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3章 王立学院編ー後編―
42<瞼の裏に浮かぶのは>
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ウォルターが俺たちの家によく遊びに来るようになったある日。庭で木登り競争をしていた俺は調子に乗って林檎の木から落ちて気絶したのだ。
目が覚めた時には俺は自室のベッドの上、そのすぐ傍で俺の手を左右からウォルターとエディが握ったまま眠っていた。
「あの日、ユージンが木から落ちた時はなぜか使用人たちがいなかたんだ。目を閉じたまま動かなくなったおまえを前にして、俺もエディもどうしたらいいかわからなくて、怖くて……ただ泣くことしができなかった」
「そんなの当然だろ。おまえたちはまだ小さかったんだし」
ウォルターは静かに首を左右に振る。
「でも……どうしてかすぐにアイツが現れて、おまえを抱きかかえて部屋に戻ったんだ。そしてすぐに医者を呼んで、家族にも知らせて……ただ泣くことしができなかった俺たちとは違って、ちゃんとユージンを守ってた。あの時も、今も……そして俺はあの時も今も、お前のことを守れなかった」
泣きそうな顔で笑うウォルターに言葉が出てこない。
「だせえよな。おまえのこと大切にするとか守るとか言ってるくせに」
小さな声で呟いて、ウォルターは静かに立ち上がった。
「ウォルター?」
俺を見下ろすすみれ色の瞳には、力強い意志が宿っている。
「……俺、出直すわ」
「出直す?」
なんのことかと聞き返すと、ウォルターは力強く頷いた。
「ユージンのことは好きだ。今までもこれからも。それだけはずっと変わらない」
「そっか、ありがとな」
「これからもっともっと努力して、ジェラルドに負けないぐらいいい男になるから……そしたらもう1回だけ俺の気持ち、伝えてもいいか?」
真剣な眼差し。ウォルターがどれだけ俺のことを想ってくれるかが伝わってきて、胸を打たれる。
俺はすみれ色の瞳としっかりと視線を合わせて頷いた。
「おう。待ってる!」
ウォルターはほっとしたように笑って少し体を屈めると、俺をそっと抱き締めた。
「ありがとな。好きだよ……大好き。世界で一番、ユージンだけが好きだ」
熱烈な愛の言葉を浴びて、自然と顔が熱くなる。ウォルターはそっと腕を外し、もう一度だけ俺の目を見て好きだと告げると一度も振り返らずに部屋を出て行く。
扉が閉まると、俺は背中からゆっくりとシーツに沈み込んだ。
(アイツ、いつの間にあんなかっこいいこと言うようになったんだよ)
最初はバッドエンド回避の目的で近づいたけれど、ウォルターはいつの間にかエディと同じくらい可愛い弟のような存在になった。
(あいつらのこと、ずっと俺が守ってやらなきゃと思ってたのに)
自分の気持ちがわからない今はウォルターの想いに応えることはできない。けれど、もしもう一度、彼が俺に気持ちを告げる時が来たら。
(その時は、俺もしっかり受け止めて向き合おう)
そろそろ、わからないのを理由に考えることをやめるのではなく、自分の心の奥深くをしっかりと見なければならないのかもしれない。
(俺の気持ちは……)
目を閉じると、なぜかあいつの顔が浮かんできた。
目が覚めた時には俺は自室のベッドの上、そのすぐ傍で俺の手を左右からウォルターとエディが握ったまま眠っていた。
「あの日、ユージンが木から落ちた時はなぜか使用人たちがいなかたんだ。目を閉じたまま動かなくなったおまえを前にして、俺もエディもどうしたらいいかわからなくて、怖くて……ただ泣くことしができなかった」
「そんなの当然だろ。おまえたちはまだ小さかったんだし」
ウォルターは静かに首を左右に振る。
「でも……どうしてかすぐにアイツが現れて、おまえを抱きかかえて部屋に戻ったんだ。そしてすぐに医者を呼んで、家族にも知らせて……ただ泣くことしができなかった俺たちとは違って、ちゃんとユージンを守ってた。あの時も、今も……そして俺はあの時も今も、お前のことを守れなかった」
泣きそうな顔で笑うウォルターに言葉が出てこない。
「だせえよな。おまえのこと大切にするとか守るとか言ってるくせに」
小さな声で呟いて、ウォルターは静かに立ち上がった。
「ウォルター?」
俺を見下ろすすみれ色の瞳には、力強い意志が宿っている。
「……俺、出直すわ」
「出直す?」
なんのことかと聞き返すと、ウォルターは力強く頷いた。
「ユージンのことは好きだ。今までもこれからも。それだけはずっと変わらない」
「そっか、ありがとな」
「これからもっともっと努力して、ジェラルドに負けないぐらいいい男になるから……そしたらもう1回だけ俺の気持ち、伝えてもいいか?」
真剣な眼差し。ウォルターがどれだけ俺のことを想ってくれるかが伝わってきて、胸を打たれる。
俺はすみれ色の瞳としっかりと視線を合わせて頷いた。
「おう。待ってる!」
ウォルターはほっとしたように笑って少し体を屈めると、俺をそっと抱き締めた。
「ありがとな。好きだよ……大好き。世界で一番、ユージンだけが好きだ」
熱烈な愛の言葉を浴びて、自然と顔が熱くなる。ウォルターはそっと腕を外し、もう一度だけ俺の目を見て好きだと告げると一度も振り返らずに部屋を出て行く。
扉が閉まると、俺は背中からゆっくりとシーツに沈み込んだ。
(アイツ、いつの間にあんなかっこいいこと言うようになったんだよ)
最初はバッドエンド回避の目的で近づいたけれど、ウォルターはいつの間にかエディと同じくらい可愛い弟のような存在になった。
(あいつらのこと、ずっと俺が守ってやらなきゃと思ってたのに)
自分の気持ちがわからない今はウォルターの想いに応えることはできない。けれど、もしもう一度、彼が俺に気持ちを告げる時が来たら。
(その時は、俺もしっかり受け止めて向き合おう)
そろそろ、わからないのを理由に考えることをやめるのではなく、自分の心の奥深くをしっかりと見なければならないのかもしれない。
(俺の気持ちは……)
目を閉じると、なぜかあいつの顔が浮かんできた。
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