怠惰な蟲使い(仮)

胸の轟

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防具と武器を身に付け、いかにも冒険者といった出で立ちの麗しい若者二人が、愛らしい町娘を気遣う。


「疲れたろ?エルザ。ここらで一休みしよう。」

「ええ。」

冒険者を生業にしている二人は兎も角、ただの町娘でしかない体力のないエルザは、迷いながら歩き続けたことにより体力は限界に近い。


「ほら、エルザ。ここに座って。」


布を敷いた木陰に、エルザの手を引いてユリウスが座らせた。

「ありがとうユリウス。」


微笑み合う二人に気を利かせたアロイスが、周囲の確認を言い出し離れた。


「足は痛まない?」
「少し。」

「見せて。──ああ、少し擦れて赤くなってるね。薬つけてあげる。」

「ぇえ!?あ、あああの、大丈夫よ!?」


慌てるエルザに構うことなく、ユリウスはエルザの足に触れ、擦りむいた箇所にじっくり丹念に薬を塗る。

肌に直に触れられ、エルザの体温があがり頬が染まっていく。


「ほら、終わったよ。」


満足気に頬笑むユリウスがちょっとだけ憎らしい。


意識しているのは私だけなの?エルザはなんとなくモヤモヤした気持ちになり、ユリウスの側を離れ泉へ向かい──



突如茂みから現れたジキタリスに囚われの身に!

「キャアッ!!」
「ジキタリス!?」

「これはこれは、ユリウスさんではないですか。偶然ですね。」

「ユリウス!」


羽交締めにされたエルザはもがくが、押さえられた身体はビクともしない。

「ふざけるな!エルザを離せ!」

「おっと、それ以上近づかないでもらおうか。この女がどうなってもいいのか?」

「くっ!」

エルザを人質に取られ動けないユリウスを尻目に、ジキタリスは素早くエルザの首に首輪を嵌める。

「これ、何だと思いますか?」

「・・・」

睨み付けてくるユリウスに、ジキタリスがさも面白そうに言う。


「実はこれ、装着すると少しずつ絞まっていく呪いのアイテムなんですよ。」

「なっ!?」

「ユリウス!」

不安げに名を呼ぶエルザを、安心させるように笑って見せるが、果たして上手く笑みを見せられているのか。エルザと同じように不安を感じてユリウスは、自分の顔が強張っているのが分かった。


「この女が大事みたいだなユリウス。ククッ、目の前で女がもがき苦しみながら死ぬのを見るのはどんな気分ですか?」

「ジキタリス!てめぇ!!」

「ククッ!クハハッ!今の貴方のその瞳、顔、最高ですよ。人を視線だけで殺せそうな瞳、憎しみで歪むそのお綺麗な顔にゾクゾクします!──私も鬼ではありません。良いものを見せてくれたお礼に、貴方にチャンスをあげましょう。首輪の鍵を残してあげますよ。貴方はそれで外せばいいんです。──では私はこれで失礼します。」

「待て、ジキタリス!」

あっという間に消えたジキタリスの代わりに、ジキタリスの部下と数多くのゴブリンが現れた。


「クソッ!」

接近戦が苦手なユリウスにとって、非常に不利な戦いが幕を上げようとしていた。







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