偽りの恋人達

胸の轟

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「アニュス、また暫く留守にしなければならないんだ。」
 
「えぇえーっ、嫌だ!行かないてお父様!お父様が居ないと淋しいの!離れたくないの!」
 
「そういうわけにはいかないんだ。・・・すまないねアニュス。皆の言うことはちゃんと聞いて良い子にしてておくれ。」
 

 散々駄々をこねる相手を宥めすかし、部屋を後にする。

留守にすると言えばそれは決定事項で、覆ることなどないと、いい加減学習しろと怒鳴り付けてやりたい。やらないが。

実際は“やれない”というのが正しいが。

そんなことをすれば苦労が水の泡というものだ。




長い廊下を進み、隠し扉を通り、枝分かれした先のとあるドアをノックする。


「アグヌス、居るかい?」
「はい!」


元気の良い声と同時にドアが勢いよく開かれた。

「父上!お帰りなさい!」


瞳はキラキラと輝き、嬉しさのあまり飛びかかってきそうな姿は、まるで主人の帰りを今か今かと待っていた飼い犬のようだ。


「ただいま。私が留守の間、アグヌスは良い子でいたかい?」

「勿論です!」
「何をして過ごしていたんだい?」
「大半は書庫で本を読み過ごしました。」

「アグヌスは本当に本が好きだな。」
「はい!本はいろんな知識が得られるので好きです。」
「そのうち全て読み終わってしまいそうだ。アグヌスのために、新しい本を後で補充するように言っておくとしよう。」

「父上、ありがとうごさいます!」

暫く談笑した後部屋を後にした。

やれやれ、新しい本を用意しなければならない。知識欲旺盛なのも考えものか。そんなもの得たところで何の意味もないというのに。
まったく仕事が増えて忙しくなるのが忌ま忌ましい。
いっそ本を禁止に──いや、それは駄目だ。目的に反することになる。

後で此方に都合の良い知識のみ書かれている本を、書庫担当者にまた書かせねば。



隠し扉から移動し、帰宅報告と留守報告を何ヵ所かしてまわる。

同じような境遇の仲間が居るのを知られない為とは言え、敷地が広すぎてそれぞれの子羊アニュス、アグヌスたちに会いに行くだけでも一苦労だ。

そんな一苦労を終え、既に疲れ果てている身体に鞭打ち、本業の装いに着替え、たまっていた仕事を済ませた後、遅い食事にやっとありつけた。


「なんだか疲れた顔してますね。」
「はは、そう見えるかい?いや、まぁ、実際疲れてるよ。」


今日のオススメ、鶏のクリーム煮定食をトレイに乗せ移動する。

「あ~、まぁ、大変ですもんね。とは言え私はそこまで関わる位置に居ないんで、大変なんだろうなぁくらいにしか分からないですけど。あ、提出した申請書はもうご覧に?」

「ああ、ここに来る前にさっと目は通した。新しいオウィスの補充だったか。」

「はい。地下のグループって、どうしても地上よりダメになりやすいじゃないですか。」
「まぁ、そうだな。育成環境を考えると仕方ないが。──料理の味付けが変わったように感じるが、料理人を変えたのかい?」

「ああ、所長はそういえば最近こっちで食事してませんものね。所員用の料理人が腰を痛めたとかで、臨時の子が入ったんですよ。料理長の知り合いらしいです。」

「なるほど。──そろそろグループAとDは頃合いだな。」
「そうですね。あ、それとグループBなのですが───」




食事をしながら一頻り話した後コーヒーで締める。

極上の味を生み出す愛情スパイスの為、子羊アグヌスたちの元へ向かうとしよう。







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家畜ペクス研究所
品質向上を目指し、ありとあらゆる状況下を生み出し飼育。

ある程度データ収集した優良種は出資している貴族へ。
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