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第一章 【午前零時~目覚めた先は異世界でした】
【3ー⑧】四神の神子とオマケ神子
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【 3ー⑧】
私は身の危険を察し、とにかく この場から逃げ去ろうと足を一歩踏み出すと、それを阻止するかのように黒姫が私の服の裾を掴んで自分の方に引き寄せる。
「はいはい、そこまで。この子は私と同じ世界出の普通の人間よ。まだ事の状況を混乱していて認識出来ていないから、彼女の理解の及ぶ許容範囲の限界で、
ここは『夢』の中の世界という事で理性を保っているのよ。だからそこは貴方達も察っしてあげて。
この際、夢の中の世界でも なんでもいいじゃない。なにより彼女の精神が病んで人格が壊れてしまったら、もし彼女が なにかしらの『神子』であったなら、
この世界はこの子に関わる全ての天の加護を失うしう事になるのよ? 一度召喚された神子の代わりが無い事は聞いているでしょう?
そうでなくとも、もうすぐ月が真上に掛かって『月の門』が開いてしまう。早く応龍に確認させないとーーー」
黒姫の言葉に四人から先ほどまでの異様な どんよりと張り詰めた空気が霧散した。
そのせいか危機が回避出来たような安堵感からホッと胸を撫で下ろすと同時に、その場に へたり込みそうになるのを両足に力を入れて踏ん張りながら立っていると、黒姫が私の背中をポンポンと軽く叩く。
「大丈夫だから安心なさい? 私達はこの世界では仮初めの命を吹き込まれた人形が本体なの。だから自分の精神状態さえ無事なら何も恐れる事はない。
つまり肉体を持たない私達には精神の死はあっても肉体の死は無いのよ。しかも天の加護があるから尚更ね。だから万が一、武器で切られても刺されても死ぬ事はまず無いわ」
「ど、どういう事? “死なない”って、まさかの不死身チート? ああ~ホントに頭がこんがらがって もう何がなんだか………」
あまりの理解不能な状況に、段々と よく分からなくなってきて頭を抱えていると、朱雀王が先ほどの不穏な笑顔ではなく本当に親近感のある明るい笑顔でニッコリと笑うので、思わず無意識に退くように体がビクッと縮こまる。
「さっきは ごめんね?『大熊猫』の神子さん。脅かすつもりは無かったのだけれど、どうやら怖がらせてしまったみたいだね。
大丈夫だよ、私達は か弱い女人に対して酷い事はしないから安心して? それにもし そんな事をする輩であれば真っ先に天罰が下ってしまう」
「は、はいぃ………」
どうにも先ほどまでの異様な雰囲気が忘れられずに思わず声がひきつってしまう。
朱雀王は今はなんてことない人当たりの良い柔らかな笑顔を向けてはいるが、
確かにさっきは言葉もそうだが何より笑顔がすごく怖かった。なんというか笑っている裏側で激昂しているというか、とにかく笑いながら殺される様な雰囲気だったのだ。
ーーううっ、なんか怖いから。黒い衣装の美人なイケメンお兄さんは大人しそうな感じだから別としても、この三人は怖いよ。
黒姫は“死ぬ事は無い”って言うけれど、一人は無言で一刀両断されそうだし、もう一人は笑いながら切りきざまれそうだし、最後の一人は もう分かりやすく素手で殴り殺されそうだ。
………なんとなくサアァァっと血の気が引くような気がするのは気のせいだろうか?
そしてイケメンだけれど彼等とは できることなら お近づきになりたくないと、私の中の危機感知本能が何かしら訴えてきているような………
*****
やがて広大な中庭に出ると、そこには格好からして親近感のある四人の男女が肩を寄せあうように寄り固まっていて、その周りを兵士らしき人達が囲っていた。
すると私の前後を歩いていた皇子達が歩みを止め、他の護衛兵士達と入れ代わるように場所を交代すると、皇子達は私から離れて四人の男女がいる方へと歩いて行ってしまう。
それを見てポカンとしている私に黒姫が口を開いた。
「あそこにいる四人が貴女と一緒に召喚された神子達よ」
側に近づくにつれ分かったのは、まだ10代だろう男二人、女二人で不安げな様子で こちらを伺っているようだ。
「あの子達が? ねえ黒姫、あの子達も日本人なの? それに なんだか すごく若いけど幾つ?」
「ええ、私達と同じ日本人よ。男の子二人は16歳の高校生の双子。女の子は17歳の高校生と19歳の大学生ですって」
「うっ、みんな10代………もしかしなくても『神子』って若い子限定ですかね。確かに神社の巫女さんも若い子しかなれないみたいだし、それなら私なんか全然お呼びじゃないじゃない。
だから やっぱり私の方は間違っているんだよ。うう~若い子目の前にして自分で言うのも虚しいんだけど」
ガックリと肩を落とす私の背中を、黒姫が宥める様にポンポンと叩く。
「よしよし、私も貴女と同じ気持ちだから大丈夫よ。だけど それを言うなら、私から見れば貴女も十分若い部類だから そう悲観する事ないわ。大人には大人の魅力ってものがあるんだから。
それにあの子達より人生長く生きている分、経験値はこちらの方が断然高いのだから、大人の余裕と威厳を見せてやりなさいな」
「威厳なんて そんなのあるわけないよ~ それに あの子達は見たところ皆、キレイな子達ばかりで向こうが本物の『神子』なんでしょ? じゃあ私って一体何?」
「だから それを確かめるのよ。さあ、天龍の像の前まで行きましょう」
黒姫に先を促されて、護衛兵士達の誘導のもと大きな像が沢山ある所まで連れて行かれると、そこには五体の迫力のある大きな天龍と四神の像が悠然と鎮座していた。
ちらりと周囲を見ると四人の神子達の横にイケメン皇子達が それぞれ並んでいる。
今までの話から推測するに、彼等の属性の神子達の隣に立っているのだろう。
それを見ると なんだか複雑な気分だ。私の方はいうなれば“オマケ神子”ってところで皇子達の属性も無いまゆつば物であり、この世界には必要とされていない人間だ。
………まあ、寂しい仲間外れ感を この歳になって感じるのもなんだけれど、もうあれこれ考えるのも面倒くさいから早く元の世界に帰りたいよぉ~
*****
私と黒姫は中央の一際大きな天龍の像の前に立つと、黒姫が像に近づいて手を触れる。
すると不思議なキラキラとした白い光が その体から発光し始める。私は思わずギョッとして目を見張った。
ーーうわぉ!! ファンタジーですか!?
「応龍!! ちょっと出てきて! 神子達の事で緊急に確認したいのだけど!」
しかし そんな黒姫の声に像からの反応は無く、辺りは何事もなく静まりかえっている。
ーーまあ、当然か。だって、ただの石像だもんね。
すると黒姫はコホンと小さく咳払いをしたかとおもうと、今度は苛々とした口調で もう一度強めに叫ぶ。
「ちょっと!! 応龍!? 何だんまり決め込んでるのよ! それでなくてもこっちは急いでいるんだから早くして!
早くしないと『月の門』が開いて私達が向こうの世界に還ってしまうじゃない! その前に五人目の神子を確認して欲しいのよ!」
黒姫が言い終わると、やや しばらくしてから更に不思議な事が目の前で起きる。
なんと黒姫が触れている中央の天龍の像の目が突如金色に光り出すと ゆっくりと点滅している。
すると、どこからともなく重低音の、いかにも けだるそうな声が周囲に響くように聞こえてきた。
『………なんだ騒々しいぞ。ようやっと寝ついたものを叩き起こすとは、真に無作法なヤツだな』
「無作法は今更でしょ。そんな事よりも貴方が召喚した最後の神子に問題が生じたのよ。元より異界の神子の召喚は貴方の管轄じゃないの」
『我はその召喚によって膨大な神力を使い果たし非常に疲れている。後は属性を確認するだけなのだから、それは お前達でも出来るだろう?』
「それは もう確認したわ。だけど最後の五人目の神子の属性が分からないのよ。どの宗主にも反応が無いの。
だから直接確認して頂戴。もしかしたら貴方が間違って呼び寄せてしまったのかもしれないんだから」
『ムムッ、我に間違いなど あり得ん。もう一度よく確かめたらどうだ』
「あのねぇ、それこそ宗主達が分からないはずないでしょ。どんな僅かな反応だって見逃すはずないじゃないの。
それにもし間違って召喚してしまったのであれば大問題だわ! 応龍皇の命を縮めてまで解放した貴方の神力を無駄にしたって事じゃないの!! そんな事 絶対に許さないんだから!!」
『………相変わらず煩いヤツだ。最後の五人目の神子とは“大熊猫”か』
「ええ、そうよ。うふふ、応龍もきっと彼女の事を気に入ると思うわ。かなり面白い子だから」
『ーーなんだか含みのある言い方だな。それを聞いたら尚の事 面倒くさくなった。別に この際一人多かろうと構わん。後は お前達で面倒をみてやれ』
「ちょっと応龍! 天の主神のくせして己が招いた責任を人間に押し付けないで! そんな事じゃ、誇り高き天龍の名が一族もろとも低層まで落ちてしまうわよ?
それに なにも面倒くさい事なんて無いわ。ちょっと出てきて彼女を神子か否か、ちょこっと調べるだけじゃないの。
それだけなら神力なんて ほとんど要らないし、私達人間側の方だって五人目なんて異例な事で、何より国民達が大変混乱しているのよ。
それでなくとも応龍皇の代替り時期に直面して人々の心も不安定だというのに、そのせいで この世が妖に支配されて困るのは天神達も同じでしょう?」
………これは すごい展開です。黒姫と龍の像が口論で現在バトっています。しかも この世界の石像って話せるらしい。そして あの中にいるのが噂の『応龍』?
私はというと、ただただ呆然と見つめるのみ。
すると、しばらく会話の間が開いたのち、大きな ため息のような風の音が辺りに響いたかと思うと、突然地響きが起こり、龍の石像から眩しいくらいの光が放たれ、空に向かって巨大な光の柱が上った。
そして周囲に静けさが戻り視界がハッキリしてくると、天空には金のたてがみと白銀の翼のある それは大きな白龍が空を隠すがごとく雄大に浮かんでいた。
ーーう、うそ………なにあれ………龍!?
私は あまりの衝撃に口を開けたまま、瞬きをするのも忘れるくらい目を大きく見開いて、その場に固定されていたように硬直してしまう。
生まれて初めて あんな大きな生き物を見たーーー日本昔話どころじゃない!!
ほ、本当に龍だ………ドラゴンだよ! マジで!? しかも迫力が半端ない!! 体が竦んで、う、動けない!!
そんな私の前で黒姫が肩を竦める。
「やっと重い腰をあげたわね。だけど もう少し大人しめに出てこれないの? 深夜も近いのに ご近所迷惑じゃない」
『こうして わざわざ出てきてやれば減らず口を。我の現状では力が不安定で、人の姿すら取る事もままならん。それを疲労困憊にある天神をこき使おうとは。お前達は我を過労死させるつもりか?』
白龍の表情は喜怒哀楽が全く分からないものの、空気を震わすような不機嫌な重低音の声が響く。
「はいはい。お仕事が済めば十分に お休み頂いて結構よ。そもそも『天の神子』は貴方の管轄じゃない。
それなのに他人事のように人間任せにして、なにか問題が生じたら貴方達が困るんじゃないの?
もう一つ言わせてもらえば私達、異世界の人間にとって この世界はそれこそ『他人事』なんだからね」
『ふん、その見返りは“天の恩恵”として与えているではないか。まあ、よい。時間が無いのであったな。ーーして、その娘が五人目の“大熊猫”か?」
「ええ、そうよ。さあ、早く調べて頂戴!」
言うなり黒姫は私の腕を引いて強引に前方に押し出した。しかし あまりの衝撃のショックからか私の思考回路は完全にショートしてしまったらしく言葉を失ったまま硬直し、
まさに蛇に睨まれたカエルーーいや、龍に睨まれた、という状態で白龍の金色の鋭い眼力に晒されていた。
ーーひぃぃぃ。こ、怖いぃぃぃ。目を逸らしたいのに逸らせないぃぃぃ。
「どうかしら? 何か分かる? 応龍?」
黒姫の問いかけに天龍が唸る。
『ーーううむ、そう急かすな、少し待て。この娘の あらゆる念が邪魔をして中身が視えん。
………んんっ? ーー黒姫!! 直ぐに皆を退避させるのだ!! ここにいる人間達よ!! 今すぐ城内に退避するのだ!!』
突如として白龍の様子が一変して辺りに緊迫が走る。
私は一体何が起こったのかと周囲に視線を向けると、そこには四人の神子達の内の一人の少年が頭を抱えて うずくまっていた。
しかも その体がなにやら白い光に包まれて、その光が激しく点滅を繰り返している。
ーーえ? な、なに??
