上 下
82 / 97
【小話】~サイドストーリー

【小話⑧ー3真相~すれ違い】

しおりを挟む
【小話⑧ー3】



そんな弟の言葉に国王の爆笑が廊下に響く。

「わははは、お前が小心者だとは笑わせる。 ああ、そういえばお前は隠れムッツリだからな。お前は昔からその鉄面皮で感情を隠すのが上手いが、リルディアにはそんな小細工は通じんぞ? 

しかもお前は私がリルディアを甘やかしていると言うが、そう言うお前だって実のところはリルディアにかなり弱いくせにな。私には全てお見通しだ」


それを聞いてクラウスの表情が更に不機嫌な顔になる。


「………隠れムッツリとは心外ですね。私は陛下のようにむやみにリルディアを甘やかしたりは致しません。それに私はあの子に我が国の王女としてこの先も立派に成長をげる事を願っています。

ですからあの子の間違いを正す者がいないのであれば、私が叔父おじとしてあの子の間違いを正し本来の道へ戻すのは私の役目であるとも思っています」


国王はそんなクラウスに含み笑いを浮かべながらクツクツと笑っている。


「ククッ、如何いかにもお前らしい馬鹿真面目な優等生の模範解答ではあるな。しかしそれではリルディアの心はつかめんぞ? 何の面白味もないつまらない人間になど私のように直ぐにきてしまう。

…………なあ? クラウス。ーーもし、リルディアが望むのであればセルリアの王太子などではなく、お前にリルディアをくれてやろうと思ったのに、そんな生半可な事では我が娘の相手になるには、まだまだ修行が足りないぞ?」


突然の国王の耳を疑うような発言にクラウスは目を見開き初めてその表情に驚きが浮かぶ。


「………それは何の冗談ですか。全く笑えません。ーー私はあの子の叔父なのですよ? しかも親子と言っても良いくらいです。そもそも『近親婚』などともはや人としての常識や道徳から外れているではありませんか。いくら冗談にしてもその様な不適切な言葉は安易に口にして良いものではありません」


あからさまに不機嫌な感情を隠せない口調で物申すクラウスに国王は面倒くさげに、わざとらしい大きなため息をつく。


「ーーはあぁ、お前は本当に岩石のごとく岩頭の堅物人間だな。つまらんヤツだ。しかもこの私がそんな誰とも知れない人間が作った常識や道徳なんぞにとらわれるとでも思うのか? 

確かに我が国では親子、きょうだい、祖父母などとの近親の婚姻は#禁じてはいるがな。“叔父と姪”の組み合わせというのは婚姻は可能なのだぞ?

ーーまあ、他の国では禁じているところもあるとは聞くがな。しかもお前と私は異母兄弟であり、父系統でしか血が繋がってはいない。これが両方同親であればさすがに私も考えるところではあるがーー

まあ、その点、お前の場合は実の叔父とは言ってもリルディアとは血縁的には近くて遠い親戚みたいなものだろう?  これが上のイルミナ達であればあまりに近しい近親であるので問題にはなるがな。

それに年齢の差など王家の人間にしてみれば大した問題でもない。実際我等が父王も自分の娘とも孫とも言っておかしくないお前の母親と婚姻して、お前が生まれたのだし、この私も然り、エルヴィラは長女のイルミナとは同い歳だからな。

そう考えてみれば我がブランノアの王家の男は代々そういう性質なのかもしれん。それにリルディアは今はまだ子供であってもあと数年で直ぐに大人になる。しかも母親同様に世の男共が放っておけないほどの世にも希少な『絶世の美女』になるのだ。

ーーそれなのに、今でさえ、こんなに美人で可憐な私の可愛いリルディアのどこに不満があるというのだ? しかもそんな若く美しい絶世の美女を労せずしてめとれるというのだ。これほどの幸運な男は世界中のどこを探しても中々いるものではないのだぞ?」


