女体化した勇者と魔王が一緒に旅するようになった理由

ルシェ(Twitter名はカイトGT)

文字の大きさ
上 下
62 / 169
火の大陸編

優しさ...

しおりを挟む
 ザーク様が私の豪炎の中を歩いて、こっちに向かって来ている。
 私の炎が彼女に見境なく襲いかかっているのを見て、急いで炎を止めようとするが、止め方が分からない。
 私が手間取っている間にも炎は彼女を飲み込んでいく。

「止まれ!...止まって!...、お願いだから...、誰かこの炎を止めて!」

 私の心からの叫びは誰にも届かない、ただ轟音の中へと消え去っていくだけだ。
 こちらに一歩ずつ進んでくる彼女の姿がどんどん痛々しいものになる。
 彼女の傷を負う姿が見ていられなくなってくる。

「ザーク様お願いします、それ以上近づかないでください!、ザーク様が傷つくことが耐えられません!」

 悲痛な声で叫ぶが彼女は歩みを止めない。
 おそらく聞こえていないのだろう。
 腕が黒焦げになろうとも構わずこちらに突き進んでくる彼女の表情は、何かを見据えているようだった。
 どんどん火傷が酷くなっていく彼女の姿に目を向けられなくなる。
 自分の炎が彼女を傷つけている事実に目を背けてしまう。
 その場に座り込み下を向き、「来ないで」と呟く。

「ここまで来たよ...」

 彼女の声が聞こえた。
 先程まで炎の轟音しか聞こえなかったのに、はっきりと彼女の声が聞こえた。
 私はハッとして声の方を見る。
 炎の壁を突き進んだ、彼女の笑顔が眩しいほどに私を突き刺していた。

「ザーク...様...」

 私は思わずその名前を口にした。
 あまりにも自然に口にしたので、彼女は笑っていた。

「ザークだよ、アオ」

 炎の中でも平然と会話する彼女だったが、平気なはずがない。
 なぜなら、彼女の腕は炎症を起こし、真っ赤に腫れていたのだ。
 あの豪炎の中を身一つで歩いて来たのだ、絶命してもおかしくはない状況だ。
 私は嬉しさの感情を押し殺して、彼女に問いただした。

「なぜ、ここまで来たのですか?、命を失ってもおかしくないこの炎の中を...」

 彼女は不思議そうな顔で私を見てくる。

「だって、アオが泣いていたから、気になって来ちゃった」

「私が....?」

 気がついていなかった、確かに私の両目から涙が溢れている。
 それを彼女が人差し指で拭ってくれた。

「はい、これで大丈夫...」

 その言葉をきいた瞬間、先程の炎は跡形もなく消え去ったと同時に、私の体は地面に倒れ伏した...。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...