86 / 169
火の大陸編
先輩
しおりを挟む
私はいつものように掃除をしていると、見慣れない人が城に入城してきたのを感じて迎え撃つ。
「誰ですか!」
私は武器を構えながらその人影を睨む。
青い髪が影でなびいた時に気がついた。
「アウス先輩...」
「ふふ...、覚えていてくれて嬉しいわ」
パッパッと指を開いては閉めて挨拶している。
私はムゥッと頰を膨らます。
この人は昔から苦手だ、なんでも私より上手だし、完璧にこなしてしまうので、私の存在意義がないように感じてしまうからだ。
メイドとしても私より格が上で、私は常にこの人と比べられる。
もしかしたら、この人がいるから私はメイシス様に怒られるのかもしれない。
私はこの人と比べられたら、失敗作品なのだから...。
「こちらです...」
私はとある部屋に彼女を連れ込み、彼女の着せ替えを済ませる。
「あら、随分早く着せ替えできるようになったのね...」
「はい、ザーク様のお召し物を毎日着せ替えておりますので」
簡素な言い方で彼女に答えると、人差し指を顔の前で構えて振りながら質問してくる。
「ザークっていうのは、今の魔王様かしら?」
「はい、先代の魔王様が亡くなられたので、今はザーク様が魔王候補の一人であります」
「ふ~ん...、まあ私では魔王になれないですし...、魔王に使えるメイド長として、そのザーク様には頑張ってもらわないと...、ところで...、メイシス様はどこかしら?」
メイド長用の少し豪華な服を、動き辛そうにひらひらさせているアウス。
その姿はどことなく子供っぽい。
私は心の中ではクスッと笑いながらも、表の表情には絶対に出さない。
「メイシス様は多忙ゆえに今は外出中です、先にザーク様にお会いになられてはどうでしょうか?」
私の提案に彼女はう~ん?、と考えるような素振りを見せる。
「まあ、そうね、ここにずっと居てもあなたを茶化すくらいしかできなさそうだし、ザーク様とやらに一度お会いしてみるのも一興ね...」
まだザークに忠誠を誓っていないアウスは、どこか彼女を見下しているような口調で話し続ける。
私は眉間にシワを寄せながらも、口調だけは丁寧にする。
「アウス様、こちらです...」
「はいはい、こっちね...」
おちゃらけた表情で私の方を見ながら進む彼女に不信感を抱いた。
いつもならこの辺で、私にいたずらを仕掛けてくるのがこの人のやり口なのだが、今日はそれがない。
少しは私のことをメイドとして扱い始めたのかなと思い、感慨深くしていると。
「あ、そっちは魔王様の部屋ではないと思うのだけれど」
「えっ?」
いつのまにか別の方向に進んでいる自分がいることに、彼女に注意されるまで全く気がつかなかった。
私が赤面していると、頭をポンポンっと叩かれて、静かに耳元で囁かれた。
「成長したのは着せ替えの速さだけかしらね...」
クスクス笑われた時には、もう恥ずかしさが頂点に達してしまい、何も言えない自分がそこに立っていた。
「誰ですか!」
私は武器を構えながらその人影を睨む。
青い髪が影でなびいた時に気がついた。
「アウス先輩...」
「ふふ...、覚えていてくれて嬉しいわ」
パッパッと指を開いては閉めて挨拶している。
私はムゥッと頰を膨らます。
この人は昔から苦手だ、なんでも私より上手だし、完璧にこなしてしまうので、私の存在意義がないように感じてしまうからだ。
メイドとしても私より格が上で、私は常にこの人と比べられる。
もしかしたら、この人がいるから私はメイシス様に怒られるのかもしれない。
私はこの人と比べられたら、失敗作品なのだから...。
「こちらです...」
私はとある部屋に彼女を連れ込み、彼女の着せ替えを済ませる。
「あら、随分早く着せ替えできるようになったのね...」
「はい、ザーク様のお召し物を毎日着せ替えておりますので」
簡素な言い方で彼女に答えると、人差し指を顔の前で構えて振りながら質問してくる。
「ザークっていうのは、今の魔王様かしら?」
「はい、先代の魔王様が亡くなられたので、今はザーク様が魔王候補の一人であります」
「ふ~ん...、まあ私では魔王になれないですし...、魔王に使えるメイド長として、そのザーク様には頑張ってもらわないと...、ところで...、メイシス様はどこかしら?」
メイド長用の少し豪華な服を、動き辛そうにひらひらさせているアウス。
その姿はどことなく子供っぽい。
私は心の中ではクスッと笑いながらも、表の表情には絶対に出さない。
「メイシス様は多忙ゆえに今は外出中です、先にザーク様にお会いになられてはどうでしょうか?」
私の提案に彼女はう~ん?、と考えるような素振りを見せる。
「まあ、そうね、ここにずっと居てもあなたを茶化すくらいしかできなさそうだし、ザーク様とやらに一度お会いしてみるのも一興ね...」
まだザークに忠誠を誓っていないアウスは、どこか彼女を見下しているような口調で話し続ける。
私は眉間にシワを寄せながらも、口調だけは丁寧にする。
「アウス様、こちらです...」
「はいはい、こっちね...」
おちゃらけた表情で私の方を見ながら進む彼女に不信感を抱いた。
いつもならこの辺で、私にいたずらを仕掛けてくるのがこの人のやり口なのだが、今日はそれがない。
少しは私のことをメイドとして扱い始めたのかなと思い、感慨深くしていると。
「あ、そっちは魔王様の部屋ではないと思うのだけれど」
「えっ?」
いつのまにか別の方向に進んでいる自分がいることに、彼女に注意されるまで全く気がつかなかった。
私が赤面していると、頭をポンポンっと叩かれて、静かに耳元で囁かれた。
「成長したのは着せ替えの速さだけかしらね...」
クスクス笑われた時には、もう恥ずかしさが頂点に達してしまい、何も言えない自分がそこに立っていた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話
トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。


調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる