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5.アロイス
しおりを挟む「アロイスさん。」
街中で女に声をかけられた。ーー見た顔だが、客か?
取り敢えず客向けの笑顔を浮かべとけばいいか。
「やぁ。」
「アロイスさんのグッズ、売上が好調ですよ。」
その言葉で思い出した。最近入った物販の娘だ。ーー名前は…、思い出せない。
「そうなんだ、嬉しい限りだな。」
「今から誰かと待ち合わせですか?」
「いや、単にぶらついてるだけ。」
ホントは女と喧嘩別れしたところだ。いろいろ鬱陶しいことを言い出され喧嘩になっちまった。
喧嘩別れさえしてなきゃ今ごろは、お楽しみの最中だったが。
「私の家ここから近いんですけど、良かったら寄っていきませんか?夕食まだでしたらご馳走させてください。」
「もしかして手料理ご馳走してくれるとか?」
「はい。一人分作るより誰かのために作る方が作りがいがあるので、アロイスさんが来てくれたら嬉しいです。ーー味の保証はしませんけど。」
手料理か…。そういや手料理など長いこと食べてないな。
付き合う女ときたら、どいつもこいつも料理がからきしで、ご馳走される機会など皆無だ。
旨いかどうか分からないが、手料理ってヤツには惹かれるものがある。ーーなんてのは建前で、本音を言えば手料理よりも彼女の浮かべた笑顔がとても魅力的で惹かれた。
特にこの後予定もないし、行ってもいいな。
「すごく期待してご馳走になるとしますか。」
「もう!アロイスさんて案外意地悪なんですね!」
「ははっ、ごめんごめん。」
言うほど家は近くもなかったが、『どうしても一緒に過ごせる機会を逃したくなくて』なんて上目遣いで可愛く言われたら、悪い気はしない。
彼女の手料理はすごく旨かった。
食後の会話は弾み、二人の間には親密な空気が流れーーとくれば、後はもうお決りの甘い時間を楽しむだけ
そして彼女のベッドで目覚めれば
「な、…んだよ、これ…」
隣で赤く染まる女の身体ーー俺の身体も何故か赤い。
何だこれは?ーー夢か現か…
バァアンッー
「!?」
まるでタイミングを見計らったかのように、踏み込んで来た憲兵に、俺は混乱で頭の働かないまま連行された。
部屋に漂う甘ったるい香りが煩わしい。身体に悪そうなそれを吸いたくないのに、呼吸をするためには吸い込むしかない。
何でここは、こんなに甘ったるい香りがするんだろう。
俺はいつからこの香りを嗅いでいる?そもそも何でここに居る?
ここはどこだ?どうやって来た?
頭がすっきりしない。…身体も何だかダルい気がする。ーー息があがる。
記憶がやけに曖昧で、よく思い出せない。
何かしていた気もするし、何もしていなかった気もする。ーー誰かと居たような気もしないでもない。
今は?ーー今、何かしていたんだったか。
今・・・今・・・今・・・今・・・・・今は・・・
ギシギシと軋むベッド、揺れる身体。よく知る感覚。
俺の上でケイトが踊る。
ああ・・・そうだった。今・・・俺は・・・
浮かんだ疑問は霧散していき、疑問など浮かんだことすら忘れ、ただ強い快楽に支配せれていく。
「…っん…アロイスさまぁ…」
甘い声が耳を犯し、涌き出る衝動に突き動かされる。
ああ、ケイト・・・ケイトケイトケイトケイト・・・ケイトが欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい・・・・・・・・
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