64 / 153
3章 王立学院編ー後編―
2<ジェラルド、悩む> ※ジェラルド視点
しおりを挟む
俺の母はアルスター王国の閣僚の1人であるアバディーン公爵家の令嬢だった。
アバディーン家の王都の邸宅は王宮にほど近く、子どもの頃はよく遊びに行ったものだ。
母は四姉妹で、一番上の姉はやはり権力と富を持つプレストン侯爵家へ嫁いでいた。その子どもの1人に俺と同い年オリヴィアという娘――つまり同い年の従姉がいるのだ。
オリヴィアはオメガらしい美貌を持った少女だったが、すさまじく変わっていた。本が大好きで、いつも図書室にいた。本を読んだりものすごい勢いで何かをノートに書き連ねていたのを覚えている。
ある時、本当に偶然に彼女のノートを見てしまった俺は目を疑った。そこには俺の長兄であるシーモアと、オリヴィアの兄であるジェームスを主人公にした恋愛小説だったのだ。
「見たわね、アンタ……」
背後から囁かれたときの恐怖はいまだにトラウマになっている。俺は思いだして身震いした。
それ以来、俺は小説のネタにするからと、半ば無理矢理に参考になりそうなエピソードの収集や兄の日常についてを細かく取材されるようになった。
だがオリヴィアの小説は自分の兄たちがモデルという事をのぞけば素晴らし出来だった。いつかは俺もこんな恋をしたいと思うぐらいには。
それから少しして、王都でオメガの王子とアルファの侯爵令息の恋愛小説『マディソン侯爵の花嫁』が大流行した。作者は謎に包まれており、素性は一切明かされなかったが、俺は正体を知っていた。
何を隠そう、作者はオリヴィアその人だったから。さらにこの作品はシリーズ化され、舞台にもなり今なお続く人気シリーズになっている。
最初の1冊が刊行されたとき、オリヴィアは赤い表示に金色でタイトルの書かれた本を俺に贈ってくれた。
「アンタがおいしいネタをたくさん提供してくれたおかげで本が完成したわ。ありがとう。お礼にもしいつかアンタが恋して何か困ったことがあったら相談に乗ってあげる オリヴィア」
魔伝書鳩に託されたカードに目を通したとき、そんな機会は死ぬまでこないと思っていた。いたのだが。
成長してからはほとんど接触することのなかった従姉に、俺は何日も悩んだ挙句、意を決して魔伝書鳩を飛ばした。
「僕が恋をしたら相談に乗ってくれるんだよね。その時が来たようです。よろしくお願いします。 ジェラルド」
返事は恐ろしいほどすぐに戻ってきた。
「3日後の放課後、寮の近くで。詳細な場所は前日に連絡するわ。報酬は当日払いで。ギャラガー・ベーカリーのショートブレッドとアップルパイでお願いね。ピンク色のボックスに入れてプレゼントみたいに綺麗にラッピングしてもらってちょうだい。私、あの店のボックスを集めているのよ」
その返事に俺は舌打ちをしてしまう。
「お礼じゃなかったのか、どういう神経をしてるんだよ」
だがオリヴィアが変な奴なのは今に始まったことではない。俺は仕方なく彼女の所望する報酬を準備することにした。
ユージンとの仲を修復することで頭がいっぱいの俺は気づいていなかった。3日後がカレイドデーだということに。
アバディーン家の王都の邸宅は王宮にほど近く、子どもの頃はよく遊びに行ったものだ。
母は四姉妹で、一番上の姉はやはり権力と富を持つプレストン侯爵家へ嫁いでいた。その子どもの1人に俺と同い年オリヴィアという娘――つまり同い年の従姉がいるのだ。
オリヴィアはオメガらしい美貌を持った少女だったが、すさまじく変わっていた。本が大好きで、いつも図書室にいた。本を読んだりものすごい勢いで何かをノートに書き連ねていたのを覚えている。
ある時、本当に偶然に彼女のノートを見てしまった俺は目を疑った。そこには俺の長兄であるシーモアと、オリヴィアの兄であるジェームスを主人公にした恋愛小説だったのだ。
「見たわね、アンタ……」
背後から囁かれたときの恐怖はいまだにトラウマになっている。俺は思いだして身震いした。
それ以来、俺は小説のネタにするからと、半ば無理矢理に参考になりそうなエピソードの収集や兄の日常についてを細かく取材されるようになった。
だがオリヴィアの小説は自分の兄たちがモデルという事をのぞけば素晴らし出来だった。いつかは俺もこんな恋をしたいと思うぐらいには。
それから少しして、王都でオメガの王子とアルファの侯爵令息の恋愛小説『マディソン侯爵の花嫁』が大流行した。作者は謎に包まれており、素性は一切明かされなかったが、俺は正体を知っていた。
何を隠そう、作者はオリヴィアその人だったから。さらにこの作品はシリーズ化され、舞台にもなり今なお続く人気シリーズになっている。
最初の1冊が刊行されたとき、オリヴィアは赤い表示に金色でタイトルの書かれた本を俺に贈ってくれた。
「アンタがおいしいネタをたくさん提供してくれたおかげで本が完成したわ。ありがとう。お礼にもしいつかアンタが恋して何か困ったことがあったら相談に乗ってあげる オリヴィア」
魔伝書鳩に託されたカードに目を通したとき、そんな機会は死ぬまでこないと思っていた。いたのだが。
成長してからはほとんど接触することのなかった従姉に、俺は何日も悩んだ挙句、意を決して魔伝書鳩を飛ばした。
「僕が恋をしたら相談に乗ってくれるんだよね。その時が来たようです。よろしくお願いします。 ジェラルド」
返事は恐ろしいほどすぐに戻ってきた。
「3日後の放課後、寮の近くで。詳細な場所は前日に連絡するわ。報酬は当日払いで。ギャラガー・ベーカリーのショートブレッドとアップルパイでお願いね。ピンク色のボックスに入れてプレゼントみたいに綺麗にラッピングしてもらってちょうだい。私、あの店のボックスを集めているのよ」
その返事に俺は舌打ちをしてしまう。
「お礼じゃなかったのか、どういう神経をしてるんだよ」
だがオリヴィアが変な奴なのは今に始まったことではない。俺は仕方なく彼女の所望する報酬を準備することにした。
ユージンとの仲を修復することで頭がいっぱいの俺は気づいていなかった。3日後がカレイドデーだということに。
480
お気に入りに追加
5,370
あなたにおすすめの小説


美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる