35 / 50
≪6≫
しおりを挟む
「アニュス、また暫く留守にしなければならないんだ。」
「えぇえーっ、嫌だ!行かないてお父様!お父様が居ないと淋しいの!離れたくないの!」
「そういうわけにはいかないんだ。・・・すまないねアニュス。皆の言うことはちゃんと聞いて良い子にしてておくれ。」
散々駄々をこねる相手を宥めすかし、部屋を後にする。
留守にすると言えばそれは決定事項で、覆ることなどないと、いい加減学習しろと怒鳴り付けてやりたい。やらないが。
実際は“やれない”というのが正しいが。
そんなことをすれば苦労が水の泡というものだ。
長い廊下を進み、隠し扉を通り、枝分かれした先のとあるドアをノックする。
「アグヌス、居るかい?」
「はい!」
元気の良い声と同時にドアが勢いよく開かれた。
「父上!お帰りなさい!」
瞳はキラキラと輝き、嬉しさのあまり飛びかかってきそうな姿は、まるで主人の帰りを今か今かと待っていた飼い犬のようだ。
「ただいま。私が留守の間、アグヌスは良い子でいたかい?」
「勿論です!」
「何をして過ごしていたんだい?」
「大半は書庫で本を読み過ごしました。」
「アグヌスは本当に本が好きだな。」
「はい!本はいろんな知識が得られるので好きです。」
「そのうち全て読み終わってしまいそうだ。アグヌスのために、新しい本を後で補充するように言っておくとしよう。」
「父上、ありがとうごさいます!」
暫く談笑した後部屋を後にした。
やれやれ、新しい本を用意しなければならない。知識欲旺盛なのも考えものか。そんなもの得たところで何の意味もないというのに。
まったく仕事が増えて忙しくなるのが忌ま忌ましい。
いっそ本を禁止に──いや、それは駄目だ。目的に反することになる。
後で此方に都合の良い知識のみ書かれている本を、書庫担当者にまた書かせねば。
隠し扉から移動し、帰宅報告と留守報告を何ヵ所かしてまわる。
同じような境遇の仲間が居るのを知られない為とは言え、敷地が広すぎてそれぞれの子羊たちに会いに行くだけでも一苦労だ。
そんな一苦労を終え、既に疲れ果てている身体に鞭打ち、本業の装いに着替え、たまっていた仕事を済ませた後、遅い食事にやっとありつけた。
「なんだか疲れた顔してますね。」
「はは、そう見えるかい?いや、まぁ、実際疲れてるよ。」
今日のオススメ、鶏のクリーム煮定食をトレイに乗せ移動する。
「あ~、まぁ、大変ですもんね。とは言え私はそこまで関わる位置に居ないんで、大変なんだろうなぁくらいにしか分からないですけど。あ、提出した申請書はもうご覧に?」
「ああ、ここに来る前にさっと目は通した。新しい羊の補充だったか。」
「はい。地下のグループって、どうしても地上よりダメになりやすいじゃないですか。」
「まぁ、そうだな。育成環境を考えると仕方ないが。──料理の味付けが変わったように感じるが、料理人を変えたのかい?」
「ああ、所長はそういえば最近こっちで食事してませんものね。所員用の料理人が腰を痛めたとかで、臨時の子が入ったんですよ。料理長の知り合いらしいです。」
「なるほど。──そろそろグループAとDは頃合いだな。」
「そうですね。あ、それとグループBなのですが───」
食事をしながら一頻り話した後コーヒーで締める。
極上の味を生み出す愛情の為、子羊たちの元へ向かうとしよう。
***********
・家畜研究所
品質向上を目指し、ありとあらゆる状況下を生み出し飼育。
ある程度データ収集した優良種は出資している貴族へ。
「えぇえーっ、嫌だ!行かないてお父様!お父様が居ないと淋しいの!離れたくないの!」
「そういうわけにはいかないんだ。・・・すまないねアニュス。皆の言うことはちゃんと聞いて良い子にしてておくれ。」
散々駄々をこねる相手を宥めすかし、部屋を後にする。
留守にすると言えばそれは決定事項で、覆ることなどないと、いい加減学習しろと怒鳴り付けてやりたい。やらないが。
実際は“やれない”というのが正しいが。
そんなことをすれば苦労が水の泡というものだ。
長い廊下を進み、隠し扉を通り、枝分かれした先のとあるドアをノックする。
「アグヌス、居るかい?」
「はい!」
元気の良い声と同時にドアが勢いよく開かれた。
「父上!お帰りなさい!」
瞳はキラキラと輝き、嬉しさのあまり飛びかかってきそうな姿は、まるで主人の帰りを今か今かと待っていた飼い犬のようだ。
「ただいま。私が留守の間、アグヌスは良い子でいたかい?」
「勿論です!」
「何をして過ごしていたんだい?」
「大半は書庫で本を読み過ごしました。」
「アグヌスは本当に本が好きだな。」
「はい!本はいろんな知識が得られるので好きです。」
「そのうち全て読み終わってしまいそうだ。アグヌスのために、新しい本を後で補充するように言っておくとしよう。」
「父上、ありがとうごさいます!」
暫く談笑した後部屋を後にした。
やれやれ、新しい本を用意しなければならない。知識欲旺盛なのも考えものか。そんなもの得たところで何の意味もないというのに。
まったく仕事が増えて忙しくなるのが忌ま忌ましい。
いっそ本を禁止に──いや、それは駄目だ。目的に反することになる。
後で此方に都合の良い知識のみ書かれている本を、書庫担当者にまた書かせねば。
隠し扉から移動し、帰宅報告と留守報告を何ヵ所かしてまわる。
同じような境遇の仲間が居るのを知られない為とは言え、敷地が広すぎてそれぞれの子羊たちに会いに行くだけでも一苦労だ。
そんな一苦労を終え、既に疲れ果てている身体に鞭打ち、本業の装いに着替え、たまっていた仕事を済ませた後、遅い食事にやっとありつけた。
「なんだか疲れた顔してますね。」
「はは、そう見えるかい?いや、まぁ、実際疲れてるよ。」
今日のオススメ、鶏のクリーム煮定食をトレイに乗せ移動する。
「あ~、まぁ、大変ですもんね。とは言え私はそこまで関わる位置に居ないんで、大変なんだろうなぁくらいにしか分からないですけど。あ、提出した申請書はもうご覧に?」
「ああ、ここに来る前にさっと目は通した。新しい羊の補充だったか。」
「はい。地下のグループって、どうしても地上よりダメになりやすいじゃないですか。」
「まぁ、そうだな。育成環境を考えると仕方ないが。──料理の味付けが変わったように感じるが、料理人を変えたのかい?」
「ああ、所長はそういえば最近こっちで食事してませんものね。所員用の料理人が腰を痛めたとかで、臨時の子が入ったんですよ。料理長の知り合いらしいです。」
「なるほど。──そろそろグループAとDは頃合いだな。」
「そうですね。あ、それとグループBなのですが───」
食事をしながら一頻り話した後コーヒーで締める。
極上の味を生み出す愛情の為、子羊たちの元へ向かうとしよう。
***********
・家畜研究所
品質向上を目指し、ありとあらゆる状況下を生み出し飼育。
ある程度データ収集した優良種は出資している貴族へ。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる