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14.キャサリン〈1〉
しおりを挟むカランコロンー
入ってきたお客さんを見れば、銀の髪を後ろで束ねた紫の瞳の美少女──の顔した少年。
差し込む光がキラキラとその姿を飾り、まるで天より地上に遣わされた稀有な存在のような神聖さすら感じる。
「いらっしゃい。」
「やぁ、ジンジャーブレッドおくれ。」
「あんた好きよね、ジンジャーブレッド。」
「うん。」
うちにはジンジャーブレッド以外もあるのに、買うのは大抵ジンジャーブレッド。彼は余程ジンジャーブレッドが好きなのか、うちのジンジャーブレッドが好きなのかどっちなんだろう?──後者ならすごく嬉しいかも。
「オマケしてあげようか。」
「うん?」
急にどうしたって顔された。その表情があどけなくて可愛かったから、ちょっとからかいたくなる。──こんなこと言ったらどんな反応するかしら?
「んふふ~、じゃあ私にキス出来たら──!?なななっ何すんのよ!」
真に受けてキスという予想外な出来事に、思わず手が出たけど避けられた。
恋人もいないし、まだキスしたこともないのに、冗談を真に受けたヤツに初めてを奪われた!
こっちは驚きやら羞恥やらで慌てふためき、顔だって真っ赤になってるっていうのに、ジグときたらキスなんてなかったみたいに憎らしいほど平気な顔をしてる。
オマケに『キスしたことないの?』とか言ってくる始末。もしかしてジグって見かけによらず遊び慣れてるの!?
「私だってキ、キスくらいなな何度もしたことあ、ありますからね!」
私の様子で何かを察し一応謝ってきたけど全く誠意がなかった。
「誠意がちっとも感じられない!」
さらに言い募ろうとした時
カランコロンー
「あっ!い、いらっしゃいませ!」
「…何だか大きな声がしていたみたいですけど、大丈夫ですか?」
「へあっ!?やっ、あの大丈夫です。」
外まで聴こえてたとか、は、恥ずかし過ぎる。お客さんは疑わしそうにジグを見た瞬間ハッとした。そしてチラチラ見てる。──見てしまう気持ちも分かる。すごい美少女だものね。男だけど。ーッて、あれ?どこから聴かれてたか分からないけど、ジグとの会話聴かれてたらなんか誤解生まない!?
「じゃあ俺そろそろ行くね。」
「あ、うん。…またのご来店お待ちしてまーす。──えっと、もう欲しいものは決まってますか?」
「ええ、欲しいものは貴女よ。」
やっぱり誤解されてる!?
「あああの、どういう意味ですか?」
「私が働いているお屋敷の旦那様が、こちらのお菓子をいたく気に入りまして、貴女と専属契約をしたいそうなんです。」
よ、良かった。誤解されてるわけじゃなかった。
「え、あの、お気持ちは嬉しいのですが…」
「突然の申し出に戸惑ってるんですね。分かります。私が反対の立場だったらやはり戸惑ってしまいます。なのでこうするのはいかがですか?まず旦那様にお会いして人柄ですとか直接確かめてみては。」
「え、でも、それは…」
それはそれで断りづらい状況に追い詰められそうで、恐いし正直会いたくない。何とか会わずに断る方向に持っていきたかったのに、気が付けば会って話すくらいはいいかなと思うように丸め込まれていた。
私はこの時、なにがなんでも断るべきだったのに。
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