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3章 王立学院編ー後編―
58<想いを告げる>※ジュリアン視点
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ぎくしゃくしているジェラルドとユージンの様子が、ある時から輪を掛けておかしくなった。めげずにユージンを追いかけていたジェラルドもユージンに構わない。
何かあれば騒ぐエディとウォルターが何も言わないのも気になる。
けれど、ただならぬ雰囲気にさすがに踏み込むこともできない。おかしな空気を纏う二人を横目で見ながら、あっという間に時は流れていく。
気がつけばもう、卒業まであと2ヶ月という時期まできていた。
ルーイと俺は学院を卒業したら自国へ帰らなければならない。帰国後は少しずつ公務を覚え、そうして国のためになる相手と結婚する……。
事実、少し前から見合い用の写真が寮に届くようなっていた。国内外の両家のオメガの写真がはめ込まれた豪華なフォトアルバムが部屋の隅に重なっていく。
もう人生に夢を見ることも許されないなのだと言われているようで、胸が重い。だがこれが王族に生まれついた人間の宿命なのだということもわかっている。
それでもまだ、心がモヤモヤしているのは踏ん切りをつけられないままの、恋心のせいだろうか。
癒されたくて向った菜園で、その相手と鉢合わせするとは思わなかった。小さくため息を吐いたユージンに思わず声をかけてしまう。
「どうしたのさ。ため息なんか吐いて。俺の国ではため息を吐くと幸せが逃げるって言われてる」
「ジュリアン先輩。びっくりさせないでくださいよ。いつからいたんですか」
「たった今。アンタのため息がデカすぎて、声かけちゃった」
「そんな大きかったです? やべえ、自覚なかったな……」
俺たちはどちらからともなくベンチに腰を下ろした。
「もうすぐ卒業ですね」
「うん。あの野暮ったい国に帰ったら公務とかお見合いで忙しくなりそう。あと少しで俺のモラトリアムも完全に終わっちゃうよ」
「お見合い……するんですか?」
ユージンは少し驚いているみたいだ。
「するでしょそりゃ。こう見えて俺、王族だし。今も毎日、見合いの写真がじゃんじゃん届いてんの。見てないけど」
「興味ないんですか?」
「ていうか別に、俺が見たところで決めるのは父上や宰相だからね。どうしても嫌とか、どうしてもこの人がいいみたいな強い希望があれば教えてってぐらいのもん」
「そうですか……」
ユージンは何か考え込むように視線を俯ける。
「国もよると思うけどね。ジェラルドとアンタの場合、政治的な面だけで決まったわけじゃなさそうだし」
「そうですかね……」
ユージンはさらに俯いてしまった。
「アイツとなんかあったわけ? まあどう見てもなんかあったんだなとは思ってたけど」
「ですよね。先輩たちに……特にルーイ先輩に、絶対突っ込まれるだろうって覚悟してたんですけど」
「ルーイもああ見えてちゃんとしてるとこもあるから……いや、どうだろ……ないかも」
自問しているとユージンが小さく笑った。そういえばユージンの笑った顔を見るのはとても久しぶりな気がする。
「興味本位とかで聞くほど野暮じゃないつもりだから。ただアンタがあんまり大人しくて暗い顔してばっかだと、俺たちも調子狂う」
俯く頭を軽く撫でると、ユージンが顔を上げた。サファイヤブルーの瞳には悲しみが揺れているように見える。
「ジェラルド様とは、卒業前に婚約破棄することになると思います」
「……は?」
驚きと動揺で声が掠れる。ユージンはつらそうに言葉を続けた。
「ジェラルド様には、本当に心から愛している方がいらっしゃるんです。だからきっと、プロムの前には俺たちの婚約破棄が発表になると思います」
次の瞬間、衝動的に俺の腕が動きユージンを胸に閉じ込めてしまう。自分でも自分の行動に驚いてしまった。
「え? ジュリアン先輩?」
わたわたと腕の中で慌てるユージンをさらにきつく抱き締める。
「なら、俺と来る?」
「……はい?」
「俺と一緒にフルールに来る? ジェニングス家なら父上も宰相も文句ないだろうし。野暮ったい国だけど、土とか植物が好きなアンタなら楽しめるんじゃない。それに……俺もアンタが一緒なら、あの国に帰るのも嫌じゃないかも」
「そ、それってつまりあの……」
心の奥底に沈めておくはずだった想いは、ほんの少しの希望の光を感じただでこうも簡単に浮上してしまう。
「ジェラルドと婚約破棄するなら、俺と婚約すればって言ってんの」
「え、と……それはなんで、ですかね……」
俺は腕の中に捕えたユージンの青い瞳を見下ろす。少し身体に力が入って彼が身構えたのがわかる。俺は視線をしっかり合わせたまま、大きく息を吐く。まさか自分が恋愛なんかにこんなsにも必死になるなんて、思ってもみなかった。
