ゲスいお嬢様的日常(仮)

胸の轟

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因縁?【1】

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数えきれないほど利用した、古ぼけた階段を上がっていくと、小休止が出来る錆びたベンチが正面に見えてくる。


幾度となく腰掛け、他愛ない会話をしたこのベンチに、果たしてまた座ることはあるのだろうか。ーーおそらく、もうそんな日は来ない。それが分かっているから淋しさが過る。

最後にもう一度だけ、座って行こう。


この場所は一応雨は凌げる造りになってはいるけれど、風で吹き込む雨に濡れ、色褪せたポスターは、もうずっと新しくなることもなく張られたまま。


ベンチから少しだけ景色を眺め、また階段を上がり始めた。



こじんまりした待合室の、壁に張ってある昔の女優のポスターに時刻表。

とっくに終わってる催事の告知、改札側の伝言板のメッセージは、随分昔に書かれたものがそのままで、伝言板だけでなく、この駅自体利用者などほとんど居ないことが容易く伺えてしまう。

過疎が進み、仕事を求めて若者は都会へと旅立つ。

この先利用者が増えることは望めず、僅かばかり居る利用者も年々減るばかりで、駅の存在も、そう遠くない未来に忘れ去られ朽ちていくのだろう。ーーそう思ったら泣きそうになった。


私も歳をとったのかな。柄にもなく感傷的になっているわね。


「…最後に伝えたかったな。」

旅立つ間際に思い浮かんだのは、近所に住む年下のアイツのこと。

静かな待合室に、行き場のない私の呟きが、寂しげに消えていった。


時計に目をやれば、電車が来るまでまだ時間がある。ーー早く来れば良いと思いながら、まだ来なければ良いとも思ってしまう。

だって、もしかしたら…


不意に、慌ただしく階段を駆け上がって来る足音がして、待合室に現れたのは


「雪姉!」
「…淳。」


神様って居るのかな?ーー願いが叶うなんて。


「何で今日だって言わないんだよ!」
「だ、だって見送りは要らないから…」


見送りなんてされたら、決心が鈍る気がして言えなかった。


「間に合って良かったよ。俺さ、雪姉にどうしても伝えたいことが。」

「わ、私も実は伝えたいことが。」


ホントは言うつもりのなかった言葉。でも、淳の顔を見てしまったら、やっぱり伝えなきゃって思った。

伝えずにいたら、多分ずっと今日のことを後悔し続けると思うから。


「ホントに?あっ、俺から言ってもいいかな?」

「うん。」

「あのさ…、雪姉は、俺より年上で、最近すごく綺麗になったし、好きな奴出来たのかなって。」

「淳…」
「もしかしたら、そいつと既に恋人で、俺が何かを伝えるのは迷惑でしかないかもしれない。」

真っ直ぐな瞳が私を見ている。ーー胸がドキドキとうるさい。淳に聴こえてしまうんじゃないかと心配になるほどに。


「けどさ、『いつだって雪姉の鼻毛には宝玉が宿ってたよね』」

「淳、それって…」

「雪姉の思ってる通りだよ。これが俺の伝えたかったことだよ。…雪姉の伝えたいことって?」

「あのね、本当のこと言うと『淳の鼻は、いつも煌めきが顔を出していて、淳を真っ直ぐ見つめることが出来なかったの。』な、情けないでしょ?年上のくせにこんなこと言って。」

「え、あ、そうだったの!?雪姉は情けなくないよ!…俺、てっきり嫌われたかと…。そっか、そうだったのか。ヘヘッ、嫌われてたわけじゃなかった。」

「嫌ってなんかない!『淳の煌めき「って、さっきから何なの!?」



なんかいきなりぶちギレされた。
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