もはや病的とも言えるほどに娘を溺愛し過ぎている父親の言葉とも思えずに、クラウスは相手が悪いだけにその対応に困り果てた様に思わず片手でひたいを押さえる。


「………不満はあります。勿論もちろん、リルディアにではなく貴方あなたにですーー陛下。たとえ貴方と私が異母兄弟ではあっても私には先代のブランノアの国王の血が流れていて、兄である貴方の娘のリルディアにも同じ血が流れている事には変わりありません。

そして近かれ遠かれ同じ血が流れている以上、たとえ国で婚姻が許されているのだとしても私にとっては決して踏み外してはならない人としての『一線』なのです。ですから私はこれからもずっとリルディアの『叔父』です。それは生涯変わる事はありません」


それを聞いた国王は深いため息をつくとやれやれと言わんばかりに肩をすくめて首を横に振る。


「ーー本当にどうにもブランノアの血統は私も含めてだが思い通りにならん人間ばかりが多いな。ーーまあ、確かにお前なら絶対にそう言うと思ってはいたが、お前とルディアの結婚話というのは私の中では半分は『冗談』半分は『本気』でお前に振ってはみたが、お前がそう簡単に受け入れるわけもないしな。

しかもお前は昔から自分にも他人にも厳しい『高潔の王子』と呼ばれているくらい我が国でもっとも陥落するのが難しい男だ。お前がもう少し柔軟に考えられるヤツなら苦労はしないんだが、生まれ持った性分は変えられんし。

ーーうむむ、しかしこれではリルディアが可哀想ではないか。相手に勝負をいどむ前から玉砕してしまっているのでは泣くに泣けんぞ? リルディアを不幸にする男は絶対に許せんが、それが自分の可愛がっている大事な弟である場合、どうすればよいというのだ。これでは私も身動きがとれんではないか!」


そう言いながらも大袈裟に頭を抱えてうなる国王に、クラウスも額を片手で押さえ首を振りつつ長い息を吐く。


「陛下ーーそのようにリルディアが私に惚れているかのような前提でものを言うのは止めて下さい。何度も言う様ですが、あの子はまだ子供です。しかもどうして私とリルディアをそこまでしてくっつけようとするのです?

そもそもリルディアが自ら選んだ相手はセルリアのユーリウス王太子です。彼は大変素晴らしい非の打ち所のない王子で、しかもリルディアをすごく大切にしているのは端から見ていてもよく分かります。彼なら間違いなくリルディアを幸せにしてくれる事でしょう」


その言葉に国王も弟と同じ様に片手で額を押さえながら頭を何度も横に振る。


「………お前は本当に男と女の事に関しては全くの無知だな。いくら歳は重ねてはいても恋愛感覚は子供並みであるとは、何とも情けない。同じ『男』としてはあきれてものも言えんぞ?

それにーーいいか? 今のその言葉はリルディアの前では絶対に言うな。ーーいいな? 『絶対』にだ!! お前の口からそれを聞いたらそれこそリルディアが死んでしまいかねん」


「は? 死ぬなどと何を大袈裟なーーー」


そんな首を傾げているクラウスを国王はやや乱暴気味に自分の方へと引き寄せると、その頭を羽交はがめにする。


「うぐっ!! 陛下……何を!?」


「馬鹿者!! お前は何も分かってはいない! 女が失恋した上にその相手から『他の男に幸せにしてもらえ』などと言わてみろ!! 感受性の特に強いリルディアのような純真な娘には、その小さな心臓に大きな槍をグッサリと一突きにされたようなものだ。

それこそ世をはかなんで衝動的に自ら命を絶たないと言い切れるか? あのリルディアだぞ? 何をするのかなんて誰にも予測などつけられんだろうが」


「ーーっつ、」





【⑧ー続】



















 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

生贄

竹輪
恋愛
十年間王女の身代わりをしてきたリラに命令が下る。 曰く、自分の代わりに処女を散らして来いと……。 **ムーンライトノベルズにも掲載しています

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...