ったが、それも今はもう無い。

「タクヤ...、どうしたの?、さっきまであんなに人が良かったのに...」

 アイカが不自然そうな顔をして、タクヤを見つめている。
 そんな時、ユウトが明るく声を出して彼に近づく。

「タクヤ!、大丈夫か?、兄さんがなんでも相談に乗ってやるぞ、アサミも帰りを待っているだろうしな!」

 彼はタクヤの地雷を自ら踏んでしまった。
 さっきまでとは比べものにならない程の殺意が辺りに立ち込める。
 ここまでくると、ただの通行人でさえもアレの異常性に気がついて去って行く。
 張り詰めた様な空気が肌に刺さり痛い...。

「アサミ...?、あんたが殺したんじゃないか!、この人殺しが!」

 その言葉をキョトンとした顔で聞くユウト。

「は?...アサミを殺したのが俺...?、なんのことだ?」

「とぼけるな!兄さんが命令したんだと僕はメイシス様から聞いた!」

「メイシス...?、誰だそれは!、お前がなんかおかしいのもそいつのせいなのか!?」

「うるさい!うるさい!うるさい!兄さんだけは許さない!」

 タクヤは片手に紫色のオイルを持ち、それをブンブンに入れ始めた。

「兄さんにはこれが何かわからないだろう?、これは彼女と僕の血でできたオイル...、兄さんを恨み続けた負の遺産を凝縮して作った物...」

 ブンブンの色が赤色から紫に変貌して行く。
 薄気味の悪い機体だ...、さっきまでの気持ちの良い赤は無くなり、代わりに色の悪い紫色の機体が顔をのぞかせている。
 いや、本当に顔をのぞかせていた。
 さっきまで三輪車だったソレは、人型の形となり、腕についた無数の車輪をギリギリと鳴らして入た。

「さあ、第二幕の始まりだ...、お前を殺すためならば、この身をも悪魔に譲り渡そう...」

 タクヤの右手が黒く変色していくのが分かる。

「タクヤ...お前...悪魔と契約したのか!?」

 ユウトは知っていた、悪魔と契約した者は強大な力を得る代わりに、その身の一部を差し出す。
 彼は右手を差し出したのだろう、黒い腕からは赤色の瞳が俺達の方を見てくる。

「なんて悍ましい...」

 カナメがひきつるような表情でその腕の感想を述べる。
 聖職者である彼女にとって、悪魔と契約した人間は不快なのだろう、さっきまでとタクヤを見る目が違う。
 まるでただの魔物を見るような目に変貌していた。

「けれど...、人でないのであれば消し去ることに、理由はないですね」

 彼女が冷徹な目をしているのが分かる。
 俺はその目をみると少し引いたが、今は目の前のタクヤを止めることに集中する。

「これは強敵そうだな...、3万8千ゴールドじゃ割に合わないな!ユウト!」

「分かった分かった!、もうちょいおまけしてやるから手伝え!」

「そうこなくっちゃな!」

 俺は報酬が上乗せされたので俄然やる気が出てきた。
 さ~てどうやってこの二体を倒すかな...。
 俺は身構えながら、頭を働かせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...