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3章 王立学院編ー後編―
25<わからない>
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「結局、お礼を言うどころじゃなくなってしまった……」
生徒会の後、用事があると皆をごまかして急いで部屋に戻ってしまった。
「何してんだろ、俺。さすがに今日のは失礼だったよなあ」
大きなため息とともに、ソファに座りこむ。あの後も、なぜか目を合わせることができなかった。
ジェラルドが近くにいるだけで落ち着かずにソワソワしてしまったし、皆から見てもかなり挙動不審だったと思う。
(もしかしてまだ薬が残っていたのかもしれないな)
だからって、自分を助けてくれた人にあんな態度を取っていい理由にはならない。
(やっぱり早く会ってお礼を言わないと)
ジェラルドは今日、あの後も先輩たちと話をすると言っていた。きっとまだ寮には戻ってきていないはずだ。
俺は部屋を飛び出して、階段を駆け下りた。玄関までたどり着くと寮の門の辺りに見慣れた銀髪が目に入る。
「ジェラルドさ――」
呼びかけたと同時に、隣に誰かいるのがわかった。薄紫色の長い髪と紫紺の瞳。
それを見た瞬間、俺は考えるより先に瞬間移動で自室に戻っていた。
門の方向が見える窓からそっと外を覗く。寮の門前でジェラルドとあの女生徒が話をしている。2人の距離がやけに近い。
しばらく2人は立ち話をしていたが、女生徒がジェラルドの腕を引っ張る。ジェラルドは引っ張られるままに彼女に従って再び学校の方へと戻っていく
2人の姿が視認できなくなるまで見送った後、俺は窓辺を離れてソファに戻った。
ジェラルドは男女ともに学内でも高い人気を誇る。
だが婚約者がいることもあってか、本当に限られた人たちとしか2人きりで話すことはなかった。特定の女生徒と一緒にいる場面を見かけるようになったのも、あのカレイドデーの日からだ。
それまではジェラルドが女生徒と話しているところすら見たことはなかった。
(やっぱりあの子のことが好きなのかな。付き合ってるのかな)
だったら当初の予定通りに、さっさと俺と婚約破棄してあの子と婚約すればいいのに。それなのにジェラルドは俺のことが好きだと言う。
「わけわかんねえよ……」
ジェラルドが何を考えているのかわからなくて、モヤモヤする。
ソファに仰向けに転がって目を閉じた。思い出したくないのに、2人の姿が瞼の裏に浮かんでくる。ジェラルドはあの子ともキスをするのだろうか。俺としたみたいに。
(昨日みたいなことも、いや……今まで俺としたようなこと全部、あの子ともしているのだろうか)
そんなことはジェラルドの自由だ。もし本当に俺のことが好きだとしても、同じようにあの子のことも好きだというだけなのかもしれない。
(王族って、普通に側室とかいるの当たり前だしな……)
それに俺のことが好きだとは言っていたけど、俺だけとは限らない。男のオメガの中では俺のことだけが好きという意味だったのかもしれないし。
考えれば考えるほど、何が正しいのかわからなくなる。
(そもそも俺、ジェラルドが何を考えてるかわかるほどあいつのことわかってないんだよなあ)
一緒に過ごしてきた時間は長い。けれどその間、俺の頭の中にあったのはいかにして己のバドエンを回避するということだけだった。それだけを考えて、ジェラルドにも接してきた。
(俺、今まで全然アイツ自身について考えたこと全然なかったんだな……)
今までの俺ならそれの何が悪いと思ったに違いない。けれど今の俺は、なぜかそれではいけないような気持ちになっていた。
生徒会の後、用事があると皆をごまかして急いで部屋に戻ってしまった。
「何してんだろ、俺。さすがに今日のは失礼だったよなあ」
大きなため息とともに、ソファに座りこむ。あの後も、なぜか目を合わせることができなかった。
ジェラルドが近くにいるだけで落ち着かずにソワソワしてしまったし、皆から見てもかなり挙動不審だったと思う。
(もしかしてまだ薬が残っていたのかもしれないな)
だからって、自分を助けてくれた人にあんな態度を取っていい理由にはならない。
(やっぱり早く会ってお礼を言わないと)
ジェラルドは今日、あの後も先輩たちと話をすると言っていた。きっとまだ寮には戻ってきていないはずだ。
俺は部屋を飛び出して、階段を駆け下りた。玄関までたどり着くと寮の門の辺りに見慣れた銀髪が目に入る。
「ジェラルドさ――」
呼びかけたと同時に、隣に誰かいるのがわかった。薄紫色の長い髪と紫紺の瞳。
それを見た瞬間、俺は考えるより先に瞬間移動で自室に戻っていた。
門の方向が見える窓からそっと外を覗く。寮の門前でジェラルドとあの女生徒が話をしている。2人の距離がやけに近い。
しばらく2人は立ち話をしていたが、女生徒がジェラルドの腕を引っ張る。ジェラルドは引っ張られるままに彼女に従って再び学校の方へと戻っていく
2人の姿が視認できなくなるまで見送った後、俺は窓辺を離れてソファに戻った。
ジェラルドは男女ともに学内でも高い人気を誇る。
だが婚約者がいることもあってか、本当に限られた人たちとしか2人きりで話すことはなかった。特定の女生徒と一緒にいる場面を見かけるようになったのも、あのカレイドデーの日からだ。
それまではジェラルドが女生徒と話しているところすら見たことはなかった。
(やっぱりあの子のことが好きなのかな。付き合ってるのかな)
だったら当初の予定通りに、さっさと俺と婚約破棄してあの子と婚約すればいいのに。それなのにジェラルドは俺のことが好きだと言う。
「わけわかんねえよ……」
ジェラルドが何を考えているのかわからなくて、モヤモヤする。
ソファに仰向けに転がって目を閉じた。思い出したくないのに、2人の姿が瞼の裏に浮かんでくる。ジェラルドはあの子ともキスをするのだろうか。俺としたみたいに。
(昨日みたいなことも、いや……今まで俺としたようなこと全部、あの子ともしているのだろうか)
そんなことはジェラルドの自由だ。もし本当に俺のことが好きだとしても、同じようにあの子のことも好きだというだけなのかもしれない。
(王族って、普通に側室とかいるの当たり前だしな……)
それに俺のことが好きだとは言っていたけど、俺だけとは限らない。男のオメガの中では俺のことだけが好きという意味だったのかもしれないし。
考えれば考えるほど、何が正しいのかわからなくなる。
(そもそも俺、ジェラルドが何を考えてるかわかるほどあいつのことわかってないんだよなあ)
一緒に過ごしてきた時間は長い。けれどその間、俺の頭の中にあったのはいかにして己のバドエンを回避するということだけだった。それだけを考えて、ジェラルドにも接してきた。
(俺、今まで全然アイツ自身について考えたこと全然なかったんだな……)
今までの俺ならそれの何が悪いと思ったに違いない。けれど今の俺は、なぜかそれではいけないような気持ちになっていた。
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