上 下
56 / 152
2章 王立学院編ー前編―

45<ユージン、料理に励む>

しおりを挟む
「っしゃあ!! やるぞ!!」
デカい声を出して両頬をパンッと叩いて気合を入れた。

キッチンテーブルには所狭しとさまざまな材料が並んでいる。新鮮なバターや牛乳、卵にチーズ、生クリーム。小麦粉、米、それから新鮮なフルーツ。調味料も砂糖や塩、シナモンやバニラのほかにも庭から採ってきたハーブや野菜も並ぶ。

最初は甘いものだけ作ろうとしていたが、材料を集めているうちに塩気のあるものも作りたくなったのだ。

(今日は一人で暴食パーティでもするかな。残ったら魔法で保存すればいいし)

大きな大理石のまな板の上に小麦粉を円形に広げていく。真ん中をへこませて周囲を土手のように作ったら、その中に卵の黄身を次々と落とす。

(これ、エンスタで動画見てからやってみたかったんだよなあ)
黄身を全部入れたところで、スケールを使って小麦粉と卵を混ぜた。

サクサクという音、粉と卵黄を混ぜる水音や感触、匂い。そのすべてに心が癒され、頭もスッキリしていく。

誰かがストレス解消のために野菜をとにかく細かく刻むという話を聞いたことがあるが、その理由がよくわかる。

無心になって量ったり切ったり混ぜたりしているうちに、いつの間にか頭の中でぐるぐる回っていた思考は消えていく。

気づいたときには目の前に大量の料理やお菓子が出来上がっていた。クッキーやマドレーヌ、フィナンシェなどの焼き菓子や新鮮なフルーツを使った色とりどりのタルト。すりおろしたレモンの皮と絞り汁がたっぷり入った生地に、レモンのアイシングをかけたウィークエンドシトロン、それに紅茶やバニラで風味づけしたシフォンケーキやパウンドケーキなど。

おかず系はラザニアにミートローフ、それにフォカッチャをとにかく大きな付加皿を使う。特にフォカッチャは前から挑戦してみたかった、ガーデンフォカッチャを作った。

フォカッチャをキャンパス代わりにして、様々な野菜やハーブで花や植物などを絵を描くように置いてオーブンで焼き上げる。思いのほか綺麗にできたことで嬉しくなる。

「ただ暴飲暴食するにしても、作りすぎたよなあ…」
魔法である程度の期間、鮮度を保ち保存することはできるのだが、やっぱりできたてを食べたい。

テーブルにずらりと並んだ料理を前に考え込んでいると、背中に視線を感じた。振り返るとキッチンからピンクと鳶色の頭が上下に並んでいるのが目に入る。

「エディ、ウォルター。のぞいてないで入れば?」
声をかけるとエディが駆け寄ってくる。ウォルターは気だるげにその後をついてきた。

「廊下まですごくいい匂いが漂っててさ。気になって見にきちゃった」
天使のような可愛いらしい微笑みに癒される。

「にしてもすんげー量作ったな。これ、どうすんの?」
エディとは反対側の隣に立ったウォルターが、関心と呆れの混じったような息を吐いた。

「そうなんだよ。自分用に作ったんだけど、張りきりすぎて気づいたらこんな大量になっちゃって。よかったらおまえたちも食べない?」

「食べる!」
「食う」

声が重なる。そういえば2人とも、ルーイ先輩のやらかし以来こうしてゆっくり話すのは始めてかもしれない。どれから食べようかと俺をそっちのけで話し始める2人の様子に彼らの小さな頃を思い出す。気づいたら、久しぶりに自然と頬が緩んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...