女体化した勇者と魔王が一緒に旅するようになった理由

火の大陸編

不穏な空気

「なぜだ...、なぜザーク様はあのような失敗作品に情をかけるのか...」

　私にはわからない、だってアレは...。

「メイシス様！、失礼します」

　ハキハキとした声で私の部屋に入ってくる青髪のメイド。

「アウスか...、そういえば褒美をまだ渡していなかったな...」

　いつもはここまでしっかりとした言動をとるような性格の彼女ではないのだが、ご褒美を貰えなくなるのは避けたいのだろう。
　見え見えの演技に私は苦笑しながら褒美を渡す。

「これが例の物だ、受け取れ」

　私は紙切れを渡す。
　それを見た彼女は不服そうに私を睨んできたので睨み返した。

「どうした？、それでは不服かね？」

「ええ、紙切れに用はないのだけれど...」

　緊迫した空気の中、その空気を壊すように私はため息を吐く。

「確かにあなたの行動は我ら魔族にとって大きな前進となった...、龍の守護者の1人を亡き者としたのだからな...、だがなアウスよ...、もう一匹いたのだろう？龍の子が...」

　彼女は眉をひそめながらも、こちらをしっかりと見ている。

「なんのことかしら？、私は言われただけの仕事をしただけなのだけれど...」

　自信の表れなのか、凛とした態度を崩さない。

「...、まあ良い...、守護者からあぶれた龍の子がどうなろうと構わないのだが、若干の不安要素を潰してくれたのであれば、褒美を良くしてやっても良かったのだがな」

「それはそれは...、今後は気をつけて行動しますわ...」

　お互いに譲らない交渉をし続けるが、これ以上何もくれてやるつもりはない。
　しばらくの間ゴネていた彼女だったが、私が折れないとわかると「ではこれで...」とだけ言いながら紙切れを受け取った後に、部屋から去って行った。

「アウスか...、食えない女よ...」

　彼女は私にとっていずれ障害になるかもしれない。
　今は奴の弱みを握っている私だが、実際に本気でやり合えばどちらが勝つかはわからない。
　ザーク様が成長なさるまでは、無駄な戦いは避けたい自分がいた。
　私は自室から窓の外を見ながら、一人佇んでいた。