すると少年が大きく叫んだと同時に それに呼応するように白い光が大きく膨張して大爆発を起こす。
それは その場にある空間全てを白い光が呑み込むように世界は白一色に支配され、そんな私の意識も一瞬にして時の彼方に消え去った。
ーーーその後、辺りに静けさが戻る。しかし そこには五人目の神子の姿だけが無く、地面には『大熊猫』の木彫りの人形がコロンと虚しく転がっていた………
【3ー終】
私は身の危険を察し、とにかく この場から逃げ去ろうと足を一歩踏み出すと、それを阻止するかのように黒姫が私の服の裾を掴んで自分の方に引き寄せる。
「はいはい、そこまで。この子は私と同じ世界出の普通の人間よ。まだ事の状況を混乱していて認識出来ていないから、彼女の理解の及ぶ許容範囲の限界で、
ここは『夢』の中の世界という事で理性を保っているのよ。だからそこは貴方達も察っしてあげて。
この際、夢の中の世界でも なんでもいいじゃない。なにより彼女の精神が病んで人格が壊れてしまったら、もし彼女が なにかしらの『神子』であったなら、
この世界はこの子に関わる全ての天の加護を失うしう事になるのよ? 一度召喚された神子の代わりが無い事は聞いているでしょう?
そうでなくとも、もうすぐ月が真上に掛かって『月の門』が開いてしまう。早く応龍に確認させないとーーー」
黒姫の言葉に四人から先ほどまでの異様な どんよりと張り詰めた空気が霧散した。
そのせいか危機が回避出来たような安堵感からホッと胸を撫で下ろすと同時に、その場に へたり込みそうになるのを両足に力を入れて踏ん張りながら立っていると、黒姫が私の背中をポンポンと軽く叩く。
「大丈夫だから安心なさい? 私達はこの世界では仮初めの命を吹き込まれた人形が本体なの。だから自分の精神状態さえ無事なら何も恐れる事はない。
つまり肉体を持たない私達には精神の死はあっても肉体の死は無いのよ。しかも天の加護があるから尚更ね。だから万が一、武器で切られても刺されても死ぬ事はまず無いわ」
「ど、どういう事? “死なない”って、まさかの不死身チート? ああ~ホントに頭がこんがらがって もう何がなんだか………」
あまりの理解不能な状況に、段々と よく分からなくなってきて頭を抱えていると、朱雀王が先ほどの不穏な笑顔ではなく本当に親近感のある明るい笑顔でニッコリと笑うので、思わず無意識に退くように体がビクッと縮こまる。
「さっきは ごめんね?『大熊猫』の神子さん。脅かすつもりは無かったのだけれど、どうやら怖がらせてしまったみたいだね。
大丈夫だよ、私達は か弱い女人に対して酷い事はしないから安心して? それにもし そんな事をする輩であれば真っ先に天罰が下ってしまう」
「は、はいぃ………」
どうにも先ほどまでの異様な雰囲気が忘れられずに思わず声がひきつってしまう。
朱雀王は今はなんてことない人当たりの良い柔らかな笑顔を向けてはいるが、
確かにさっきは言葉もそうだが何より笑顔がすごく怖かった。なんというか笑っている裏側で激昂しているというか、とにかく笑いながら殺される様な雰囲気だったのだ。
ーーううっ、なんか怖いから。黒い衣装の美人なイケメンお兄さんは大人しそうな感じだから別としても、この三人は怖いよ。
黒姫は“死ぬ事は無い”って言うけれど、一人は無言で一刀両断されそうだし、もう一人は笑いながら切りきざまれそうだし、最後の一人は もう分かりやすく素手で殴り殺されそうだ。
………なんとなくサアァァっと血の気が引くような気がするのは気のせいだろうか?
