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3章 王立学院編ー後編―
10<宣戦布告>※ウォルター視点
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ユージンの部屋の扉を静かな閉めた途端、空気がピリつくほどの殺気を感じた。
魔力による気配ではない。明らかにこれは戦場で感じる大丈夫類のものだ。
(どうせ気づいてんだとは思ってたけどな)
廊下の暗闇に向かって俺は声をかけた。
「ストーカー男は嫌われんじゃねーの?いくら婚約者でもな」
暗闇の中、ギラギラと怒りに燃えるアクアマリンの双眸が俺を睨みつけてくる。だがこんなもの、今の俺にとっては怖くもなんともない。無言で怒りを燃やす恋敵に肩をすくめてみせた。
「俺は別に今ここで一戦交えてもいいけど」
「……何をしていた」
地を這うような低い声。こんなに怒っているところは初めて見た。それほどユージンに本気だということなのだろう。だがそれは俺だって同じだ。
「アンタに話す義理はねえよ」
煽るように言うと次の瞬間、胸ぐらを掴まれた。壁に背中と後頭部を打ち付けられたが、こんなの痛みのうちにも入らない。肉食獣のような獰猛な瞳を前に、男としての本能が戦いを挑みたくなってしまう。
「……服伸びる。離せよ」
ジェラルドは怒りを押し殺すようにフーフーと荒い息を吐きなが、ゆっくりと俺の胸元から手を離した。
乱れた衣服を整えながら再び攻撃を仕掛ける。
「まだ結婚もしてねーし、学校の後輩と絡むだけでそんなキレる必要ねえだろ。きつい束縛とどろっどろの嫉妬、アイツには似合わねえよ」
ジェラルドの瞳が確かに揺れた。自覚はあるのか。まだそこまでぶっ壊れちゃいねえのか。俺は瞼に力を込めてジェラルドを睨み返した。
「アンタの気持ちは自分勝手なんだよ。傷つけたり泣かせたりすることしかできねえなら、さっさと婚約破棄しろ」
「……そんなことおまえに言われる筋合いはない」
「さっき何してたかって聞いたよな? 俺が好きな奴と2人っきりで部屋にいて何もしねえと思うか?」
言い終わらないうちに目の前の景色が瞬時に変わった。視界には廊下の天井とシャンデリア、それに怒り狂ったジェラルドの顔が広がる。
「ってえ……」
後頭部をしたたかに打ちつけたせいか頭がガンガンする。
一拍遅れで、足払いをくらいって仰向けに転がされたのだと理解した。
腰あたりに馬乗りになったジェラルドは顔の両脇に手をついて俺を見ている。表情の抜け落ちた顔はまるで精巧な作りの人形のようで恐ろしい。
「おい。ユージンに何を……」
だがその声は扉の開く音にかき消され、そこら中に漂っていた殺気は一気に霧散する。
「2人とも…なにしてんの…ですか??」
ジェラルドと俺に同時に話しかけたせいか、敬語とタメ口が混ざり奇妙なことになっている。
ゆっくりと顔を横に向けると大きな目を溢れんばかりに見開いたユージンが俺たちを凝視していた。
「これは」
先ほどまでとは別人のような慌てた声が頭上で響く。
「いや待って。え? どういうこと? え? 2人って…そういう…でも…え??」
その瞬間、俺はすぐに理解した。俺の上に馬乗りになり、床ドンのような体勢になっているジェラルド。怒りからきている興奮で頬は上気して息も荒い。
そして俺は隙をつかれたとはいえなすがままで無抵抗…に見えなくもないだろう。
「ユージン……?」
間抜けな王子は何にも気がついていない。そのせいか姿勢はそのままに戸惑ったような声を出している。
「おい。勘違いすんなよ、これは」
不可抗力で、と言い終わる前にユージンはお邪魔しました!と大声で叫び、勢いよく扉を閉めてしまった。
「なにがどうしたんだ」
ぽかんとした表情でジェラルドが小さく呟く。
(ユージンもだけど、こいつも相当鈍いな)
「いつまで上に乗ってんだよ」
舌打ちをしながら睨みつけると、ジェラルドは素早く俺の上から退いた。
「アンタが俺のこと押し倒してるって勘違いしてる」
「は?!」
「声でけえ。どうせすぐ誤解だってわかんだろ……好きな奴にライバルとデキてるなんて勘違いされるなんてたまったもんじゃねえ」
俺の言葉に、ジェラルドの瞳に真剣な光が宿る。
「ウォルター。おまえが誰を好きになろうとそれはお前の自由だ。だがユージンは渡さない、絶対に」
いつも光の中を歩いてきた人間が持つ光のオーラに圧倒されそうになる。だが俺も、もう負けない。ユージンを守れる男になるために、どんな厳しい訓練も乗り越えてきたんだ。
両手を強く握りしめて、俺は口の端を釣り上げた。
