女体化した勇者と魔王が一緒に旅するようになった理由

水の大陸編

孤独スキル「破天剛逸」

　俺は馬車の急ブレーキで目を覚ました。

「なんだ！親父！！、急にブレーキかけんな！」

　俺が声を荒げて親父に文句を言ったが、親父から言葉が返ってこなかったので、おかしく思い竜車から顔を出した。
　すると、竜車が止まった原因が分かった。
　ドロドロに溶けた魔物が何匹か道を塞いでいたのだ。
　確かにこれではこの道を進めないだろう。

「嬢ちゃんすまんが道を変えてもいいか？」

　そう聞かれたので俺は「ああ」と答えようとした瞬間！。
　魔物がいつのまにか親父の横に瞬間移動してきていた。
　あまりに突然すぎる出来事に親父は成すすべがない。
　ドロドロに溶けた手を口に入れられて息ができないようだ。
　親父がもがいているのを見ると、流石に黙って見ることはできなくなる。
　俺は体が勝手に動いていた。
　ドロドロの塊を無理やり引っこ抜いて放り投げた。
　彼は息を荒げながら、俺を見てきた。

「嬢ちゃんは一体...」

「なあに...、ちょっと昔まで勇者していた者さ...」

　ドロドロの魔物たちは俺を見ると一斉にかかってきたが、今の俺ならばこの程度の相手は敵ではない。
　アウスとの死闘を繰り広げたおかげか、俺の固有スキルである孤独のスキルを取り戻したからだ。
　とはいえ、上級のスキルはレベルが足りず解放されていない為、下位のスキルしか使えないのだが充分だ。
　ひぃ...ふぅ...みぃ...、全部で10体か...、見えるやつはな！
　俺は竜車の隙間に擬態している魔物に電撃を放った。
　親父は一瞬怒鳴ったが、黒焦げになった魔物の存在に気がつくと黙ってしまう。
　俺は残りの10体を一人で相手にしなければならないが、レベル差が10もないので余裕だ。
　所詮今回の相手は魔物だ。
　前回のアウスのように自分で行動を一手一手適切に選びながら、瞬時に切り替えてくるような相手ではない。
　俺は深呼吸をすると小さく呟いた。

「孤独スキル、破天剛逸！！」

　破天剛逸の能力は、パーティが自分一人の時、目を合わせた相手に与えるダメージを5倍にする能力だ。
　ただ、この能力は燃費がかなり悪いので、瞬時に戦闘を終わらせたい時にしか使わない。
　俺は魔物全部が見える竜車の上に立ち10匹全部を目線の中に入れてから範囲攻撃の電撃魔法を扱う。

「電撃魔法シヴィリャー！！」

　俺は大声を上げながら呪文名を唱える。
　凄まじい電撃魔物達に伝わり、激しく電撃の波が渦巻いている。
　たった一回の攻撃で10匹の魔物を黒焦げにしてしまったのを見た親父は少し震えていた。
　そりゃそうだ...、普通は徒党を組んだ冒険者達でも苦戦するような数を相手に一人で片付けたのだから...。
　俺自身が分かっている...、自分の異常性に...。

「...あ...ありがとうな...」

「ああ...」

　俺は静かに呟くと、竜車に座り込み、再び寝る。

(だから嫌なんだ...、普通の人間の前で戦うのは...)

　苦い記憶を思い出しながら、俺は眠った。