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3章 王立学院編ー後編―
48<ジェラルドの憂鬱>※ジェラルド視点
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間違いない、ユージンに避けられている。
自分でも気がつかないようにしていたその事実をルーイに突きつけられ、俺はがっくりと肩を落とす。
生徒会のないとある放課後、俺たちはなんとなくジュリアンの部屋に集まっていた。
「やはり、そうだろうか……」
落ち込む俺の前に、ジュリアンが紅茶の入ったティーカップを置いてくれる。
「ユージンって嘘つけないタイプだもんね。ジェラルドと目が合っただけで猫に狙われたネズミみたいに飛び上がって逃げてから、皆気づいていると思うよ」
正面に偉そうに幅を取って座っているルーイの赤い瞳が面白そうに輝いている、
「だが例の阿呆どもからあいつを助けたのはおまえだろう。今回ばかりは礼を言われることはあっても嫌われることはないだろうに」
「二人とも。そんなにはっきり言われると、さすがの俺も応えるぞ」
だがルーイに向けた精一杯の虚勢を張った笑顔は自分でもわかるほど不自然に引き攣っている。
「心当たりはないのか?」
「ない、と思う」
ないどころか、目を覚ましたユージンとの会話はとても上手くいっていたと思う。彼に他に想う人がいても、今はそれでもいいと余裕と懐の広さも見せつけることができた。
(まあ実際は嫉妬ではらわたが煮えくり返りそうなんだが……)
ユージンに想われるなんて羨ましすぎて頭がおかしくなる。だが惚れ薬を作ろうとしていたことを考えると、上手くいっていないのだろう。
あんなに可愛いユージンに想いを向けられても受けとらないなんて、きっと死ぬほどバカな奴に決まってる。
「なにぼーっとしてんの」
ジュリアンの言葉にハッと我に返った。
「すまない。考え事をしていた」
「てかさ。ジェラルド、少し前からよく一緒にいる女の子いるじゃん?」
「は?」
心当たりがない。だがルーイも頷いている。首を傾げると呆れたように鼻を鳴らされた。
「薄紫の髪のアバディーン家のオメガの娘のことだ」
なるほど。俺はポンと手を打った。
「ああ! オリヴィアか。そうか、たしかに性別は女だな。あまりというかほとんど意識したことがなかったから、ピンとこなかったよ」
ジュリアンが驚いたように両眉を上げる。
「なにそれ。あの子めっちゃ可愛いじゃん」
その言葉にオリヴィアの顔を頭の中に思い浮かべてみた。
(そうか、あいつ確かに見た目は悪くないもんな。性格が凄まじすぎて忘れていたが)
「彼女は従姉だからね。あまり女性として見たことがなかったよ」
「なるほどな。だか周りはそうは思っちゃいないかもしれないぞ」
「ルーイ、どういう意味だ?」
「おまえとオリヴィアが想い合っているんじゃないかと噂になっているぞ」
「はぁ!?」
青天の霹靂である。思わず素の叫びを上げてしまった。
「そんなこと絶対にありえない」
「でも、おまえが女の子と二人で話したりしてることって今までなかったじゃん。皆、口には出さないけどびっくりしてるし注目されてるよ」
「ジュリアンまで……。でも彼女とは何もないなからな。ただの従姉だし。そのうちバカな噂もおさまるだろう」
そう言うとルーイとジュリアンは互いに顔を見合わせ、やれやれとでも言うように肩を竦めた。二人してなんなんだろう。
「もしかしたらユージンも気にしてるのかもよ?」
ジュリアンの言葉に俺は勢いよく左右に首を振った。
「いやいや、それはない。絶対にない」
「なぜそう言い切れるんだ?」
不思議そうなルーイの問いを笑ってごまかして立ち上がる。
「俺はもう行くよ。週末の公務の準備をしないと」
部屋の扉を閉めて、小さくため息を吐いた。俺とオリヴィアが噂になっているのは驚きだった。だが恋愛小説家の従姉に恋愛相談をしているなんて誰にも言えない。だがやましいことは何一つないし、根拠や確証のない噂はすぐに立ち消えるものだ。
ユージンだって、きっと気にもとめていない。だってあいつには想う人がいるのだから。
俺は大きなため息を吐いて自室へと戻った。
自分でも気がつかないようにしていたその事実をルーイに突きつけられ、俺はがっくりと肩を落とす。
生徒会のないとある放課後、俺たちはなんとなくジュリアンの部屋に集まっていた。
「やはり、そうだろうか……」
落ち込む俺の前に、ジュリアンが紅茶の入ったティーカップを置いてくれる。
「ユージンって嘘つけないタイプだもんね。ジェラルドと目が合っただけで猫に狙われたネズミみたいに飛び上がって逃げてから、皆気づいていると思うよ」
正面に偉そうに幅を取って座っているルーイの赤い瞳が面白そうに輝いている、
「だが例の阿呆どもからあいつを助けたのはおまえだろう。今回ばかりは礼を言われることはあっても嫌われることはないだろうに」
「二人とも。そんなにはっきり言われると、さすがの俺も応えるぞ」
だがルーイに向けた精一杯の虚勢を張った笑顔は自分でもわかるほど不自然に引き攣っている。
「心当たりはないのか?」
「ない、と思う」
ないどころか、目を覚ましたユージンとの会話はとても上手くいっていたと思う。彼に他に想う人がいても、今はそれでもいいと余裕と懐の広さも見せつけることができた。
(まあ実際は嫉妬ではらわたが煮えくり返りそうなんだが……)
ユージンに想われるなんて羨ましすぎて頭がおかしくなる。だが惚れ薬を作ろうとしていたことを考えると、上手くいっていないのだろう。
あんなに可愛いユージンに想いを向けられても受けとらないなんて、きっと死ぬほどバカな奴に決まってる。
「なにぼーっとしてんの」
ジュリアンの言葉にハッと我に返った。
「すまない。考え事をしていた」
「てかさ。ジェラルド、少し前からよく一緒にいる女の子いるじゃん?」
「は?」
心当たりがない。だがルーイも頷いている。首を傾げると呆れたように鼻を鳴らされた。
「薄紫の髪のアバディーン家のオメガの娘のことだ」
なるほど。俺はポンと手を打った。
「ああ! オリヴィアか。そうか、たしかに性別は女だな。あまりというかほとんど意識したことがなかったから、ピンとこなかったよ」
ジュリアンが驚いたように両眉を上げる。
「なにそれ。あの子めっちゃ可愛いじゃん」
その言葉にオリヴィアの顔を頭の中に思い浮かべてみた。
(そうか、あいつ確かに見た目は悪くないもんな。性格が凄まじすぎて忘れていたが)
「彼女は従姉だからね。あまり女性として見たことがなかったよ」
「なるほどな。だか周りはそうは思っちゃいないかもしれないぞ」
「ルーイ、どういう意味だ?」
「おまえとオリヴィアが想い合っているんじゃないかと噂になっているぞ」
「はぁ!?」
青天の霹靂である。思わず素の叫びを上げてしまった。
「そんなこと絶対にありえない」
「でも、おまえが女の子と二人で話したりしてることって今までなかったじゃん。皆、口には出さないけどびっくりしてるし注目されてるよ」
「ジュリアンまで……。でも彼女とは何もないなからな。ただの従姉だし。そのうちバカな噂もおさまるだろう」
そう言うとルーイとジュリアンは互いに顔を見合わせ、やれやれとでも言うように肩を竦めた。二人してなんなんだろう。
「もしかしたらユージンも気にしてるのかもよ?」
ジュリアンの言葉に俺は勢いよく左右に首を振った。
「いやいや、それはない。絶対にない」
「なぜそう言い切れるんだ?」
不思議そうなルーイの問いを笑ってごまかして立ち上がる。
「俺はもう行くよ。週末の公務の準備をしないと」
部屋の扉を閉めて、小さくため息を吐いた。俺とオリヴィアが噂になっているのは驚きだった。だが恋愛小説家の従姉に恋愛相談をしているなんて誰にも言えない。だがやましいことは何一つないし、根拠や確証のない噂はすぐに立ち消えるものだ。
ユージンだって、きっと気にもとめていない。だってあいつには想う人がいるのだから。
俺は大きなため息を吐いて自室へと戻った。
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