女体化した勇者と魔王が一緒に旅するようになった理由

ルシェ(Twitter名はカイトGT)

文字の大きさ
上 下
9 / 169
始まりの大陸編

もう一人の勇者

しおりを挟む
 俺たちは昼食を終えて店を出る。
 店員たちのヒソヒソ話が耳に残っていたが何も聞こえないふりをする。
 魔王がお子様ランチの旗を掲げ、レスカに見て見て~とかまってちゃんのように話しかけている。
 ほのぼのとした風景に心を癒されながらも、俺はそろそろこの町を出て行こうと考えていた。
 真剣な表情でレスカの方を向いて打ち解ける。

「レスカ、今の俺ははっきり言って弱い、スライムをあの時間で10匹程度しか狩れないくらいに...、それでもまだ、俺のことを好きでいてくれるのか?」

 レスカはその言葉に疑問を抱いていた。

「ユウリが何を考えているかはわかりませんけど、この気持ちに変わりはありません...」

 レスカの言葉を聞いた魔王が二人を茶化し始める。

「ヒューヒュー、お熱い!」

「言ってろ!」

 不機嫌になりながら俺は前を見て歩き始める。
 しばらく歩くと見慣れたやつに出くわす。
 黒い髪に男の時の俺と同じ身長。
 青い服に剣を携えている、そいつの名前はユウト。
 ユウトは俺と同じ勇者の一人なのだが、俺とは馬が合わずいつも喧嘩していた。

「ユウト...」

 俺は思わず声が漏れてしまいユウトに気づかれた。

「誰だ?お前は...」

 不審な目を向けられて黙ってしまう。
 嫌な沈黙を破るように魔王があっけらかんに「勇者よ!、この旗を見よ!」と何度も言ってきたのでユウトの疑惑の濃度が高くなっていく。

「勇者?、女の勇者など聞いたこともないぞ...、それに金髪?」

 俺は密かにユウトのステータスを調べる。
 レベルは56だった。
 レベルMAXの時の俺ならば何も恐れるに足りない相手だが、今のままではやばい。
 嫌な汗が額から流れ落ちていくのを感じる。
 もしも俺がユウリだとバレたらスッゲーバカにされると思うと腹ただしい。
 この場は穏便に済ませようとそそくさと逃げるそぶりをみせるが。

「ユウリ!、マオちゃんがこんなに構って欲しそうにしているのに無視をするのはいけないと思いますよ!」

 実名をしっかりと言われむず痒い気持ちになる。

(流石にバレるよね~...、何してくれとんじゃレスカァ~!!)

「ユウリ?、お前まさか....!」

(ほらきた!、ヤバイぞ~ヤバイぞ~、どうする、どうすりゃこの場を回避できる...)

 頭をフル回転させて考えるが特に打てる手は思い浮かばない。
 だが、意外にもユウトは笑っていた。

「ははは、お前ユウリのファンか何かか?、やめとけ、あいつは思っている以上にひどい奴だぞ」

(バレてない!?、意外に鈍感で助かった~!)

 なんかイラつく言い方だが黙る。

「あいつは酷い効率厨でな、それに耐えられないからみんな離れていく、結局あいつは一人で魔王を倒したみたいだし、よくやるよな、一人ぼっちで魔王まで倒しちまうなんて...ぷっ」

 今にも吹き出しそうなユウトの顔を殴りたいが、気になる言葉を聞いたので質問する。

「俺が魔王を倒したって、どこから聞いた?」

「ああ、今町どころか世界中に広まっている、なんでも一人で魔王を倒したユウリはそのまま行方をくらませたらしい、全く、一度くらい姿を表せればいいのに...」

「余は負けてないぞ!、あれは引き分けだ!」

 魔王が無理に話に入ってきたので話がこじれる。

「なんだこのチビは?それにお前さっきからなんかユウリに似てるぞ、あいつ特有のウザさを感じる」

(初対面のやつにウザいとかいうか普通よ~)

 だがもうそんな噂が流れているのは意外だった。
 案外早く世に出回ったなと思いながら俺はユウトの顔をまじまじと見つめる。
 ユウトは顔を見つめられると異様に嫌な顔をしてくる。

「あんまりジロジロ見ないでくれ、なんかあんた見てるとユウリを思い出す」

 ユウトは俺が煩わしかったのかさっさと行ってしまった。

「あ~!!逃げた~!!、余は負けてないからな!絶対に負けてはないからな~!!」

 魔王は息を荒げながらユウトの方を睨んでいる。
 グルルと唸り声を上た魔王だがもうユウトはいない。
 子供がなんか騒いでる程度にしか思われていない。
 まさかこの幼女が世界を滅ぼしかけた魔王だとは夢にも思っていないのだろう。

(魔王はもう弱体化しているのでもう世界を脅かす存在はいないと思っていたが、なんか嫌な雰囲気)

 勇者の感というやつだろうか?。
 それともこの魔王が思ったより弱かったので拍子抜けしただけなかはわからないが、何かまだ大事なことを忘れている気がす...。

「そうだ!、家の鍵閉め忘れたんだ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...