「俺、ライバルがいる方が燃えるタイプなんだわ。これからは遠慮なくいくぜ」
宣戦布告、完了。俺は絶対に負けない。
魔力による気配ではない。明らかにこれは戦場で感じる大丈夫類のものだ。
(どうせ気づいてんだとは思ってたけどな)
廊下の暗闇に向かって俺は声をかけた。
「ストーカー男は嫌われんじゃねーの?いくら婚約者でもな」
暗闇の中、ギラギラと怒りに燃えるアクアマリンの双眸が俺を睨みつけてくる。だがこんなもの、今の俺にとっては怖くもなんともない。無言で怒りを燃やす恋敵に肩をすくめてみせた。
「俺は別に今ここで一戦交えてもいいけど」
「……何をしていた」
地を這うような低い声。こんなに怒っているところは初めて見た。それほどユージンに本気だということなのだろう。だがそれは俺だって同じだ。
「アンタに話す義理はねえよ」
煽るように言うと次の瞬間、胸ぐらを掴まれた。壁に背中と後頭部を打ち付けられたが、こんなの痛みのうちにも入らない。肉食獣のような獰猛な瞳を前に、男としての本能が戦いを挑みたくなってしまう。
「……服伸びる。離せよ」
ジェラルドは怒りを押し殺すようにフーフーと荒い息を吐きなが、ゆっくりと俺の胸元から手を離した。
乱れた衣服を整えながら再び攻撃を仕掛ける。
「まだ結婚もしてねーし、学校の後輩と絡むだけでそんなキレる必要ねえだろ。きつい束縛とどろっどろの嫉妬、アイツには似合わねえよ」
ジェラルドの瞳が確かに揺れた。自覚はあるのか。まだそこまでぶっ壊れちゃいねえのか。俺は瞼に力を込めてジェラルドを睨み返した。
「アンタの気持ちは自分勝手なんだよ。傷つけたり泣かせたりすることしかできねえなら、さっさと婚約破棄しろ」
「……そんなことおまえに言われる筋合いはない」
「さっき何してたかって聞いたよな? 俺が好きな奴と2人っきりで部屋にいて何もしねえと思うか?」
言い終わらないうちに目の前の景色が瞬時に変わった。視界には廊下の天井とシャンデリア、それに怒り狂ったジェラルドの顔が広がる。
「ってえ……」
後頭部をしたたかに打ちつけたせいか頭がガンガンする。
一拍遅れで、足払いをくらいって仰向けに転がされたのだと理解した。
腰あたりに馬乗りになったジェラルドは顔の両脇に手をついて俺を見ている。表情の抜け落ちた顔はまるで精巧な作りの人形のようで恐ろしい。
「おい。ユージンに何を……」
だがその声は扉の開く音にかき消され、そこら中に漂っていた殺気は一気に霧散する。
「2人とも…なにしてんの…ですか??」
ジェラルドと俺に同時に話しかけたせいか、敬語とタメ口が混ざり奇妙なことになっている。
ゆっくりと顔を横に向けると大きな目を溢れんばかりに見開いたユージンが俺たちを凝視していた。
「これは」
先ほどまでとは別人のような慌てた声が頭上で響く。
「いや待って。え? どういうこと? え? 2人って…そういう…でも…え??」
その瞬間、俺はすぐに理解した。俺の上に馬乗りになり、床ドンのような体勢になっているジェラルド。怒りからきている興奮で頬は上気して息も荒い。
そして俺は隙をつかれたとはいえなすがままで無抵抗…に見えなくもないだろう。
「ユージン……?」
間抜けな王子は何にも気がついていない。そのせいか姿勢はそのままに戸惑ったような声を出している。
「おい。勘違いすんなよ、これは」
不可抗力で、と言い終わる前にユージンはお邪魔しました!と大声で叫び、勢いよく扉を閉めてしまった。
「なにがどうしたんだ」
ぽかんとした表情でジェラルドが小さく呟く。
(ユージンもだけど、こいつも相当鈍いな)
「いつまで上に乗ってんだよ」
舌打ちをしながら睨みつけると、ジェラルドは素早く俺の上から退いた。
「アンタが俺のこと押し倒してるって勘違いしてる」
「は?!」
「声でけえ。どうせすぐ誤解だってわかんだろ……好きな奴にライバルとデキてるなんて勘違いされるなんてたまったもんじゃねえ」
俺の言葉に、ジェラルドの瞳に真剣な光が宿る。
「ウォルター。おまえが誰を好きになろうとそれはお前の自由だ。だがユージンは渡さない、絶対に」
いつも光の中を歩いてきた人間が持つ光のオーラに圧倒されそうになる。だが俺も、もう負けない。ユージンを守れる男になるために、どんな厳しい訓練も乗り越えてきたんだ。
両手を強く握りしめて、俺は口の端を釣り上げた。
「俺、ライバルがいる方が燃えるタイプなんだわ。これからは遠慮なくいくぜ」
宣戦布告、完了。俺は絶対に負けない。
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