そしてイケメンだけれど彼等とは できることなら お近づきになりたくないと、私の中の危機感知本能が何かしら訴えてきているような………
*****
やがて広大な中庭に出ると、そこには格好からして親近感のある四人の男女が肩を寄せあうように寄り固まっていて、その周りを兵士らしき人達が囲っていた。
すると私の前後を歩いていた皇子達が歩みを止め、他の護衛兵士達と入れ代わるように場所を交代すると、皇子達は私から離れて四人の男女がいる方へと歩いて行ってしまう。
それを見てポカンとしている私に黒姫が口を開いた。
「あそこにいる四人が貴女と一緒に召喚された神子達よ」
側に近づくにつれ分かったのは、まだ10代だろう男二人、女二人で不安げな様子で こちらを伺っているようだ。
「あの子達が? ねえ黒姫、あの子達も日本人なの? それに なんだか すごく若いけど幾つ?」
「ええ、私達と同じ日本人よ。男の子二人は16歳の高校生の双子。女の子は17歳の高校生と19歳の大学生ですって」
「うっ、みんな10代………もしかしなくても『神子』って若い子限定ですかね。確かに神社の巫女さんも若い子しかなれないみたいだし、それなら私なんか全然お呼びじゃないじゃない。
だから やっぱり私の方は間違っているんだよ。うう~若い子目の前にして自分で言うのも虚しいんだけど」
ガックリと肩を落とす私の背中を、黒姫が宥める様にポンポンと叩く。
「よしよし、私も貴女と同じ気持ちだから大丈夫よ。だけど それを言うなら、私から見れば貴女も十分若い部類だから そう悲観する事ないわ。大人には大人の魅力ってものがあるんだから。
それにあの子達より人生長く生きている分、経験値はこちらの方が断然高いのだから、大人の余裕と威厳を見せてやりなさいな」
「威厳なんて そんなのあるわけないよ~ それに あの子達は見たところ皆、キレイな子達ばかりで向こうが本物の『神子』なんでしょ? じゃあ私って一体何?」
「だから それを確かめるのよ。さあ、天龍の像の前まで行きましょう」
黒姫に先を促されて、護衛兵士達の誘導のもと大きな像が沢山ある所まで連れて行かれると、そこには五体の迫力のある大きな天龍と四神の像が悠然と鎮座していた。
ちらりと周囲を見ると四人の神子達の横にイケメン皇子達が それぞれ並んでいる。
今までの話から推測するに、彼等の属性の神子達の隣に立っているのだろう。
それを見ると なんだか複雑な気分だ。私の方はいうなれば“オマケ神子”ってところで皇子達の属性も無いまゆつば物であり、この世界には必要とされていない人間だ。
………まあ、寂しい仲間外れ感を この歳になって感じるのもなんだけれど、もうあれこれ考えるのも面倒くさいから早く元の世界に帰りたいよぉ~
*****
私と黒姫は中央の一際大きな天龍の像の前に立つと、黒姫が像に近づいて手を触れる。
すると不思議なキラキラとした白い光が その体から発光し始める。私は思わずギョッとして目を見張った。
ーーうわぉ!! ファンタジーですか!?
「応龍!! ちょっと出てきて! 神子達の事で緊急に確認したいのだけど!」
しかし そんな黒姫の声に像からの反応は無く、辺りは何事もなく静まりかえっている。
ーーまあ、当然か。だって、ただの石像だもんね。
すると黒姫はコホンと小さく咳払いをしたかとおもうと、今度は苛々とした口調で もう一度強めに叫ぶ。
「ちょっと!! 応龍!? 何だんまり決め込んでるのよ! それでなくてもこっちは急いでいるんだから早くして!
早くしないと『月の門』が開いて私達が向こうの世界に還ってしまうじゃない! その前に五人目の神子を確認して欲しいのよ!」
黒姫が言い終わると、やや しばらくしてから更に不思議な事が目の前で起きる。
なんと黒姫が触れている中央の天龍の像の目が突如金色に光り出すと ゆっくりと点滅している。
すると、どこからともなく重低音の、いかにも けだるそうな声が周囲に響くように聞こえてきた。
『………なんだ騒々しいぞ。ようやっと寝ついたものを叩き起こすとは、真に無作法なヤツだな』
「無作法は今更でしょ。そんな事よりも貴方が召喚した最後の神子に問題が生じたのよ。元より異界の神子の召喚は貴方の管轄じゃないの」
『我はその召喚によって膨大な神力を使い果たし非常に疲れている。後は属性を確認するだけなのだから、それは お前達でも出来るだろう?』
「それは もう確認したわ。だけど最後の五人目の神子の属性が分からないのよ。どの宗主にも反応が無いの。
だから直接確認して頂戴。もしかしたら貴方が間違って呼び寄せてしまったのかもしれないんだから」
『ムムッ、我に間違いなど あり得ん。もう一度よく確かめたらどうだ』
「あのねぇ、それこそ宗主達が分からないはずないでしょ。どんな僅かな反応だって見逃すはずないじゃないの。
それにもし間違って召喚してしまったのであれば大問題だわ! 応龍皇の命を縮めてまで解放した貴方の神力を無駄にしたって事じゃないの!! そんな事 絶対に許さないんだから!!」
『………相変わらず煩いヤツだ。最後の五人目の神子とは“大熊猫”か』
「ええ、そうよ。うふふ、応龍もきっと彼女の事を気に入ると思うわ。かなり面白い子だから」
『ーーなんだか含みのある言い方だな。それを聞いたら尚の事 面倒くさくなった。別に この際一人多かろうと構わん。後は お前達で面倒をみてやれ』
「ちょっと応龍! 天の主神のくせして己が招いた責任を人間に押し付けないで! そんな事じゃ、誇り高き天龍の名が一族もろとも低層まで落ちてしまうわよ?
それに なにも面倒くさい事なんて無いわ。ちょっと出てきて彼女を神子か否か、ちょこっと調べるだけじゃないの。
それだけなら神力なんて ほとんど要らないし、私達人間側の方だって五人目なんて異例な事で、何より国民達が大変混乱しているのよ。
それでなくとも応龍皇の代替り時期に直面して人々の心も不安定だというのに、そのせいで この世が妖に支配されて困るのは天神達も同じでしょう?」
………これは すごい展開です。黒姫と龍の像が口論で現在バトっています。しかも この世界の石像って話せるらしい。そして あの中にいるのが噂の『応龍』?
私はというと、ただただ呆然と見つめるのみ。
すると、しばらく会話の間が開いたのち、大きな ため息のような風の音が辺りに響いたかと思うと、突然地響きが起こり、龍の石像から眩しいくらいの光が放たれ、空に向かって巨大な光の柱が上った。
そして周囲に静けさが戻り視界がハッキリしてくると、天空には金のたてがみと白銀の翼のある それは大きな白龍が空を隠すがごとく雄大に浮かんでいた。
ーーう、うそ………なにあれ………龍!?
私は あまりの衝撃に口を開けたまま、瞬きをするのも忘れるくらい目を大きく見開いて、その場に固定されていたように硬直してしまう。
生まれて初めて あんな大きな生き物を見たーーー日本昔話どころじゃない!!
ほ、本当に龍だ………ドラゴンだよ! マジで!? しかも迫力が半端ない!! 体が竦んで、う、動けない!!
そんな私の前で黒姫が肩を竦める。
「やっと重い腰をあげたわね。だけど もう少し大人しめに出てこれないの? 深夜も近いのに ご近所迷惑じゃない」
『こうして わざわざ出てきてやれば減らず口を。我の現状では力が不安定で、人の姿すら取る事もままならん。それを疲労困憊にある天神をこき使おうとは。お前達は我を過労死させるつもりか?』
白龍の表情は喜怒哀楽が全く分からないものの、空気を震わすような不機嫌な重低音の声が響く。
「はいはい。お仕事が済めば十分に お休み頂いて結構よ。そもそも『天の神子』は貴方の管轄じゃない。
それなのに他人事のように人間任せにして、なにか問題が生じたら貴方達が困るんじゃないの?
もう一つ言わせてもらえば私達、異世界の人間にとって この世界はそれこそ『他人事』なんだからね」
『ふん、その見返りは“天の恩恵”として与えているではないか。まあ、よい。時間が無いのであったな。ーーして、その娘が五人目の“大熊猫”か?」
「ええ、そうよ。さあ、早く調べて頂戴!」
言うなり黒姫は私の腕を引いて強引に前方に押し出した。しかし あまりの衝撃のショックからか私の思考回路は完全にショートしてしまったらしく言葉を失ったまま硬直し、
まさに蛇に睨まれたカエルーーいや、龍に睨まれた、という状態で白龍の金色の鋭い眼力に晒されていた。
ーーひぃぃぃ。こ、怖いぃぃぃ。目を逸らしたいのに逸らせないぃぃぃ。
「どうかしら? 何か分かる? 応龍?」
黒姫の問いかけに天龍が唸る。
『ーーううむ、そう急かすな、少し待て。この娘の あらゆる念が邪魔をして中身が視えん。
………んんっ? ーー黒姫!! 直ぐに皆を退避させるのだ!! ここにいる人間達よ!! 今すぐ城内に退避するのだ!!』
突如として白龍の様子が一変して辺りに緊迫が走る。
私は一体何が起こったのかと周囲に視線を向けると、そこには四人の神子達の内の一人の少年が頭を抱えて うずくまっていた。
しかも その体がなにやら白い光に包まれて、その光が激しく点滅を繰り返している。
ーーえ? な、なに??
すると少年が大きく叫んだと同時に それに呼応するように白い光が大きく膨張して大爆発を起こす。
それは その場にある空間全てを白い光が呑み込むように世界は白一色に支配され、そんな私の意識も一瞬にして時の彼方に消え去った。
ーーーその後、辺りに静けさが戻る。しかし そこには五人目の神子の姿だけが無く、地面には『大熊猫』の木彫りの人形がコロンと虚しく転がっていた………
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