「決まってるでしょ。アンタのことが好きだから……本当はずっと、好きだった」
ユージンの瞳が、零れ落ちそうなほど大きく見開かれた。
何かあれば騒ぐエディとウォルターが何も言わないのも気になる。
けれど、ただならぬ雰囲気にさすがに踏み込むこともできない。おかしな空気を纏う二人を横目で見ながら、あっという間に時は流れていく。
気がつけばもう、卒業まであと2ヶ月という時期まできていた。
ルーイと俺は学院を卒業したら自国へ帰らなければならない。帰国後は少しずつ公務を覚え、そうして国のためになる相手と結婚する……。
事実、少し前から見合い用の写真が寮に届くようなっていた。国内外の両家のオメガの写真がはめ込まれた豪華なフォトアルバムが部屋の隅に重なっていく。
もう人生に夢を見ることも許されないなのだと言われているようで、胸が重い。だがこれが王族に生まれついた人間の宿命なのだということもわかっている。
それでもまだ、心がモヤモヤしているのは踏ん切りをつけられないままの、恋心のせいだろうか。
癒されたくて向った菜園で、その相手と鉢合わせするとは思わなかった。小さくため息を吐いたユージンに思わず声をかけてしまう。
「どうしたのさ。ため息なんか吐いて。俺の国ではため息を吐くと幸せが逃げるって言われてる」
「ジュリアン先輩。びっくりさせないでくださいよ。いつからいたんですか」
「たった今。アンタのため息がデカすぎて、声かけちゃった」
「そんな大きかったです? やべえ、自覚なかったな……」
俺たちはどちらからともなくベンチに腰を下ろした。
「もうすぐ卒業ですね」
「うん。あの野暮ったい国に帰ったら公務とかお見合いで忙しくなりそう。あと少しで俺のモラトリアムも完全に終わっちゃうよ」
「お見合い……するんですか?」
ユージンは少し驚いているみたいだ。
「するでしょそりゃ。こう見えて俺、王族だし。今も毎日、見合いの写真がじゃんじゃん届いてんの。見てないけど」
「興味ないんですか?」
「ていうか別に、俺が見たところで決めるのは父上や宰相だからね。どうしても嫌とか、どうしてもこの人がいいみたいな強い希望があれば教えてってぐらいのもん」
「そうですか……」
ユージンは何か考え込むように視線を俯ける。
「国もよると思うけどね。ジェラルドとアンタの場合、政治的な面だけで決まったわけじゃなさそうだし」
「そうですかね……」
ユージンはさらに俯いてしまった。
「アイツとなんかあったわけ? まあどう見てもなんかあったんだなとは思ってたけど」
「ですよね。先輩たちに……特にルーイ先輩に、絶対突っ込まれるだろうって覚悟してたんですけど」
「ルーイもああ見えてちゃんとしてるとこもあるから……いや、どうだろ……ないかも」
自問しているとユージンが小さく笑った。そういえばユージンの笑った顔を見るのはとても久しぶりな気がする。
「興味本位とかで聞くほど野暮じゃないつもりだから。ただアンタがあんまり大人しくて暗い顔してばっかだと、俺たちも調子狂う」
俯く頭を軽く撫でると、ユージンが顔を上げた。サファイヤブルーの瞳には悲しみが揺れているように見える。
「ジェラルド様とは、卒業前に婚約破棄することになると思います」
「……は?」
驚きと動揺で声が掠れる。ユージンはつらそうに言葉を続けた。
「ジェラルド様には、本当に心から愛している方がいらっしゃるんです。だからきっと、プロムの前には俺たちの婚約破棄が発表になると思います」
次の瞬間、衝動的に俺の腕が動きユージンを胸に閉じ込めてしまう。自分でも自分の行動に驚いてしまった。
「え? ジュリアン先輩?」
わたわたと腕の中で慌てるユージンをさらにきつく抱き締める。
「なら、俺と来る?」
「……はい?」
「俺と一緒にフルールに来る? ジェニングス家なら父上も宰相も文句ないだろうし。野暮ったい国だけど、土とか植物が好きなアンタなら楽しめるんじゃない。それに……俺もアンタが一緒なら、あの国に帰るのも嫌じゃないかも」
「そ、それってつまりあの……」
心の奥底に沈めておくはずだった想いは、ほんの少しの希望の光を感じただでこうも簡単に浮上してしまう。
「ジェラルドと婚約破棄するなら、俺と婚約すればって言ってんの」
「え、と……それはなんで、ですかね……」
俺は腕の中に捕えたユージンの青い瞳を見下ろす。少し身体に力が入って彼が身構えたのがわかる。俺は視線をしっかり合わせたまま、大きく息を吐く。まさか自分が恋愛なんかにこんなsにも必死になるなんて、思ってもみなかった。
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ユージンの瞳が、零れ落ちそうなほど大きく見開かれた。
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