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3章 王立学院編ー後編―

<63>対話3

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そうしてたっぷり5分間、俺たちは何も言わずただ目の前を相手を見ていた。見つめ合う、なんてロマンチックなものではない。

「どうしたら、俺に振り向いてもらえるか……って言いました? 今」
「い、言った……」

「なんで」
「あ、アイツは正体を隠して作家をやってるんだよ。聞いたことないか、おまえ本読むだろ。ディーン・オリバー」

「え! あの恋愛小説家の!?」
「そうだ。そいつがオリヴィアなんだ。言うなよ、バレたら殺される」

ディーン・オリバーは何年も前からヒット作を連発している恋愛小説家だ。バッドエンドからハッピーエンドまで、ありとあらゆるジャンルを書いているのだが、そのどれもが外れなく面白い。

さらに俺が気にっているのは、彼――ではなかったわけだが――の描く食事やティータイムのシーンだ。とても美味しそうな描写で、食べてみたいと思わせるようなさまざまな料理やケーキが出てくるのだ。

「アイツは昔から変なやつだったが、恋愛小説においてはプロだ。恋愛マニュアル本も出してる。だからその……恥をしのんで、アイツに教え乞うたんだよ……結局、大失敗したみたいけどな」

「でもカリアドデーにお菓子をあげてましたよね」
「相談に乗る見返りだ。カリアドデーだって忘れてたしな。あとで気付いて、おまえにもらえなくて落ち込んだ」

「それは……二人で一緒にいるのを見たから、てっきり、その……」
「この際だから言っておくが、アイツのことを恋愛対象とかそういう目で見たことは一度もない。子どもの頃は会うたびに泣かされたりいじめられたりしていたんだ」

「あんな綺麗な人がですか……?」
「おい、まさかあの女に惚れたのか」

急にジェラルドの声が低くなり、目つきが険しくなる。
「あ、いやいや! そんなことは! ただ驚いただけです!!」

ジェラルドの圧に必要以上に全力で否定してしまう。
「そうか。ならいい。これでわかっただろ?」

「あ、でも……」
「なんだ、まだあるのか」

「告白してましたよね、あの人に」
「……っ」

落ち着いてきていたジェラルドの顔色が、また再び真っ赤になる。
「あれ、は……練習に付き合ってもらってたんだ」

「練習?」
「そうだ……もう一度、おまえに真剣に気持ちを伝えようと思って。相談したらアイツに、おまえの心に響く言葉を考えろって言われて、それで……クソ」

ジェラルドは大きくため息を吐いてがっくりと肩を落とした。俯いていて、どんな表情をしているかまでは見えてこない。

「俺らしくないだろ。こんなバカげたことをしてるなんて。こんなにみっともなくて情けない姿を知られなくなかったんだ」
「ジェラルド様……」

今まで見たことのないジェラルドの姿に戸惑って、思わず駆け寄る。すると俯いていたはずのジェラルドが素早く俺の手首を掴んだ。

「な、なんですか……」
ジェラルドがゆっくりと顔を上げる。顔はまだ紅潮していて、アクアマリンの瞳はきらきらと輝いて見える。

「……そんなに気にしてたってことは、俺のこと少しは好きになってくれたと思っていいのか」
低く掠れた甘い声に、心臓が勢いよく高鳴り始めた。
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