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4章 社会人編
<10>変化と戸惑い
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ジェニングス領は王都からそう遠くない。馬車も魔力を施しているため通常の2分の1の時間で到着できた。
馬車を降りるとエディが手を振りながら走ってくる。
「兄さん!! あれ、ジェラルド様??」
満面の笑みは俺の肩を抱いて隣に立つジェラルドに気がつくと、困惑の表情に変わる。
俺はエディの裾をひっぱり耳打ちした。
「悪い。今日、公休日だろ。暇だから着いてくるって聞かなくて……ごめんな。準備、なにもしてないよな」
公的な訪問ではないが、王子がやってくるならそれなりの対応をしなければならない。エディは伝えておくべきだった。
両手を合わせて謝ると、エディはなんとも言えない目で俺を見る。
「そういう意味じゃないんだけど……うん、まあ大丈夫」
そして気持ちを切り替えるようにして笑うと、アランへ話しかけた。
「こんにちは。僕はエドワード・ジェニングス。ユージンの弟だよ。よろしくね」
少し警戒の色を帯びていたアランの目がパッと輝く。
「俺、アランです! 大好きなユージン様の弟さんならエドワードさんのことも大好き! このおっさんと違って」
アランがジェラルドを指差す。ジェラルドは優雅に微笑んでいるが額にはビキビキと青筋が浮いている。
エディは一瞬だけ真顔になったが、その後なぜか下を向いて細かく震えだす。
「……っ、ぶっ、あ、アラン、みんなの所に行こうか。俺が案内する……よっ」
それだけ言うと、エディはアランを連れて走り去ってしまった。
アランは何度か振り向いて手を振ってくれた。
「ユージン様! また会おうね!! 俺、おっさんとの婚約は全力で反対だよー!!」
どう返事をしていいものかわからず、曖昧に微笑んで手を振り返すに留める。二人の姿が遠くなった頃、ジェラルドが口を開いた。
「本当におまえは……」
その目は俺のことを恨めしそうに見えている。
「え!? 俺ですか!?」
悪態を吐いたのはアランだし、笑ったのもエディだし俺は関係なくない? そう思ったがジェラルドはため息を吐いて俺の頬をつつく。
「本当に……少し目を離しただけで……人誑しにもほどがある」
「なんの話です?」
意味がわからず首を傾げると、頬をつついていた白く長い指が首の後ろに移動する。ぐっと引き寄せらせた耳の中に、言葉を流し込むようにして囁かれた。
「おまえの可愛さや魅力が、俺にしか分からなきゃいいのにって話だ」
「な……っ」
一気に顔が赤くなるのが自分でもわかる。身体中が熱い。なんでこいつは恥ずかしくなるような甘いセリフを普通に吐けるんだろうか。
「顔、真っ赤になってる……すごく可愛い」
蕩けるような甘い笑顔と声。いたたまれなくなって俯こうとすると、もう片方の手が顎にかけられる。
「こんなに可愛い顔、無防備に晒して……俺以外に見せたくないな、絶対に」
アクアマリンの瞳は切なそうに揺れていた。
「か、かわいく、なんか……」
「可愛いよ。おまえは世界一可愛い。可愛すぎて心配で屋敷に一生閉じ込めたい。それぐらい、可愛い」
「な、に言って……」
恥ずかしくて死にそうで。いくら逸らしても、ジェラルドの熱い視線を痛いほどに感じてしまう。どうしていいかわからなくなってぎゅっと目を閉じる。
顔の近くで、途方に暮れたようなため息が聞こえた。
「ユージン……俺をどうしたいんだ。そんな可愛い顔されたら……キスしたくてたまらなくなる、ここに」
親指の腹が下唇を優しくなぞる感触。もう長いことしていない、いつかのジェラルドの熱いキスを思い出して身体中が燃えるように熱くなってくる。
「日頃、どれだけ俺が我慢してるのか、わかってないだろう。ちゃんと好きになってもらうまでは……って思ってるのに。おまえはそうやって煽ってくるんだな」
下唇をなぞっていた親指が移動して、顎を押すようにして下げる。
自然に少しだけ開いた唇に、熱い吐息がかかる。
「ダメだ。もうこれ以上、我慢できそうにない……」
掠れた甘い声に心臓が早鐘を打つ。
あ、キスされる。緊張でさらに強く目を閉じた瞬間、ふっと視界が明るくなる。
「あぇ……?」
目を開けると、前に立っていたはずのジェラルドがいない。
「真っ昼間の公衆の面前で盛ってんじゃねーぞタコ!」
「いいだろう婚約者なんだから! おまえこそ毎回いいところで邪魔するんじゃない!」
数メートル先で、ジェラルドとその腕をガッチリと掴んだウォルターが騒いでいるのが目に入った。
(た、助かった……けどちょっと残念かも……って、何考えてんだよ!!)
