17 / 19
孤児院と農家のバイト
しおりを挟む
レトロがパン屋の次に選んだ働き口は『農家の手伝い』であった。
主に収穫から販売までの手伝いである。
カーデナから更に東にある広い農村地帯では年々、若者が街へ働きに行ってしまうので過疎化が進んでいた。
レトロが現在、世話になっている老夫婦にも娘が一人いたが結婚して今は街の方へ言ってしまっている。
年に数度、孫と一緒に帰ってきてはくれるものの、毎年彼らが街へ戻るたびに寂しさが押し寄せてきた。笑顔で見送るが心の中では泣いていた。
そんな折にやってきたのがレトロである。
二人は最初、昔知り合ったパン屋の娘の知人の紹介できたと言うレトロが恐らく自分達の娘よりも若いであろう事、その背に黒い大剣を背負っていたことから警戒していたものの、いざ仕事を手伝わせるとその働きっぷりに老夫婦の考えは真逆のものへと変わった。
果たしてこんなに若い娘に力仕事がこなせるのか、と言う不安は初日の一時間で消えてなくなった。
止まる事なく動き回り野菜を収穫しては運び、黙って黙々と汗を流す。
そしてまぁこれがよく食べる。
その細い体のどこに入るのか不思議なほど、与えれば与えられるがままにするするとよく食べた。
年寄りはたくさん食べさせたがるし、沢山食べるのを見るのが好きだ。
一日目で、すっかりレトロは老夫婦に気に入られていた。
「……はぁ」
そんな近況を聞いて、ため息とも、相槌とも取れる生返事をしたフローラは、隣に子供を膝に乗せで本を読んでいるレトロを見た。
「おうじさまは、いいました。わるいドラゴンめ、ひめをかえせ!」
「おぉ……」
「おうじさまは、けんをふりかざし、けんめいにたたかいます」
「これ最終どっち勝つの? 王子?」
「もー! いまよんでるからしずかにして!」
「はいはい」
フローラは膝の上に座らせた子供に本を読んでもらっているレトロに、また出そうになったため息をなんとか飲み込んだ。
そう何度も子供達の前でため息などついてはいられない。
「あの、レトロ……その、元気そうでよかったわ」
まぁ、しかし、こうして旧友と無事に再開できたのは純粋に喜ばしい事だった。
「フローラも相変わらず聖女だね」
「……もう、やめてください。私はそんな大層なものじゃありませんよ」
そう言ってフローラは肩を竦める。
レトロは子供を膝から下ろして、他の子供達の元へ駆けていく背を見送りながら思い出したように言った。
「そういえばルーファスに会ったよ」
ルーファスとラド、そして剛竜の逆鱗について話せば彼女の顔から次第に笑顔が消える。
最後まで聞き終わった後で「そうですか」とフローラは重く口を開いた。
「戦争が終わっても、まだ子供が巻き込まれるなんて……」
「魔石についてはまだ何も分かってないんだって」
「……」
悲痛に顔を歪ませるフローラ。
自身も孤児だった彼女にとって、戦で子供が親を亡くすことほど辛く胸を痛めることはない。
暫く黙り込んでいた彼女だったが、やがて悪い考えを振り切るように頭を振ると空を見上げて大きく伸びをした。
「あーあ、全く……『騎士王』様は何をしているのかしら」
「今度会ったらキツく言っておかないとね!」
冗談めかして明るくそう言った彼女にレトロは少し笑って「そうだね」と頷いた。
主に収穫から販売までの手伝いである。
カーデナから更に東にある広い農村地帯では年々、若者が街へ働きに行ってしまうので過疎化が進んでいた。
レトロが現在、世話になっている老夫婦にも娘が一人いたが結婚して今は街の方へ言ってしまっている。
年に数度、孫と一緒に帰ってきてはくれるものの、毎年彼らが街へ戻るたびに寂しさが押し寄せてきた。笑顔で見送るが心の中では泣いていた。
そんな折にやってきたのがレトロである。
二人は最初、昔知り合ったパン屋の娘の知人の紹介できたと言うレトロが恐らく自分達の娘よりも若いであろう事、その背に黒い大剣を背負っていたことから警戒していたものの、いざ仕事を手伝わせるとその働きっぷりに老夫婦の考えは真逆のものへと変わった。
果たしてこんなに若い娘に力仕事がこなせるのか、と言う不安は初日の一時間で消えてなくなった。
止まる事なく動き回り野菜を収穫しては運び、黙って黙々と汗を流す。
そしてまぁこれがよく食べる。
その細い体のどこに入るのか不思議なほど、与えれば与えられるがままにするするとよく食べた。
年寄りはたくさん食べさせたがるし、沢山食べるのを見るのが好きだ。
一日目で、すっかりレトロは老夫婦に気に入られていた。
「……はぁ」
そんな近況を聞いて、ため息とも、相槌とも取れる生返事をしたフローラは、隣に子供を膝に乗せで本を読んでいるレトロを見た。
「おうじさまは、いいました。わるいドラゴンめ、ひめをかえせ!」
「おぉ……」
「おうじさまは、けんをふりかざし、けんめいにたたかいます」
「これ最終どっち勝つの? 王子?」
「もー! いまよんでるからしずかにして!」
「はいはい」
フローラは膝の上に座らせた子供に本を読んでもらっているレトロに、また出そうになったため息をなんとか飲み込んだ。
そう何度も子供達の前でため息などついてはいられない。
「あの、レトロ……その、元気そうでよかったわ」
まぁ、しかし、こうして旧友と無事に再開できたのは純粋に喜ばしい事だった。
「フローラも相変わらず聖女だね」
「……もう、やめてください。私はそんな大層なものじゃありませんよ」
そう言ってフローラは肩を竦める。
レトロは子供を膝から下ろして、他の子供達の元へ駆けていく背を見送りながら思い出したように言った。
「そういえばルーファスに会ったよ」
ルーファスとラド、そして剛竜の逆鱗について話せば彼女の顔から次第に笑顔が消える。
最後まで聞き終わった後で「そうですか」とフローラは重く口を開いた。
「戦争が終わっても、まだ子供が巻き込まれるなんて……」
「魔石についてはまだ何も分かってないんだって」
「……」
悲痛に顔を歪ませるフローラ。
自身も孤児だった彼女にとって、戦で子供が親を亡くすことほど辛く胸を痛めることはない。
暫く黙り込んでいた彼女だったが、やがて悪い考えを振り切るように頭を振ると空を見上げて大きく伸びをした。
「あーあ、全く……『騎士王』様は何をしているのかしら」
「今度会ったらキツく言っておかないとね!」
冗談めかして明るくそう言った彼女にレトロは少し笑って「そうだね」と頷いた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
星の記憶
鳳聖院 雀羅
ファンタジー
宇宙の精神とは、そして星の意思とは…
日本神話 、北欧神話、ギリシャ神話、 エジプト神話、 旧新聖書創世記 など世界中の神話や伝承等を、融合させ、独特な世界観で、謎が謎を呼ぶSFファンタジーです
人類が抱える大きな課題と試練
【神】=【『人』】=【魔】 の複雑に絡み合う壮大なるギャラクシーファンタジーです
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる