女体化した勇者と魔王が一緒に旅するようになった理由

ルシェ(Twitter名はカイトGT)

文字の大きさ
上 下
75 / 169
火の大陸編

覚えてない方がいい...

しおりを挟む
 私はそこにいた。
 物心ついた時からお姉ちゃんと一緒。
 父さんも母さんもいなくて、姉妹で二人暮し。
 だから、二人で協力してこの巣を作った。
 人間の目に止まらない高い山脈を巣にして、姉妹仲良く暮らす。
 それだけで幸せだった。

「お姉ちゃん、一緒に体洗おう!」

「ん?、いいよアイカ!、綺麗にしようか」

 今のお姉ちゃんとは違い、少し男勝りな性格だったのを覚えている。
 今思うと、私がいたからお姉ちゃんはこうしないといけないと張り詰めていたのかもしれない。
 妹が頼れる姉を演じていたのかも...。
 そう思うと少し胸が締め付けられる。

「今日は海底ダコの掴み獲りしてきたから一緒に焼こうな!」

 お姉ちゃんのブレスは、巨大なタコを1発で美味しく焼いてくれた。
 私も一緒に咆哮を上げてブレスを吐くがお姉ちゃんのようにうまくできない。
 私がしょげていると、お姉ちゃんは私の頭をポンポン叩く。

「大丈夫だって!、アイカもきっといつかはこんくらいできるようになるって!」

 楽観的なお姉ちゃんの様子をみると、変な安心感があった。
 私は落ち着くと、急にお腹がぐぐ~と鳴り、タコの丸焼きの香ばしい匂いが鼻をつく。

「美味しそう~」

 私は目を輝かせてタコにかぶりつく。
 お姉ちゃんが作ってくれる物は大抵美味しいかった。
 タコの丸焼き、イノシシの丸焼き、キノコスープに果実のサラダ。
 どれも思い出深い物ばかりだ。
 たまに失敗するけれど、それも思い出だ。
 こういう日がこれからも続いていくと思っていた...。
 だけど、転機は急に訪れた。
 火の大陸に雪が降った日。
 普通は雪など降らないこの地に、それは起こった。
 私とお姉ちゃんがブレスの炎で暖を取っていると、龍の巣に見慣れない人間が訪れた。
 怯える私を見たお姉ちゃんは「隠れてなさい」と静かに呟いて、私を食べ残しのクズ底に落とした。
 クズ底から話声を聴いていると、なにやら物騒な物音がして辺りが熱気に包まれた。
 お姉ちゃんが龍化したのだ。
 それと同時に冷気が大気を汚染し、一瞬でその熱気はかき消された、と同時に物音が外の方へと遠のいていく。
 私は慌てて龍化し、龍の巣の崖まで移動すると、そこから見えたのは海上に落ちていく真紅のドラゴンと、それを見つめる一人の人間だった。
 その人間は、無数の氷塊を作り出して構える。
 そのまま、落ちていくお姉ちゃんに何度もそれを叩きつけていた。
 その時のお姉ちゃんは、爪が割れ、ツノが折れて、尻尾も切断されていた。
 見るからに痛々しい姿となって、血しぶきをあげながら海面に叩きつけられたお姉ちゃんは二度と浮かび上がってくることはなかった。
 私は怒りの形相でその人間を睨みつけていたが、レベルの違いに気がついていたので何もできなかった。
 後日海底をくまなく探したが、お姉ちゃんの遺体は見つからず、途方に暮れていた。

「なぜ?どうしてアイカ達がこんな目に合わないといけないの?、何にも悪いことしていないのに...」

 怒りをぶつけるべきその人間はそれ以降現れはしなかった。
 その後から、私の人間に対する怒りと憎しみが増していくのを感じていたが、私のとった行動は傍観だった。
 もうなにもしたくなかった、このまま年老いて一人で死ぬことが最後の幸福に思えたからだ。
 再びお姉ちゃんが私達の巣の近くに現れるまでは...。
 懐かしい存在感を感じとった私は、龍化しながら空へと羽ばたいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...