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第七章 真実の愛
<7>エリス・ラムズデールについて ※レヴィ視点
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エリス・ラムズデールを別邸に追いやってからあっという間に数ヶ月が経過した。
別邸のある領地は王都からさほど離れていない。だがよく言えば牧歌的、悪くいえばかなり田舎だ。
芸術と花の国と言われる華やかなアイルズベリーで浪費生活を送ってきたような貴族には耐えられないかもしれない。
それで根を上げて自ら国へ帰りたいと言ってくれれば離婚もだいぶ簡単にすむ。
別邸へ移したのは同じ屋敷にいると嫌でも気を遣うというのもあったが、離婚を少しでも早めるためでもあったのだ。
だが肝心のエリスは別邸へ行ったきり、特になんの連絡も寄越さない。
必要なものがあればマークを通じて依頼して良いと伝えたが、それも特にないという。
それならば特に問題ないはずなのに、なぜだか心がざわついて仕方ない。
「本当に何も言ってこないわけ」
「なんの話です?」
書類の確認をしているマークが目を上げた。
「アイツだよアイツ」
「アイツ、とは」
マークは小首を傾げる。
(こいつ、わかってて僕に言わせようとしているな)
マークの手に乗るのは腹立たしいが、いつまでも押し問答をしているのはくだらなすぎる。
「アイツだよ! エリス」
「ああ。レヴィ様が強制的に別邸に押しやった夫人のことですか」
「何その言い方。嫌味?」
「ええ」
何なんだこいつは。返す言葉を失って唇を噛む。
なんだって皆、アイツの方を持つんだろう。
「エリス様からのご連絡はありませんが、オーウェンから報告書は上がっていますよ。ご覧になりますか?」
マークが差し出した紙の束を、悔し紛れにひったくるようにして受け取る。
「ま、まあいくら離婚するとはいえ現在進行形で形だけでもお嫁さんだからね。目を通しておく必要はあるよね」
誰にともなく言い訳めいたことを口にして、僕は報告書に目を落とした。
「は?」
読み進めていくうちに、驚きと予想外のエリスの行動に混乱してしまう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エリス様の活動報告書
クインスベリーで作ったワインを大変気に入ってくださいました。
我が国にこんなに素晴らしいワインがあったのかとお褒めくださり、販路拡大の計画を進めてくださっております。
ワインに合うスナックの開発の素晴らしい提案書も作成してくださいました。
申請書の形に整えてわたくしからレヴィ様にお送り致すことを計画中です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おや。どうかなさいましたか」
マークに声をかけられてハッと我に返る。
「ここに書いてあることは確かなの? 結婚前の調査書とは別人みたいだけど」
「オーウェンが適当なことや嘘を書く訳はないでしょう」
「そんなの僕だってわかってるよ! ただ、ちょっとびっくりしただけだよ」
「そんなに気になるようでしたら、ご自分の目で確かめてみては」
「わかったよ。明日、別邸に行く。おまえも付いてきて」
マークが意地悪い微笑みを浮かべて僕を見る。
煽るような物言いに勢いで返してしまった気もして悔しい。
「オーウェンは優しい奴だから、騙されているのかもしれないし。アイツの正体を僕がしっかり見極めないとね」
「かしこまりました。では後ほど準備をして参ります」
マークは呆れたようにため息を吐いて、書類に再び目を落とす。
(数ヶ月ぶりに会うし、なにか手土産でも用意してした方がいいよな。エリスは何が好きなんだろ。どうせ珍しいものとか高価なものなんなろうけど)
目を閉じて考えを巡らせていると、自然とエリスの顔が思い出される。
鬱陶しくて顔なんかほとんど見ていなかったはずなのに笑った顔や怒った顔、悲しそうな顔や嬉しそうな顔などさまざまな表情がはっきりと瞼の裏に浮かび上がる。
(なぜ僕はこの表情を知っているんだろう)
理由がわかっている確信があるのに、思い出そうとすると脳内に霧がかかったような状態になり、何も考えられず思い出せない。
(何だか気持ちが悪いな)
頭を強く振って目を開く。
