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第七章 真実の愛
<9>アイルズベリーのエヴァンズ公爵
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「エリス! 元気そうじゃないか!」
エドガー・エヴァンズ公爵こと叔父上が両手を広げて迎えてくれる。
華やかなのに上品にまとめられた邸宅の玄関ホールで、俺たちは熱い再会の抱擁を交わす。
叔父は父の一番下の弟だが、幼い頃に子どものいない親戚筋のエヴァンス家の養子になったのだ。
エヴァンス家はパッとしない家柄だったのだが叔父が当主を継いでから起こした商会が大成功し、今ではアイルズベリーでも有名な富豪貴族になっている。
「叔父上はいつお会いしても素敵です」
父上とは兄弟仲があまり良くないようでめったにラムズデール邸を訪問することはなかったが、来ると必ず俺のことを気にかけてくれていた。
体を離そうとすると叔父の腕にぎゅっと力がこもる。
「叔父上、苦しいです」
「すまないね。嬉しくて。エリスにはもう簡単には会えないと思っていたから。我が甥っ子は相変わらず可愛いな。それにリアムも一緒なのか!」
叔父に名前を呼ばれ、リアムも嬉しそうな顔をしている。
俺たちが再会の喜びに夢中になっていると、ゴホンと大きめの咳払いが部屋に響いた。
(やべ、レヴィのことすっかり忘れてた!)
「叔父上、夫のレヴィ・ヴァンダービルド公爵です」
叔父は初めて気がついたというようにゆっくりとレヴィに視線を向ける。
「これはこれはヴァンダービルト公爵。ようこそおいでくださいました。いやあお恥ずかしい。甥との再会に我を忘れてしまいました」
「ありがとうございます、エヴァンズ公爵。お噂はかねがね伺っております」
二人は上品に微笑み合って握手を交わした。
レヴィが美しいのはもちろんだが、叔父も負けてはいない。黄金色の髪にエメラルドグリーンの優しい瞳でアイルズベリーの社交界ではとても人気があるらしい。
しかも年齢不詳で、どう見ても20代後半から30代前半にしか見えないのだ。
美の競演に目が眩みそうになる。
「公的な場ではマスクを被っていらっしゃるとお聞きしていたのですが……まさかこんなに素敵な方だとは思いませんでした。うちのメイドたちもすっかり虜になってしまったようだ」
叔父が小さく笑った。あたりを見回すと、確かにメイドたちが目をハートにしてレヴィのほうを見つめている。だがレヴィは彼女たちに一瞥もくれなかった。
「きみたち、お客様に失礼じゃないか。さあ本館のレセプションルームにご案内して。エリス、私は少し準備することがあるんだ、先に行ってくれ。公爵もごゆっくり」
メイドたちはハッとした表情で深々と頭を下げると、俺たちをレセプションルームへと誘った。
「さすがだね」
メイドたちが去り、二人きりのレセプションルームでレヴィが小さく呟いた。
大きな窓からは美しく整えられた庭を眺めることができる。
上品なロイヤルブルーの壁と深紅の布張りのソファの対比が美しい。
そのほかにも繊細な装飾が施された家具があちこちに配置され、華やかなのにリラックスできる空間になっている。
「だろ! 叔父上はアイルズベリーのトレンドの創造主って言われてるんだ。それにいろんなことに精通しているから話していてもすごく楽しいし――」
「ふうん。ずいぶん仲が良いんだね」
自慢の叔父を褒められたことが嬉しくて、しゃべりすぎてしまっただろうか。
レヴィは急に不機嫌な声になり、ソファにどっかりと座った。
「うん。叔父は俺の自慢で憧れの人だから」
「あっそ。興味ない」
レヴィの声が低くなる。
(なんだよ急に!? レヴィの地雷って本当にわかりにくいよな)
レヴィは黙り込んで庭を眺めている。
これ以上、会話を続ける気がないという態度に俺も無言で隣に座った。
エドガー・エヴァンズ公爵こと叔父上が両手を広げて迎えてくれる。
華やかなのに上品にまとめられた邸宅の玄関ホールで、俺たちは熱い再会の抱擁を交わす。
叔父は父の一番下の弟だが、幼い頃に子どものいない親戚筋のエヴァンス家の養子になったのだ。
エヴァンス家はパッとしない家柄だったのだが叔父が当主を継いでから起こした商会が大成功し、今ではアイルズベリーでも有名な富豪貴族になっている。
「叔父上はいつお会いしても素敵です」
父上とは兄弟仲があまり良くないようでめったにラムズデール邸を訪問することはなかったが、来ると必ず俺のことを気にかけてくれていた。
体を離そうとすると叔父の腕にぎゅっと力がこもる。
「叔父上、苦しいです」
「すまないね。嬉しくて。エリスにはもう簡単には会えないと思っていたから。我が甥っ子は相変わらず可愛いな。それにリアムも一緒なのか!」
叔父に名前を呼ばれ、リアムも嬉しそうな顔をしている。
俺たちが再会の喜びに夢中になっていると、ゴホンと大きめの咳払いが部屋に響いた。
(やべ、レヴィのことすっかり忘れてた!)
「叔父上、夫のレヴィ・ヴァンダービルド公爵です」
叔父は初めて気がついたというようにゆっくりとレヴィに視線を向ける。
「これはこれはヴァンダービルト公爵。ようこそおいでくださいました。いやあお恥ずかしい。甥との再会に我を忘れてしまいました」
「ありがとうございます、エヴァンズ公爵。お噂はかねがね伺っております」
二人は上品に微笑み合って握手を交わした。
レヴィが美しいのはもちろんだが、叔父も負けてはいない。黄金色の髪にエメラルドグリーンの優しい瞳でアイルズベリーの社交界ではとても人気があるらしい。
しかも年齢不詳で、どう見ても20代後半から30代前半にしか見えないのだ。
美の競演に目が眩みそうになる。
「公的な場ではマスクを被っていらっしゃるとお聞きしていたのですが……まさかこんなに素敵な方だとは思いませんでした。うちのメイドたちもすっかり虜になってしまったようだ」
叔父が小さく笑った。あたりを見回すと、確かにメイドたちが目をハートにしてレヴィのほうを見つめている。だがレヴィは彼女たちに一瞥もくれなかった。
「きみたち、お客様に失礼じゃないか。さあ本館のレセプションルームにご案内して。エリス、私は少し準備することがあるんだ、先に行ってくれ。公爵もごゆっくり」
メイドたちはハッとした表情で深々と頭を下げると、俺たちをレセプションルームへと誘った。
「さすがだね」
メイドたちが去り、二人きりのレセプションルームでレヴィが小さく呟いた。
大きな窓からは美しく整えられた庭を眺めることができる。
上品なロイヤルブルーの壁と深紅の布張りのソファの対比が美しい。
そのほかにも繊細な装飾が施された家具があちこちに配置され、華やかなのにリラックスできる空間になっている。
「だろ! 叔父上はアイルズベリーのトレンドの創造主って言われてるんだ。それにいろんなことに精通しているから話していてもすごく楽しいし――」
「ふうん。ずいぶん仲が良いんだね」
自慢の叔父を褒められたことが嬉しくて、しゃべりすぎてしまっただろうか。
レヴィは急に不機嫌な声になり、ソファにどっかりと座った。
「うん。叔父は俺の自慢で憧れの人だから」
「あっそ。興味ない」
レヴィの声が低くなる。
(なんだよ急に!? レヴィの地雷って本当にわかりにくいよな)
レヴィは黙り込んで庭を眺めている。
これ以上、会話を続ける気がないという態度に俺も無言で隣に座った。
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