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3章 王立学院編ー後編―

3<怪しい恋愛相談室> ※ジェラルド視点

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指定された場所に着くと顔いっぱいにニヤニヤ笑いを貼り付けたオリヴィアが待っていた。

その顔を見た瞬間、俺は彼女に相談しようと思ったことを後悔した。
「久しぶりねジェラルド。アンタが私に話しかけてくるなんて何年ぶりかしら。明らかに避けていたものね」

紺色がかった暗い紫色の目が怪しく光る。俺は昔から彼女の目が苦手だった。小さな頃に読んだ童話に出てくる魔女にそっくりだったから。

強張る表情筋をなんとか動かして、必死に王子スマイルを浮かべる。
「そ、そんなことはないさ。クラスも違うしお互い何かと忙しかったからね」

オリヴィアは探るような視線で俺をじっと見た後、鼻を鳴らして目を逸らした。
「まあいいわ。ジェラルドと仲良くしたらあの婚約者に消されそうだもの。それより相談があるんでしょ」

その態度に俺は心の中で毒づく。
(相変わらずいけ好かない上に尊大な奴だな。だが仕方ない。背に腹は代えられない)

「ああ……実は――」
「アンタ、バカじゃないの? この場で話すつもり? 誰が聞いてるかもわからないのに。ついて来なさい、いい場所があるのよ」
彼女は顎で寮とは反対方向の道を指し示した。 

到着したのは学舎エリアから少し離れたところにある部室棟だった。ここには学内で生徒たちが運営するさまざまな団体に割り振られた部屋が並んでいる。
「オリヴィア、きみ部活動をしていたのか?」
「形だけだけどね。文芸部。ま、部員は私一人だから気楽なもんよ。活動って言っても新刊や連載の執筆をしているだけだし」

「ああ、なるほど」
オリヴィアは今やいくつもの雑誌に連載を抱え、さらに年に何本も新刊を発売している人気の作家だ。

部室は小さいけれど思いのほか綺麗に整理されていて居心地は悪くない。
大きなデスクの上には紙とペン、それに資料なのだろうか、たくさんの本が積まれている。

部屋の大半を締めるデスクと少し離れたところに、1人がけのソファが2つと小さなティーテーブルが置いてあった。

オリヴィアにソファへ腰かけるように指示され、大人しく従う。オリヴィアはちょっと待っててというと奥の方へ消えていく。

しばらくすると部屋中に甘いココアの香りが広がり、大きなマグカップを2つ持ったオリヴィアが現れた。

「はい、コレどうぞ」
「ありがとう」

貴族令嬢らしからぬ雑さでティーテーブルにマグかドンと置かれる。彼女のココアは表面が見えないほどの生クリームが乗せられている。

オリヴィアは無表情でぬっと俺の前に手を突き出した。
「な、なにかな」

「報酬。前払いだから」
「ああ……どうぞ」

ピンク色の可憐なボックスを渡すと、彼女は丁寧に開封してボックスをデスクへ置いた。中の焼き菓子を大皿に載せてティーテーブルへ置くと、ものすごい勢いで食べ始める。

店で一番大きなボックスに入るだけ詰めてもらったので簡単になくなる量ではないが、その食べっぷりはまるで育ち盛りの男の子だ。

あっけにとられていると、オリヴィアは鼻に皺を寄せた。
「なに見てんの? さっさと本題に入んなさいよ」
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