無意識に零れ出た心の声を打ち消すように、俺は左右に頭を強く振りながら両手で顔を叩いた。
馬車を降りるとエディが手を振りながら走ってくる。
「兄さん!! あれ、ジェラルド様??」
満面の笑みは俺の肩を抱いて隣に立つジェラルドに気がつくと、困惑の表情に変わる。
俺はエディの裾をひっぱり耳打ちした。
「悪い。今日、公休日だろ。暇だから着いてくるって聞かなくて……ごめんな。準備、なにもしてないよな」
公的な訪問ではないが、王子がやってくるならそれなりの対応をしなければならない。エディは伝えておくべきだった。
両手を合わせて謝ると、エディはなんとも言えない目で俺を見る。
「そういう意味じゃないんだけど……うん、まあ大丈夫」
そして気持ちを切り替えるようにして笑うと、アランへ話しかけた。
「こんにちは。僕はエドワード・ジェニングス。ユージンの弟だよ。よろしくね」
少し警戒の色を帯びていたアランの目がパッと輝く。
「俺、アランです! 大好きなユージン様の弟さんならエドワードさんのことも大好き! このおっさんと違って」
アランがジェラルドを指差す。ジェラルドは優雅に微笑んでいるが額にはビキビキと青筋が浮いている。
エディは一瞬だけ真顔になったが、その後なぜか下を向いて細かく震えだす。
「……っ、ぶっ、あ、アラン、みんなの所に行こうか。俺が案内する……よっ」
それだけ言うと、エディはアランを連れて走り去ってしまった。
アランは何度か振り向いて手を振ってくれた。
「ユージン様! また会おうね!! 俺、おっさんとの婚約は全力で反対だよー!!」
どう返事をしていいものかわからず、曖昧に微笑んで手を振り返すに留める。二人の姿が遠くなった頃、ジェラルドが口を開いた。
「本当におまえは……」
その目は俺のことを恨めしそうに見えている。
「え!? 俺ですか!?」
悪態を吐いたのはアランだし、笑ったのもエディだし俺は関係なくない? そう思ったがジェラルドはため息を吐いて俺の頬をつつく。
「本当に……少し目を離しただけで……人誑しにもほどがある」
「なんの話です?」
意味がわからず首を傾げると、頬をつついていた白く長い指が首の後ろに移動する。ぐっと引き寄せらせた耳の中に、言葉を流し込むようにして囁かれた。
「おまえの可愛さや魅力が、俺にしか分からなきゃいいのにって話だ」
「な……っ」
一気に顔が赤くなるのが自分でもわかる。身体中が熱い。なんでこいつは恥ずかしくなるような甘いセリフを普通に吐けるんだろうか。
「顔、真っ赤になってる……すごく可愛い」
蕩けるような甘い笑顔と声。いたたまれなくなって俯こうとすると、もう片方の手が顎にかけられる。
「こんなに可愛い顔、無防備に晒して……俺以外に見せたくないな、絶対に」
アクアマリンの瞳は切なそうに揺れていた。
「か、かわいく、なんか……」
「可愛いよ。おまえは世界一可愛い。可愛すぎて心配で屋敷に一生閉じ込めたい。それぐらい、可愛い」
「な、に言って……」
恥ずかしくて死にそうで。いくら逸らしても、ジェラルドの熱い視線を痛いほどに感じてしまう。どうしていいかわからなくなってぎゅっと目を閉じる。
顔の近くで、途方に暮れたようなため息が聞こえた。
「ユージン……俺をどうしたいんだ。そんな可愛い顔されたら……キスしたくてたまらなくなる、ここに」
親指の腹が下唇を優しくなぞる感触。もう長いことしていない、いつかのジェラルドの熱いキスを思い出して身体中が燃えるように熱くなってくる。
「日頃、どれだけ俺が我慢してるのか、わかってないだろう。ちゃんと好きになってもらうまでは……って思ってるのに。おまえはそうやって煽ってくるんだな」
下唇をなぞっていた親指が移動して、顎を押すようにして下げる。
自然に少しだけ開いた唇に、熱い吐息がかかる。
「ダメだ。もうこれ以上、我慢できそうにない……」
掠れた甘い声に心臓が早鐘を打つ。
あ、キスされる。緊張でさらに強く目を閉じた瞬間、ふっと視界が明るくなる。
「あぇ……?」
目を開けると、前に立っていたはずのジェラルドがいない。
「真っ昼間の公衆の面前で盛ってんじゃねーぞタコ!」
「いいだろう婚約者なんだから! おまえこそ毎回いいところで邪魔するんじゃない!」
数メートル先で、ジェラルドとその腕をガッチリと掴んだウォルターが騒いでいるのが目に入った。
(た、助かった……けどちょっと残念かも……って、何考えてんだよ!!)
無意識に零れ出た心の声を打ち消すように、俺は左右に頭を強く振りながら両手で顔を叩いた。
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