90 / 152
3章 王立学院編ー後編―
28<恋は怖いもの>
しおりを挟む
「はぁ!? な、なに言って――」
「声が大きい」
「あ、すみません。で、でも、冗談がすぎますよ」
「そんなつまらない冗談を俺が言うと思うか?」
見上げたルビー色の瞳は見たことがないほど真剣な色を浮かべていた。
「先輩、男女問わずモテまくりじゃないですか。なんで俺のことなんか」
正直に言って本当によくわからない。近隣の大国の大貴族、しかもこの国の王族と血縁が深いこともあって学院内にはルーイ先輩に気に入られようとする生徒たちがあふれていた。
他国の王子たちは留学中に出会った令嬢や令息と恋人同士になり、そのまま卒業と同時に結婚することも少なくないという。
それに俺の記憶が正しければ、ルーイ先輩もジュリアンと同じくらい派手に遊んでいた気がする。
「いきなり好きなんて言われても……信じられないです」
正直に感じたままの思いを伝えてみる。ルーイ先輩は少し笑って、俺の髪を優しく撫でた。
「そういう正直で用心深いところも好みだ。最初はこの国の王子の婚約者のオメガだけあって美しい容姿をしているな、ぐらいにしか思っていなかった。だが生徒会を通してお前の貴族とは思えないような地に足がついた考え方や価値観に興味を持つようになって、気づいたらおまえのことを自分のものにしたいと思うようになった……そんなところだ」
想像以上にしっかりと答えてくれたことに、なんだか気恥ずかしくなってしまう。
(先輩はかなりヤバい人だけど、こんな風に思ってくれていたのは嬉しい。でも、その気持ちにどう答えていいのかわからない)
なんと返事をしていいのかわからずに俯いてしまうと、優しく顎に手がかけられる。
「ユージン、こっちを見ろ」
命令形の言葉とは裏腹に、声は優しい。目を上げると視界いっぱいに綺麗な赤が広がる。
いつも狂気を帯びているその瞳は、見たこともないほど甘く蕩けている。先輩は優しく言いながら俺の頬をそっと撫でた。
「強引に俺のものにすることもできなくはないが、一番欲しいのはお前の身体ではなくて心だからな。ジェラルドに愛想が尽きたらいつでも俺のところに来るがいい」
そう言うとほんの一瞬だけ俺を抱き締めると部屋から出て行った。
「な……なんなんだ、あの人」
一人残された室内で呟く。触れられた頬が熱い。俺の知っているルードヴィッヒ・ヴェルトハイムはこんなことをする男ではなかったはずだ。
自分が欲しいものを手に入れるためならどんな手段を使うことも厭わない。ゲームをプレイしながら、そもそも主人公のことも自分の所有物と考えているように思えて最後まで好きになれなかったのだ。
(そのルーイがあんなこと言うなんて……!)
思い出すだけでもドキドキしてしまう。こんな風に誰かに好意を寄せられる経験は前世でもしことがない。
(婚約破棄してアウスブルクに行けば、もうジェラルドのことで悩まなくてもよくなるのか。いやでもルーイ先輩は一人で満足するようなタイプじゃないし、側室やら愛人やらガンガン作るよなあ。無理だ)
貴族らしからぬ考えかもしれないけれど、やっぱり俺は自分が好きになった人とはお互いに相手だけを見ていたい。
そう思うと同時にジェラルドとあの女生徒が頭の中に浮かぶ。自分の気持ちはまだよくわからないけれど、俺は結婚相手に自分以外の相手がいる環境にはきっと耐えらない。
俺はどこかで命を燃やすような激しい恋に憧れていたから前世でもさまざまな恋愛シュミレーションゲームをプレイしていたんだと思う。
けれど実際に好意を向けられると、嬉しさより戸惑いの方が勝つ。それにまだ自分の気持ちがよくわからない状態なのに相手側の一挙手一投足に心が乱されてしまう。
今でさえこんなにも情緒が不安定になっているのに、誰かのことを好きだと自覚して恋が始まったら。俺はどうなってしまうんだろうか。
考えると少し怖い。ユージンのメンヘラっぷりを”恋愛脳のバカ”と軽蔑していたが、この様子だと俺がそうなってもおかしくはない気がする。
(恋愛って恐ろしいものだな……)
やっぱり婚約は破棄して、当初の予定通りにおひとりさまの悠々自適ライフルートを開拓するのが一番なんじゃないだろうか。
今までて一番納得のいく結論が出た気がして、俺はほっと息を吐いた。
「声が大きい」
「あ、すみません。で、でも、冗談がすぎますよ」
「そんなつまらない冗談を俺が言うと思うか?」
見上げたルビー色の瞳は見たことがないほど真剣な色を浮かべていた。
「先輩、男女問わずモテまくりじゃないですか。なんで俺のことなんか」
正直に言って本当によくわからない。近隣の大国の大貴族、しかもこの国の王族と血縁が深いこともあって学院内にはルーイ先輩に気に入られようとする生徒たちがあふれていた。
他国の王子たちは留学中に出会った令嬢や令息と恋人同士になり、そのまま卒業と同時に結婚することも少なくないという。
それに俺の記憶が正しければ、ルーイ先輩もジュリアンと同じくらい派手に遊んでいた気がする。
「いきなり好きなんて言われても……信じられないです」
正直に感じたままの思いを伝えてみる。ルーイ先輩は少し笑って、俺の髪を優しく撫でた。
「そういう正直で用心深いところも好みだ。最初はこの国の王子の婚約者のオメガだけあって美しい容姿をしているな、ぐらいにしか思っていなかった。だが生徒会を通してお前の貴族とは思えないような地に足がついた考え方や価値観に興味を持つようになって、気づいたらおまえのことを自分のものにしたいと思うようになった……そんなところだ」
想像以上にしっかりと答えてくれたことに、なんだか気恥ずかしくなってしまう。
(先輩はかなりヤバい人だけど、こんな風に思ってくれていたのは嬉しい。でも、その気持ちにどう答えていいのかわからない)
なんと返事をしていいのかわからずに俯いてしまうと、優しく顎に手がかけられる。
「ユージン、こっちを見ろ」
命令形の言葉とは裏腹に、声は優しい。目を上げると視界いっぱいに綺麗な赤が広がる。
いつも狂気を帯びているその瞳は、見たこともないほど甘く蕩けている。先輩は優しく言いながら俺の頬をそっと撫でた。
「強引に俺のものにすることもできなくはないが、一番欲しいのはお前の身体ではなくて心だからな。ジェラルドに愛想が尽きたらいつでも俺のところに来るがいい」
そう言うとほんの一瞬だけ俺を抱き締めると部屋から出て行った。
「な……なんなんだ、あの人」
一人残された室内で呟く。触れられた頬が熱い。俺の知っているルードヴィッヒ・ヴェルトハイムはこんなことをする男ではなかったはずだ。
自分が欲しいものを手に入れるためならどんな手段を使うことも厭わない。ゲームをプレイしながら、そもそも主人公のことも自分の所有物と考えているように思えて最後まで好きになれなかったのだ。
(そのルーイがあんなこと言うなんて……!)
思い出すだけでもドキドキしてしまう。こんな風に誰かに好意を寄せられる経験は前世でもしことがない。
(婚約破棄してアウスブルクに行けば、もうジェラルドのことで悩まなくてもよくなるのか。いやでもルーイ先輩は一人で満足するようなタイプじゃないし、側室やら愛人やらガンガン作るよなあ。無理だ)
貴族らしからぬ考えかもしれないけれど、やっぱり俺は自分が好きになった人とはお互いに相手だけを見ていたい。
そう思うと同時にジェラルドとあの女生徒が頭の中に浮かぶ。自分の気持ちはまだよくわからないけれど、俺は結婚相手に自分以外の相手がいる環境にはきっと耐えらない。
俺はどこかで命を燃やすような激しい恋に憧れていたから前世でもさまざまな恋愛シュミレーションゲームをプレイしていたんだと思う。
けれど実際に好意を向けられると、嬉しさより戸惑いの方が勝つ。それにまだ自分の気持ちがよくわからない状態なのに相手側の一挙手一投足に心が乱されてしまう。
今でさえこんなにも情緒が不安定になっているのに、誰かのことを好きだと自覚して恋が始まったら。俺はどうなってしまうんだろうか。
考えると少し怖い。ユージンのメンヘラっぷりを”恋愛脳のバカ”と軽蔑していたが、この様子だと俺がそうなってもおかしくはない気がする。
(恋愛って恐ろしいものだな……)
やっぱり婚約は破棄して、当初の予定通りにおひとりさまの悠々自適ライフルートを開拓するのが一番なんじゃないだろうか。
今までて一番納得のいく結論が出た気がして、俺はほっと息を吐いた。
387
お気に入りに追加
5,149
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる