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2章 王立学院編ー前編―
15<ウォルターの訪問②>
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何を隠そう俺は前世からマカロンに目がない。少ない給料を節約し、コツコツと貯金したお菓子貯金で、ピエール・エルメにラデュレ、カレット、ジャン・ポール・エヴァンなど、さまざまな有名店のマカロンを食べた。
この世界にもマカロンが存在するなんて。嬉しすぎて顔がにやける。
「知ってたんだな、ユージン」
ハッと顔を上げると、ウォルターが驚いた顔でこちらを見ていた。
「あ、うん! 小さい頃に食べたことがあって。このパティスリーのじゃないんだけど」
「そうか」
すんなり納得してくれて、少し安心した。これがジェラルドならありとあらゆる手を使って、本当のことを吐かるだろうな……ってなんで今アイツのことが出てくるんだよ! 俺な内心で自分にツッコミを入れ、再び目の前のマカロンに意識を集中した。
中には二つに折りたたまれた美しい紙が入っている。取り出して開くと、色とりどりのマカロンのイラストと、簡単な説明が描いてある。紙と箱の中を交互に見ながら、味を確かめていく。
「あ! 見てこれ。ウォルターの色だ」
俺はピンク色と紫色のマカロンを指で摘まんで白い皿の上に置いた。
「ピンクのがローズで、こっちはスミレだって」
すると今度はウォルターが箱の中から鮮やかな黄色と水色のマカロンを取り出した。
「えーと……黄色いのがシトロンで、もう1個はミントだって」
「こっちはユージンの色だな」
「そうか?」
俺は水色のマカロンを手に取る、俺の濃い青の目よりはもっと薄く明るい色をしている。
「これ、どっちかっていうと俺よりもジェラルド――」
「違ぇよ。間違いなくユージンの色だろ」
言葉を強めに被せると、ウォルターは俺の手からマカロンを素早く奪い取り、口の中に放り込んだ。
「あ! 食べたな!」
「いいだろ別に。まだたくさんあるんだし。それにホラ、ユージンはこっち食え」
ウォルターはピンク色のマカロンを俺の口の中に押し込んだ。
「んぐっ……ん、あ、美味い」
華やかなのに爽やかなバラの香りのクリーム。バラのマカロンは今までもたくさん食べてきたが、こんなに美味しいマカロンは食べたことがない。このマカロン1つに、フルール王国の豊かさが象徴されているような気がした。
ゆっくりと味わって食べ終えると、ウォルターはもう一つマカロンを取って俺の口に入れた。
「スミレもおいひい」
「食いながらしゃべんなよ。喉につまらせんぞ」
ウォルターは笑いながら俺の顔に右手を伸ばし、親指の腹で口元を拭った。
「ついてた」
見せられた指の腹には、ピンク色とスミレ色のクリームが付いている。ウォルターはその指を俺の目をじっと見ながらペロリと舐めた。
「……なッ!!」
恥ずかしさで、顔に血が上る。
「アハハ、顔真っ赤。林檎みてー」
俺を見てウォルターは楽し気に笑っている。たった1年ほどで人間、ここまで変わるものなのか。呆然としていると、ウォルターが立ち上がる。
「そろそろ行くわ。大事な婚約者サマの部屋で長居してたら、アイツに何言われるかわかんねーし」
「あ……いいよ、そんなの気にしなくて」
俺もつられて立ち上がると、テーブルを挟んで正面から向き合う形になった。少し前までは、俺の方が身長が高かったはずなのに。今では俺が見下ろされている。
「身長、かなり伸びただろ」
「ああ。少しでも伸ばしたくて、牛乳もたくさん飲んだし運動も死ぬほどした」
「腕も、俺より太い……」
肘まで捲り上げられたウォルターの上着からは引き締まった健康的な色の腕が見える。浮き出た血管が男らしい。昔は俺と同じくらい細くて真っ白だったのに。
「兄貴たちと毎日、鍛えたから。剣もだいぶ強くなったんだぜ」
「羨ましい……俺も、もっと身体鍛えようかな」
「ユージンはいいだろ、そのままで」
「そうか? 俺だって強くなりたい――」
「ユージンのことは、いつだって俺が守る。だからそのままでいんだよ」
言葉は少し強引でぶっきらぼうだが、アメジストの瞳はどこまでも優しい。見た目は顔のいいヤンキーだけど、こういう男は一途だし愛されたら幸せだろうな。そんなことを考えてながら自室へ戻る彼を見送った。
この世界にもマカロンが存在するなんて。嬉しすぎて顔がにやける。
「知ってたんだな、ユージン」
ハッと顔を上げると、ウォルターが驚いた顔でこちらを見ていた。
「あ、うん! 小さい頃に食べたことがあって。このパティスリーのじゃないんだけど」
「そうか」
すんなり納得してくれて、少し安心した。これがジェラルドならありとあらゆる手を使って、本当のことを吐かるだろうな……ってなんで今アイツのことが出てくるんだよ! 俺な内心で自分にツッコミを入れ、再び目の前のマカロンに意識を集中した。
中には二つに折りたたまれた美しい紙が入っている。取り出して開くと、色とりどりのマカロンのイラストと、簡単な説明が描いてある。紙と箱の中を交互に見ながら、味を確かめていく。
「あ! 見てこれ。ウォルターの色だ」
俺はピンク色と紫色のマカロンを指で摘まんで白い皿の上に置いた。
「ピンクのがローズで、こっちはスミレだって」
すると今度はウォルターが箱の中から鮮やかな黄色と水色のマカロンを取り出した。
「えーと……黄色いのがシトロンで、もう1個はミントだって」
「こっちはユージンの色だな」
「そうか?」
俺は水色のマカロンを手に取る、俺の濃い青の目よりはもっと薄く明るい色をしている。
「これ、どっちかっていうと俺よりもジェラルド――」
「違ぇよ。間違いなくユージンの色だろ」
言葉を強めに被せると、ウォルターは俺の手からマカロンを素早く奪い取り、口の中に放り込んだ。
「あ! 食べたな!」
「いいだろ別に。まだたくさんあるんだし。それにホラ、ユージンはこっち食え」
ウォルターはピンク色のマカロンを俺の口の中に押し込んだ。
「んぐっ……ん、あ、美味い」
華やかなのに爽やかなバラの香りのクリーム。バラのマカロンは今までもたくさん食べてきたが、こんなに美味しいマカロンは食べたことがない。このマカロン1つに、フルール王国の豊かさが象徴されているような気がした。
ゆっくりと味わって食べ終えると、ウォルターはもう一つマカロンを取って俺の口に入れた。
「スミレもおいひい」
「食いながらしゃべんなよ。喉につまらせんぞ」
ウォルターは笑いながら俺の顔に右手を伸ばし、親指の腹で口元を拭った。
「ついてた」
見せられた指の腹には、ピンク色とスミレ色のクリームが付いている。ウォルターはその指を俺の目をじっと見ながらペロリと舐めた。
「……なッ!!」
恥ずかしさで、顔に血が上る。
「アハハ、顔真っ赤。林檎みてー」
俺を見てウォルターは楽し気に笑っている。たった1年ほどで人間、ここまで変わるものなのか。呆然としていると、ウォルターが立ち上がる。
「そろそろ行くわ。大事な婚約者サマの部屋で長居してたら、アイツに何言われるかわかんねーし」
「あ……いいよ、そんなの気にしなくて」
俺もつられて立ち上がると、テーブルを挟んで正面から向き合う形になった。少し前までは、俺の方が身長が高かったはずなのに。今では俺が見下ろされている。
「身長、かなり伸びただろ」
「ああ。少しでも伸ばしたくて、牛乳もたくさん飲んだし運動も死ぬほどした」
「腕も、俺より太い……」
肘まで捲り上げられたウォルターの上着からは引き締まった健康的な色の腕が見える。浮き出た血管が男らしい。昔は俺と同じくらい細くて真っ白だったのに。
「兄貴たちと毎日、鍛えたから。剣もだいぶ強くなったんだぜ」
「羨ましい……俺も、もっと身体鍛えようかな」
「ユージンはいいだろ、そのままで」
「そうか? 俺だって強くなりたい――」
「ユージンのことは、いつだって俺が守る。だからそのままでいんだよ」
言葉は少し強引でぶっきらぼうだが、アメジストの瞳はどこまでも優しい。見た目は顔のいいヤンキーだけど、こういう男は一途だし愛されたら幸せだろうな。そんなことを考えてながら自室へ戻る彼を見送った。
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