明日、彼を目の前にすれば何かがはっきりするかもしれない。
再び書類を手に取って、目の前の仕事に意識を集中させた。
別邸のある領地は王都からさほど離れていない。だがよく言えば牧歌的、悪くいえばかなり田舎だ。
芸術と花の国と言われる華やかなアイルズベリーで浪費生活を送ってきたような貴族には耐えられないかもしれない。
それで根を上げて自ら国へ帰りたいと言ってくれれば離婚もだいぶ簡単にすむ。
別邸へ移したのは同じ屋敷にいると嫌でも気を遣うというのもあったが、離婚を少しでも早めるためでもあったのだ。
だが肝心のエリスは別邸へ行ったきり、特になんの連絡も寄越さない。
必要なものがあればマークを通じて依頼して良いと伝えたが、それも特にないという。
それならば特に問題ないはずなのに、なぜだか心がざわついて仕方ない。
「本当に何も言ってこないわけ」
「なんの話です?」
書類の確認をしているマークが目を上げた。
「アイツだよアイツ」
「アイツ、とは」
マークは小首を傾げる。
(こいつ、わかってて僕に言わせようとしているな)
マークの手に乗るのは腹立たしいが、いつまでも押し問答をしているのはくだらなすぎる。
「アイツだよ! エリス」
「ああ。レヴィ様が強制的に別邸に押しやった夫人のことですか」
「何その言い方。嫌味?」
「ええ」
何なんだこいつは。返す言葉を失って唇を噛む。
なんだって皆、アイツの方を持つんだろう。
「エリス様からのご連絡はありませんが、オーウェンから報告書は上がっていますよ。ご覧になりますか?」
マークが差し出した紙の束を、悔し紛れにひったくるようにして受け取る。
「ま、まあいくら離婚するとはいえ現在進行形で形だけでもお嫁さんだからね。目を通しておく必要はあるよね」
誰にともなく言い訳めいたことを口にして、僕は報告書に目を落とした。
「は?」
読み進めていくうちに、驚きと予想外のエリスの行動に混乱してしまう。
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エリス様の活動報告書
クインスベリーで作ったワインを大変気に入ってくださいました。
我が国にこんなに素晴らしいワインがあったのかとお褒めくださり、販路拡大の計画を進めてくださっております。
ワインに合うスナックの開発の素晴らしい提案書も作成してくださいました。
申請書の形に整えてわたくしからレヴィ様にお送り致すことを計画中です。
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「おや。どうかなさいましたか」
マークに声をかけられてハッと我に返る。
「ここに書いてあることは確かなの? 結婚前の調査書とは別人みたいだけど」
「オーウェンが適当なことや嘘を書く訳はないでしょう」
「そんなの僕だってわかってるよ! ただ、ちょっとびっくりしただけだよ」
「そんなに気になるようでしたら、ご自分の目で確かめてみては」
「わかったよ。明日、別邸に行く。おまえも付いてきて」
マークが意地悪い微笑みを浮かべて僕を見る。
煽るような物言いに勢いで返してしまった気もして悔しい。
「オーウェンは優しい奴だから、騙されているのかもしれないし。アイツの正体を僕がしっかり見極めないとね」
「かしこまりました。では後ほど準備をして参ります」
マークは呆れたようにため息を吐いて、書類に再び目を落とす。
(数ヶ月ぶりに会うし、なにか手土産でも用意してした方がいいよな。エリスは何が好きなんだろ。どうせ珍しいものとか高価なものなんなろうけど)
目を閉じて考えを巡らせていると、自然とエリスの顔が思い出される。
鬱陶しくて顔なんかほとんど見ていなかったはずなのに笑った顔や怒った顔、悲しそうな顔や嬉しそうな顔などさまざまな表情がはっきりと瞼の裏に浮かび上がる。
(なぜ僕はこの表情を知っているんだろう)
理由がわかっている確信があるのに、思い出そうとすると脳内に霧がかかったような状態になり、何も考えられず思い出せない。
(何だか気持ちが悪いな)
頭を強く振って目を開く。
明日、彼を目の前にすれば何かがはっきりするかもしれない。
再び書類を手に取って、目の前の仕事に意識を集中させた。
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