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1章 異世界転生編

3<メンヘラ改造計画スタート>

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とりあえず、『アルティメットラバー』の世界の中で覚えていることを整理する必要がある。クリアしたのはごく最近だったこともあり、まだ記憶が鮮明に残っている。

それに、この世界とすべてが同じとは限らない可能性がある。部屋には本棚があり、やはり毒々しい色合いの分厚い本が所狭しと並んでいた。

どんな本を読むのかと幾つか手に取ってみると、すべて恋愛小説だった。しかも最後、愛を全うするために主人公とその恋人は死ぬものばかり。

「なんだこれ」
題名のない分厚い本を手に取る。表紙を見てユージンの日記だとわかった。今後の人生のために、とても有用な資料だ。さっそく読み始めたものの、数ページで限界になり離脱してしまう。

日記はびっしりとジェラルド王子について書かれていた。王子が連絡を返してくれた回数、話した内容と時間などなど……。他のことは何も書いていない。不安定な筆跡も相まって、呪いの書にしか見えない。

「ノートとペンを用意してもらえるか? できれば普通のやつ。ピンクと黒と紫以外で頼む」

ニックは少し驚いたような顔をしたものの、すぐに部屋を出て行った。さて、その間にこのメンヘラ部屋の改造でもするか。

こういう時、魔法が使えるというのは本当にありがたい。まずはこの絨毯からいこう。見ているだけで目が痛くなりそうな濃紫の絨毯に向って両の手のひらをかざす。

目を閉じて、理想の絨毯の色を思い描く。目に優しくて、あとは清潔感と明るさも欲しいな。となると、やっぱり薄い寒色系だな。薄い緑にしよう。

目を開くと、絨毯は理想通りのパステルグリーンに変化していた。次は壁紙だ。これはもう絶対に白一択。壁と絨毯の色が変わっただけで部屋の雰囲気が一気に明るくなる。

次はあやしげな赤紫色に黒いバラの花の刺繍がみっちり施された重そうなカーテン。これは絨毯と同じ色で揃えよう。天井も白にして、真っ黒いシャンデリアは透明に。

家具もすべて真っ黒で、だいたい紫かピンクのくどい模様がついていたので、少し明るめの木に変更する。ベッドはやはり白とパステルグリーンで纏める。

完璧に居心地のよくなった部屋で、すべての窓を全開にして空気を入れ替えて、部屋の中に溜まっている見えない澱のようなものを消していく。

すっきりした部屋に満足していると、戻ってきたニックが腰をぬかすほど驚いていた。

手に入れたノートとペンは、やはりゴテゴテと装飾が施されいたがユージンの趣味に比べれば全然マシである。

さっそく、覚えていることを書いていく。

この世界はオメガバースの設定のある異世界だ。
国の名前はクレーニュ王国。現王は子だくさんで、7人の王子と5人の王女がいる。当然、正室である王妃の他にもたくさんの側室がいる。

平民はすべてベータで、国の9割を占めており、残りの1割に相当する王侯貴族のみがアルファとオメガだ。彼らに平民は存在しない。

現国王は男性だが、王妃も男性だ。側室の中には女性もいるらしいが、王妃になるオメガは男性と定められている。
さらにアルファとオメガは魔力を持っており、それらを国民や領民のために使って国を守っている。

主人公のオメガは現国王の弟、シャーリー公爵の三男で強い魔力を持っている心優しい青年だった。親族とはいえ、王子とあまり交流のなかった主人公は、
一定以上の魔力を保有する貴族の子弟が通う学園でジェラルド王子と親しくなる。だが彼には俺――ユージンという性悪メンヘラの婚約者がいて、在学中からさまざまないじめや嫌がらせを仕掛けていくのだ。

だが主人公はそれにも負けず、内に秘めた強さとジェラルド王子への真っすぐで一途な想いをで艱難辛苦に立ち向かっていく。主人公は伝説のオメガと呼ばれるほど強い魔力の持ち主だったはずだ。

「攻略対象は……4人で合ってるよな」

一人目は、言うまでもなく俺の婚約者であるジェラルド王子。プラチナ色の髪にアクアマリンの瞳を持つ超絶美形。国で一番美しいと言われる王子だ。いつも微笑みを浮かべ、穏やかな性格で男女問わずファンも多い。
もちろんアルファだ。だが本当は腹黒く、計算高い。それは何年か前に最愛の異母兄をテロで亡くしたことに由来している。
ユージンと違って根は悪い奴じゃないのだ。
ただし、主人公に対する執着とヤンデレぶりはちょっと凄かった。
自分に向けられたらとんでもなく迷惑だけど、エンタメとして楽しむには最高である。

二人目は、ユージンの義理の弟であるエドワード・ジェニングス。
魔力の高さを見込まれて、遠縁の子爵家から幼少期に引き取られた、鳶色の髪にはちみつ色の瞳を持つ線の細い美形アルファだ。兄から差別と執拗ないじめを受け続けたせいで、早くから外に愛を求めて夜の社交界の華になる。
退廃的で性にも奔放な生活を送っていたが、主人公と出会ったことで変わっていく。
同い年なこともあり、主人公とは唯一無二の親友になるが、いつしか友情が愛情に変わる。

三人目は魔法学院に留学してくる隣国の大国、アウクスブルク王国の公爵家のルードヴィッヒ・ヴェルトハイム。母親がクレーニュ王国の現国王の妹ということもあり、王子と同等の待遇を受けていた。
不遜な性格で、王様気質。このゲームでは一番、頭がおかしい奴だ。主人公と生徒会で一緒になりになり”おもしれー女”的な興味で近づいてくるのだが、異常なまでに主人公を追い求めて自分のものにしようとする様がホラーすぎる。黒髪に赤い瞳の狂気的な美貌の持ち主だ。

四人目はアウスブルクと同様にクレーニュ王国に隣接するフルール王国のジュリアン王子。彼とも生徒会で接点を持つことになる。
花と農作物が有名な自国を地味で野暮ったいと感じていて、常に流行の最先端のファッションに身を包み、遊び歩く女たらし。だが主人公と出会い、自国の素晴らしさに気づくのだ。灰色の髪にガーネットの瞳を持つ色気のある美形で、もちろんアルファだ。

14歳の今、ルートヴィヒとジュリアンとの魔法学院での出会いまでには、あとほぼ1年ある。

このままではどのルートでも悲惨な目に合ってしまうことは確実だ。そんなの冗談じゃない。前世の死に方だってひどいものだったし、大富豪の息子に生まれた今世は、金や生活の心配をせずにやりたいことをやって生きたい!

そんなわけで俺は、生き残って理想の人生を送るための作戦を練ることにした。
とはいえ相談できる相手は自分以外にいない。

「よっしゃあ!! やるぞ!!」
俺は思いつくままに、ありとあらゆる作戦の数々をノートに書き連ねる。
さまざまなアイディアがでてきて、俺は天才だったのかもしれないなんて一人でテンションをブチ上げていた。

数年後、俺の作戦がとんでもない方向にストーリーを動かしていくなんて、この時は思いもよらなかった……。
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