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溺れる.1
しおりを挟む二階に上がっていく美優の後ろ姿を見送り、圭は部屋へ持っていく飲み物と菓子を準備する。
嘘をつき家に呼んだことに少しだけ罪悪感があるが、両親が旅行という絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。
(絶対童貞卒業!)
決意新たに誓った途端、まるでそれを挫くかのように玄関チャイムが鳴り、身体が跳ねるほどギクリとなった。
(まさか旅行中止!?いや落ち着け、親ならチャイムなんか鳴らさず鍵開けて入ってくるはず)
居留守をつかおうかと思ったが、忙しなく鳴らされるチャイムに仕方なくドアを開けた。
「「え?」」
驚いた圭と来客の声が重なる。
「え、なん、え、え?」
目の前には綺麗な女が居た。それは数日前、偶々少しだけ関わりを持った年上の女──もちろんナンパ等の疚しいものではない──困っていたところに手を貸し、お互い名乗り合いもしなければ、ましてや家など教え合ってもいない。それなのに目の前にそんな相手が居る・・・
ストーカー・・・──浮かんだ言葉にゾッとし、慌ててドアを閉め──ようとしてガシリとドアを押さえられた。
「ちょっ、ちょっとなんで閉めようとするの!?」
「ちょっ、放せ!」
圭の態度からなにやら察した訪問者は慌てる。
「お母様から何も聞いてないの!?」
「は?」
「やだ!もしかして何か変な想像してる!?全然違うから!今、無料キャンペーンでお試し家庭教師っていうのやってて、君のお母様がそれに申し込んだからここに居るのよ。」
(……無料…大好きだもんな…おかん……)
心情的には今すぐ帰ってほしいが、家庭教師という立派な目的で訪れた相手を、玄関先で追い返すことなど出来ず、中へと招き自分と恋人用の飲み物と菓子をお客さんに出した。
「今回のキャンペーンは──」
「はい。」
「まず最初に──」
「はい。」
「もちろん圭君の──」
「はい。」
(なんで今日予約入れてんだよ!──もしかして何か勘づいて、敢えて今日とか?ああっ、くそっ、やっぱこの後勉強って流れ?せっかく美優を呼んだのにどうしたらいいんだ!)
「──ということなんだけど、ここまでで分からなかったことある?」
「はい」
説明ちゃんと聞いてます顔はしているが、この後の展開──恋人とのセックスの不可──で頭がいっぱいの圭は、返事をしているだけで何一つ聞いてなかった。
「どこら辺かな?」
「はい」
「…どこ?」
「はい」
バンッ!!
「うわっ!?」
テーブルを叩かれ、圭の意識が漸く相手へと向いた。
「圭君さ、全ッ然聞いてなかったよね?」
「いや、あの、聞いてました!」
圭自身は聞いてます顔をしていたつもりだったが、実際は時計をチラチラ見、時計を見てない時は別の場所に視線をやり、あからさまに心ここに在らずなのがバレバレだった。
「自覚ないかもしれないけど、圭君すごく分かりやすいよ。」
「わ、分かりやすい…ですか?」
「ふふっ、分かりやすいよ。…彼女来てますって顔に書いてあるし。」
「え!?」
「それに、彼女とヤるぜ!ってのも顔に。」
「!!」
圭の顔が一気に紅く染まる。自分はそんなとんでもない面をずっと他人に晒していたのか。
羞恥やらいろんな感情であ~とか、う~とか呻く圭に、女は吹き出した。
「嘘嘘。そんな顔はしてなかったから安心して。ほんとは玄関で靴を見たから、彼女来てるって分かってからかったの。」
「サナキさんひでぇ!」
「ふふっ。ごめんなさい。…えっと、彼女が来てるのも早く彼女のとこ行きたいのも理解出来るけど、キャンペーンの家庭教師って時間の長さが決まってて、守ってるかどうか分かるシステム使ってるの。だからもう少し私と付き合って。」
まだ美優のところには行けそうもない──圭は二階で待つ美優にケータイで知らせようと思ったが、持った途端サナキのニヤニヤした顔が目に入り──それほど長くかかる訳じゃないし──そんな言い訳を心でしながらケータイを置いた。
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