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3章 王立学院編ー後編―

34<狂気の企み>

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焦りや動揺を気取られてはクレメントの思うツボだ。俺はできるだけ感情が顔にでないよう、無表情を取り繕う。

「お前さ、今から自分が何されるのか全然わかってないだろ?」
「……ああ」

ヒステリックな興奮状態の人間を刺激するのは良くない。俺は相手の動向を観察しながら慎重に答えた。

クレメントは薄笑いを浮かべながら一歩、後ろに下がる。入れ替わりに3人の男が前出てくる。制服を着ているところから見ても、学院の生徒であることは間違いない。

(賊は絡んでなさそうだな。コイツの単独犯か……)
3人とも明らかに強い力のあるアルファだとわかる容姿をしている。クレメントはこれでも公爵家の子息だし、こいつらもそれ相応の貴族なんだろう。

「ここでやるのもなんだから、ベッドに運ぶぞ」
一人が俺の身体を持ち上げて姫抱きにしてベッドへと運ぶ。

「……すごい埃だな」
もう一人の男がベッドを見て顔を顰め、呪文を唱えると埃だらけのベッドはあっという間に清潔な新品へと変わった。俺の身体は静かにベッドに横たえられた。

(いったい何が始まるんだ……今度こそ集団リンチか?)
緊張で身体に力が入る。男たちを掻き分けてクレメントが不気味な笑顔で近づいてくる。

何をする気だと身を硬くしていると、クレメントはニヤニヤしながら俺の上に馬乗りになった。

そうして俺の上着と中に着ているシャツのボタンをあっという間に外していく。
露わになった俺の上半身を無表情に眺めながら、クレメントは右手をポケットに突っ込んだ。

この状態でナイフを突き刺されでもしたら、確実に死ぬ。
(転生したのに早死にすぎるだろ……)

だがクレメントのポケットから出てきたのはナイフではなく薄紅色の透明なボトルだった。

クレメンスは俺の顔にそのボトルを近づけると、左右に軽く振ってみせる。
中には粘性のある液体が入っているように見えた。

「ねえユージンくん。これ、なんだと思う?」

クレメントは楽しそうに俺に問いかけた。興奮しているのか、瞳孔が完全に開ききっている。

俺が答えるのを待たずに、彼は瓶をさかさまにひっくり返してボトルの栓を抜いた。中のどろどろとした液体が俺の顔や上半身に中の液体が振りかかってくる。

「おい! 何すんだよ!」
思わず上半身を起こして叫ぶと、アルファの男たちに肩のあたりを強く押され、再びシーツの波に沈んでしまう。

クレメンスはもう1本、ポケットから今度は水色のボトルを取り出して同じように俺に振りかけた。

「やめろ! なんのつもりだよ!」
だがクレメントは何も言わずにベッドから降りた。そうして何も言わずに俺のことをじろじろ無遠慮に眺めてる。今すぐ殴りたいニヤけ面に腹の中から怒りが湧いてきた。

だが次第に上半身が異常な熱を持ち始める。同時にゾクゾクとした寒気も感じる。まるで風邪で高熱が出る前のように気分が悪い。

「くっ、そ……」
身体に力も入らず、頭もぼうっとしてくる。

(この状態、あのマンドレイクの時に似てねえか…!?)
まさか。身体は熱いが心臓に冷水をかけられたようにぞっとする。もしかしてクレメントが俺に振りかけたのは、媚薬の類なのではないだろうか。

「お、い……っ! おまえっ……な、に……」
だが事態は俺の想像を超えた、もっと恐ろしいものだった。

「もしかして媚薬か何かだと思ってる? ざーんねん! もっとヤバいやつ!僕らみたいな未発達のオメガにも効いちゃう、強制ヒート誘発剤でしたぁ!」

クレメントは狂ったように笑っている。その目には絶望の色を浮かべた俺の顔がはっきりと映っていた。
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