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生温い日々にただ身を委ね≪1≫
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世界の何処かにあるという理想郷。
まことしやかに囁かれる話はどれも信じがたく、お伽噺と笑い飛ばすようなもので、まともに信じれば馬鹿を見る。
大方どこぞの新大陸を発見した強欲なヤツが、手柄をより多く得るために盛大に話を作ったに違いない。ーーとは言え、溺れるものはなんとやら、人間切羽詰まると何かにすがり付き、お伽噺だって信じてみたくなるってもんだ。
ああ、後悔先にたたず。
ほら見たことかと母ちゃんの呆れ顔が過る。
頭のイカれた野郎の口車に乗っかって、意気揚々と船で大海原に漕ぎ出せば、あっという間の大嵐。
海の藻屑と相成りました
.....
...
..
あの時は本当にダメかと思ったが、運良く通りすがりの船に拾われ命拾いした。
晴れ渡る空、白い雲。澄んだ空気を思いきり吸い込む。呼吸出来るって素晴らしい。生きてるって素晴らしい。
「ちょっとジブリール、何サボってんの。」
「いや、サボってるわけじゃないですって!ただ、ちょっと生きてるって素晴らしいなぁと思ってたんです。」
「ああ、そういや死にかけたんだったわね。そりゃあ生きてるって素晴らしいと思うわよね。」
「いや、ほんとあの時はダメかと思いましたよ。まぁ、今では良い思い出ですよ。ははは。」
「良い思い出ってアンタ…。何て言うか楽天的よね。」
「もしかして呆れられてます!?」
「ちょっとね。」
「楽天的なのが俺の長所なんですよ!」
「はいはい。さっさと焼き上がったパンを運んでちょうだい。」
「分かりました。」
あの日助けられた俺は当然無一文で、救助費用やらその他アレコレが借金として身に振りかかった。
世の中、金、金、金。ナンデモカンデモ金。無償なんてありゃしない。
返すあてもない俺だったけど、親切なカルメンさんに雇われ、どうにか金を稼いでる。
パンを運び力仕事を終わらせれば、もう俺の仕事はない。
一度店番などを申し出てみたが、やんわり断られた。
接客なんて出来ないと思われてるのかもしれない。
俺ってそんなに愛想無しだろうか・・・
住ませてもらってる店の2階に引っ込み、ベッドに寝転がる。
「暇だ。」
任された仕事が終わってしまうとやることがない。
金でもあれば空いた時間に暇潰し出来るが、金が無い俺は出掛けることも出来ない。
一緒に助けられた奴らはどうしてるんだろう?やはり俺みたいに暇を持て余しているのかもしれない。
母ちゃん元気かな?ーーここって俺の故郷からどれくらいの場所にあるんだ?後でカルメンさんにここの場所が何処か聞いてみるか。
いつになるか分からないが、帰りのめどがついたら母ちゃんに手紙を書こう。
暇を持て余し、1日の大半をボケッと退屈に過ごしてる俺だが、たったひとつ楽しみがある。それは・・・
「…ぁ、んっ…」
「一緒の暮らしはどうですか?」
「んっ、そうね…、あ、意外と良い…かも…」
「もう、ヤったんですか?」
「まさか。」
「気に入ってるみたいなんで、アッチも試したのかと思いましたよ。」
「…ん、やぁね、試さないわよ。…ぁん、…趣味じゃないわ。」
「試したら意外とハマってしまうかもしれないですよ。」
「なぁに、もしかして自分がハマってるから進めてるの?」
「ある意味昔からハマってると言えばハマってるかもしれないですけどね。ーーああ、勘違いしないでくださいね。俺、どうしようもない環境の時以外は、普通の女としかヤりませんから。」
「ふふっ、なら良かったわ。こんなに貴方に夢中なのに、私よりそっちとする方が良いと言われたら、悲しくなっちゃうもの。」
「そんなこと言いませんよ。カルメンさんは俺に夢中なんですか?」
「ええ、夢中よ。」
「夢中なのはコレじゃないんですか?」
「ああんっ!」
ズンと一気に奥を突かれ、カルメンさんが堪らず声を出す。
「もちろん貴方のコレにも夢中よ。」
「素直なカルメンさんを、もっともっと夢中にしてあげます。」
ズンズンと激しい抜き差しに翻弄され、イッたカルメンさんを見届け、俺は自分の部屋に戻った。
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