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3章 王立学院編ー後編―

20<惚れ薬、失敗!?>

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「よし……! やるか」
あの後すぐに早退が許された俺は、急いで寮へ戻ってきた。制服からゆったりとした部屋着に着替えると、ベッドの上にあぐらをかいて座り込む。

目の前には例の小瓶と惚れ薬のレシピ。レシピの最後に書かれた呪文の詠唱方法をもう一度確認する。

「えーと……3回唱えればいいんだよな」
初めての呪文はいつも少し緊張する。背筋を伸ばして小瓶の蓋を取って両手で持つと、中の液体に語りかけるつもりで詠唱を始めた。

「クリーステフリステキューリエ、クリーステフリステキューリエ、クリーステフリステキューリエ……」

詠唱が終わると、小瓶の中にボコボコと沸騰したような気泡わき出して液体が薄紅色から真紅に変わる。そうして気泡が落ち着く頃には濃いピンク色に変化していた。中にはキラキラと金粉や銀粉のような粒子の細かい粉も見える。

「これで成功……だよな?」
レシピには薄桃色と書かれているが、目の前の液体は明らかにどぎついピンク色に見える。

俺は小瓶の蓋を閉めて腕組みをした。
(これ、まさか失敗じゃないよな? 詠唱は間違いなく完璧なはずだし。何か薬草の量を間違えてしまったとか……?)

だが自慢じゃないが俺はこれでも元・敏腕調理員だ。先生の目を盗みながらとはいえレシピを読み間違えるわけがない。これでいいはずだ。

「とりあえずどんな味か見ておくか」
惚れ薬は一定量を摂取しないと効果がないので、少量の摂取であればなんの効果もない。それに試作用のマンドレイクは実験でちょっと拝借してきたものがまだある。

俺は小瓶を軽く振ってから、中身をほんの少しだけスポイトに取って舌の上に数滴垂らしてみた。

「すげー甘い」
ごく少量なのに舌の上に強い甘みが広がる。まるで砂糖を直接舐めているかのようだ。念のため少し時間を置いてみたが特に身体にも変化はない。やはり惚れ薬作りは成功したみたいだ。

残りの液体を使って、さっそく試作のお菓子を考え始める。
「この量でここまで甘いならチョコレートはカカオの成分が高いものにした方がいいな。あとは……砂糖もいらないな。苦みと酸味が強いフルーツも合いそうだから、オレンジも使ってみよう。まずは1回、そんな感じで作ってみるか」

作ったお菓子も少量ずつやエディたちとわけて食べるのであれば惚れ薬が発動してしまうこともない。ある程度頭の中でレシピを組み立ててメモを取る。

それを手に立ち上がろうとした瞬間、突然強い眩暈に襲われてバランスを崩してベッドにうつ伏せに倒れ込んでしまった。

「あ、れ……?」
寝不足で立ち眩みでもしてしまったんだろうか。再び起き上がろうと両腕に力を入れる。だがどういうわけか力が入らない。なんとか少し身体を起こせたものの、力尽きて再び寝転んでしまった。

次第に身体が内側から熱を帯びてくる。やがて心臓は早鐘を打って頬は火のように熱くなる。全身の肌もじっとりと汗ばんできた。

風邪が悪化したのかと思ったが、そうではなかった。その証拠に俺の下半身は異常なほどに元気になっていた。

「なん、だ……これ」
焦りと動揺で掠れた声で俺は一人呟いた。
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