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ラド
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薄汚れた服を着た青年の耳にはルーファスと同じく薄茶色の獣の耳がついていた。
手足は細く、レトロが力を入れて握れば折れてしまいそうなほどに細い。
怪我をしているのか首と足に包帯が巻かれているが、それも汚れていて衛生的とは言えない。
だが黄緑色の目はギラギラと生命力に満ちており、大人と子供という点を抜きにしても力の差は圧倒的にも関わらず臆する事なく、自身を見下ろすレトロとルーファス睨みつけている。
「その子は?」
「アジトの近くでコソコソと俺達の様子を伺っていたので、お前がいなくなった後で捕まえた」
言いながら、ルーファスは「着いてこい」と顎で今しがた自分が出てきた路地裏を指したのでレトロは黙って着いていく。
それから暫く歩いて、倉庫のような建物に辿り着き躊躇う事なくルーファスは扉を開ける。
中には広く、木箱が幾つか積まれていた。
道中あまりに騒ぐので人目に付くという理由で、猿轡をされた少年を壁際の木箱の上に下ろすと「騒ぐなよ」と念押ししてからルーファスは猿轡を外してやった。
意外にも少年は素直に黙っている。
しかし、隙を狙っているのか目は辺りを具に観察していた。
「質問だ、あそこで何をしていた」
「……うるせーオッサン、誰が言うかよ」
「……俺は”オッサン”じゃない」
「そうだぞ少年、オッサンじゃなくて”おじさん”だ」
「”おじさん”でもない。レトロ、お前ちょっと黙ってろ」
「連れて来たのそっちじゃ……ん?」
「どうした」
「この子、首の所に何かついてるよ」
トントンと自身の首をつつきながら位置を示す。
首の所の解けかけている包帯から黒い形の不自然な痣が見えた。
「これは──」
ルーファスは包帯に手をかけそれを解いていく。
その間、少年は先程暴れていたのが嘘のように大人しい。
包帯を解き終えたルーファスの顔が途端に険しいものに変わった。
「小僧、質問だ。これは誰に付けられた」
子供は答えない。
だが返事の代わりにその目にじわじわと涙を浮かべて、悔しそうに唇を噛んでいる。
「あの盗賊か」
「っうぅ……!」
その子供が頷くのに合わせて涙がポタポタと地面を濡らした。
「付けられた?」
未だによく状況を理解していないレトロが屈んで子供の首元を覗き込む。
そこにあったのは痣ではなく黒い文字だった。当然タトゥーの類ではない。
首の周りをグルリと一周するように文字と数字が刻まれているそれに、レトロも眉を顰めた。
刻まれた文字は呪文の類で魔法に専門的な知識のないレトロでもそれがあまり良いものではないことは一目瞭然だった。
「服従の魔法……別名『奴隷の首輪』だ」
「違法じゃん」
「そうだ、トラヴァス王国では奴隷は禁止されている」
「この件、思った以上に奥が深そうだ」そう言いながら、立ち上がったルーファスは少し考える素振りを見せる。
「きみ、名前は?」
レトロが子供の首の包帯を不器用なりに頑張って巻き直しながら聞けば、子供は警戒心が解けたのか鼻を啜りながら小さな声で「ラド」とだけ答えた。
「そっか、ラドは私達に何か用があったの?」
続けて尋ねてみるが、ラドと名乗った少年は再び身を硬くして黙ってしまう。
「お前にその魔法をかけたのは豪竜の逆鱗の奴等だな」
「えっ! なん、何で知って」
「当たりか」
「!!」
どうしたものかとレトロが頭を悩ませていると、何か考えていたルーファスの言葉に目を丸くして勢いよく顔を上げる。しかし鎌を掛けられたのだと気づくと再びルーファスを睨みつけた。
当然、子供の威嚇など痛くも痒くもないルーファスは続けた。
「最近巷で魔石と魔石を使った武器の窃盗が相次いでいる。毎回、盗まれる商品の大きさや量からして単独犯だ。そしてあまり大きな物は盗まれていない……犯人はお前だな」
そこまで聞いてラドはフンとルーファスを鼻で笑い、挑発するような口調で挑発するような口調で話し始めた。
「だったら何だよ、オレを騎士団にさっさと引き渡せばいいだろ」
「いや、それにはまだ早い」
「はぁ?」
「ラド、お前のその首の物も問題だ。大方、それのせいで逆らえないんだろう」
「……でも」
「事情を話せ、情状酌量の余地はある」
「……」
ルーファスの言葉に一瞬何かを言いかけたラドだったが、僅かに口を開閉するだけで後は黙ってしまった。
暫く二人のやり取りを黙って静観していたレトロだったが、徐にラドの肩に手を置いた。
「助けて欲しいから、私達の事つけてたんじゃないの」
その言葉に驚いたような顔をしたラド、その瞳に僅かに光が差したがそれでも悔しそうに力なく首を横に振る。
(あれ、失敗した?)
レトロが気まずそうに手を下ろそうとした時、ラドは蚊の鳴くような声で「無理だよ」と言う。
「無理? 何がだ」
その言葉を拾ったルーファスが聞き返すと、ラドは視線を力なく地面に落としたまま続ける。
「……物陰から見てたから、おじさんが強いのはわかるけど……アイツらには勝てないよ」
おじさん呼びに眉を顰めつつルーファスは黙って言葉の続きを待った。
「いやいや、でもルーファス結構強いよ?」
このラドという子供は二人が六大討滅者である事を知らないのだ。
だから勝てないと思っているのだろう。そう思ったレトロが補足するように言ったがラドの目は暗いまま。
「……不安要素があるなら言ってみろ」
ルーファスの言葉に、ラドは二人を交互に見た後で言った。
「豪竜の逆鱗って名前の由来、知ってる……?」
手足は細く、レトロが力を入れて握れば折れてしまいそうなほどに細い。
怪我をしているのか首と足に包帯が巻かれているが、それも汚れていて衛生的とは言えない。
だが黄緑色の目はギラギラと生命力に満ちており、大人と子供という点を抜きにしても力の差は圧倒的にも関わらず臆する事なく、自身を見下ろすレトロとルーファス睨みつけている。
「その子は?」
「アジトの近くでコソコソと俺達の様子を伺っていたので、お前がいなくなった後で捕まえた」
言いながら、ルーファスは「着いてこい」と顎で今しがた自分が出てきた路地裏を指したのでレトロは黙って着いていく。
それから暫く歩いて、倉庫のような建物に辿り着き躊躇う事なくルーファスは扉を開ける。
中には広く、木箱が幾つか積まれていた。
道中あまりに騒ぐので人目に付くという理由で、猿轡をされた少年を壁際の木箱の上に下ろすと「騒ぐなよ」と念押ししてからルーファスは猿轡を外してやった。
意外にも少年は素直に黙っている。
しかし、隙を狙っているのか目は辺りを具に観察していた。
「質問だ、あそこで何をしていた」
「……うるせーオッサン、誰が言うかよ」
「……俺は”オッサン”じゃない」
「そうだぞ少年、オッサンじゃなくて”おじさん”だ」
「”おじさん”でもない。レトロ、お前ちょっと黙ってろ」
「連れて来たのそっちじゃ……ん?」
「どうした」
「この子、首の所に何かついてるよ」
トントンと自身の首をつつきながら位置を示す。
首の所の解けかけている包帯から黒い形の不自然な痣が見えた。
「これは──」
ルーファスは包帯に手をかけそれを解いていく。
その間、少年は先程暴れていたのが嘘のように大人しい。
包帯を解き終えたルーファスの顔が途端に険しいものに変わった。
「小僧、質問だ。これは誰に付けられた」
子供は答えない。
だが返事の代わりにその目にじわじわと涙を浮かべて、悔しそうに唇を噛んでいる。
「あの盗賊か」
「っうぅ……!」
その子供が頷くのに合わせて涙がポタポタと地面を濡らした。
「付けられた?」
未だによく状況を理解していないレトロが屈んで子供の首元を覗き込む。
そこにあったのは痣ではなく黒い文字だった。当然タトゥーの類ではない。
首の周りをグルリと一周するように文字と数字が刻まれているそれに、レトロも眉を顰めた。
刻まれた文字は呪文の類で魔法に専門的な知識のないレトロでもそれがあまり良いものではないことは一目瞭然だった。
「服従の魔法……別名『奴隷の首輪』だ」
「違法じゃん」
「そうだ、トラヴァス王国では奴隷は禁止されている」
「この件、思った以上に奥が深そうだ」そう言いながら、立ち上がったルーファスは少し考える素振りを見せる。
「きみ、名前は?」
レトロが子供の首の包帯を不器用なりに頑張って巻き直しながら聞けば、子供は警戒心が解けたのか鼻を啜りながら小さな声で「ラド」とだけ答えた。
「そっか、ラドは私達に何か用があったの?」
続けて尋ねてみるが、ラドと名乗った少年は再び身を硬くして黙ってしまう。
「お前にその魔法をかけたのは豪竜の逆鱗の奴等だな」
「えっ! なん、何で知って」
「当たりか」
「!!」
どうしたものかとレトロが頭を悩ませていると、何か考えていたルーファスの言葉に目を丸くして勢いよく顔を上げる。しかし鎌を掛けられたのだと気づくと再びルーファスを睨みつけた。
当然、子供の威嚇など痛くも痒くもないルーファスは続けた。
「最近巷で魔石と魔石を使った武器の窃盗が相次いでいる。毎回、盗まれる商品の大きさや量からして単独犯だ。そしてあまり大きな物は盗まれていない……犯人はお前だな」
そこまで聞いてラドはフンとルーファスを鼻で笑い、挑発するような口調で挑発するような口調で話し始めた。
「だったら何だよ、オレを騎士団にさっさと引き渡せばいいだろ」
「いや、それにはまだ早い」
「はぁ?」
「ラド、お前のその首の物も問題だ。大方、それのせいで逆らえないんだろう」
「……でも」
「事情を話せ、情状酌量の余地はある」
「……」
ルーファスの言葉に一瞬何かを言いかけたラドだったが、僅かに口を開閉するだけで後は黙ってしまった。
暫く二人のやり取りを黙って静観していたレトロだったが、徐にラドの肩に手を置いた。
「助けて欲しいから、私達の事つけてたんじゃないの」
その言葉に驚いたような顔をしたラド、その瞳に僅かに光が差したがそれでも悔しそうに力なく首を横に振る。
(あれ、失敗した?)
レトロが気まずそうに手を下ろそうとした時、ラドは蚊の鳴くような声で「無理だよ」と言う。
「無理? 何がだ」
その言葉を拾ったルーファスが聞き返すと、ラドは視線を力なく地面に落としたまま続ける。
「……物陰から見てたから、おじさんが強いのはわかるけど……アイツらには勝てないよ」
おじさん呼びに眉を顰めつつルーファスは黙って言葉の続きを待った。
「いやいや、でもルーファス結構強いよ?」
このラドという子供は二人が六大討滅者である事を知らないのだ。
だから勝てないと思っているのだろう。そう思ったレトロが補足するように言ったがラドの目は暗いまま。
「……不安要素があるなら言ってみろ」
ルーファスの言葉に、ラドは二人を交互に見た後で言った。
「豪竜の逆鱗って名前の由来、知ってる……?」
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