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第五章 ヴァンダービルトの呪い
<10>解呪のために
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調査開始から1週間後。俺とレヴィは庭を散歩しながら今後のことについて話し合っていた。
ヴァンダービルト家の庭園は広大だ。緑豊かな庭園内には色とりどりのバラやユリ、ダリアが咲き乱れている。
魔法で季節問わず、枯れずに咲き乱れるようになっているのは王宮と同じだ。
庭園の真ん中に配置された大きな噴水の近くにあるガセボまで辿り着くと、俺たちは中の椅子に座った。
いつも笑顔のレヴィは眉を寄せて渋い表情で腕組みをしている。
「エリス様のご希望は全て叶えて差しあげたいと思っています。ですが今回は反対です」
「なんで?!」
「月の女神に会いに行くなんて危険すぎます」
「そうかもしれないけどさ。そうでもしなきゃ解呪できないだろ」
調べた結果、この呪いはかけた本人つまり月の女神でないと解呪できないことがほぼ確実になった。
「会いに行ったとして、会ってくれるかもわかりませんよ。女神はヴァンダービルトに何百年も薄れないような憎しみを持っているはずです。相手は神です。戦うことになったらまず勝ち目はないでしょう」
「だから俺が行くって言ってんだろ? 俺はヴァンダービルトの人間じゃないし」
「結婚したので今はもうヴァンダービルトの人間でしょう」
「ま、まあそうだけど。血筋としては違うわけだから話しくらいは聞いてくれるんじゃないか?それに元はベリンガム家の人間なんだし」
事実、月の女神は王家には祝福を施してくれている。狼神の様子を見ても少なくとも俺とは話をしてくれるのではないだろうか。
「解呪薬の開発を頑張りますので」
だがレヴィは厳しい表情を崩さない。
ここはいったん引き下がった方が良さそうだ。
「そうか。わかったよ」
大人しく応じると、やっとレヴィが微笑んでくれた。
だがほっとしたのも束の間、膝の上に置いていた右手をぎゅっと掴まれる。
「エリス様」
「な、なんだよ」
「今はとりあえず返事をしておいて、折を見て一人で女神に会いに行こうなんて思ってないですよね?」
心の内をあっさり見抜かれて動揺が走る。必死にそれを表に出さないように笑顔を作った。
「大丈夫だよ! さすがにそんなことしねえよ」
「そうですか。よかったです。もしそんなことをなさったら、一生僕らの寝室から一歩も出さないで暮らしていただくことになりますから」
「わ、わかったから! おまえ時々怖いぞ!」
「ふふ。すみません。エリス様のことになると自分でも驚くほど制御できなくなってしまって」
レヴィは握ったままの俺の手をひっくり返して恋人繋ぎにする。
「ば、ばか! ここ外だぞ」
「誰もいませんよ。人払いしてありますから」
そう言ってレヴィは体をもっと密着させてきた。シャツ越しに伝わる体温に落ち着かない気持ちになってしまう。
「エリス様」
「……なに」
「魔力供給、お願いしてもいいですか?」
「は?! ここで?!」
「はい。ここで」
「おまえ……そんなこと言ってるけどまだ大丈夫だろ」
「いいえ。実はもうこの姿を保っているのがやっとなんです」
言い終わるなりレヴィの体が少年に戻った。
「だから…….ね? お願いします」
「う……わ、わかった」
「ありがとうございます。優しいエリス様が大好きです」
レヴィの手がゆっくりと離れ、俺の両頬に添えられる。
「んむっ」
そこからはいつも通りの時間が始まる。いくら大事な事とはいえ、外でこんなことをしている事実に鼓動がいつも以上に早くなっていく。
いつしか俺は縋るようにレヴィのシャツの胸元あたりを両手でぎゅっと握っていた。
魔力供給で頭がぼうっとしていく。だが俺は心の中で呟く。
(ごめんレヴィ。俺は絶対に女神に会いに行くよ。そしておまえの呪いを解く)
ヴァンダービルト家の庭園は広大だ。緑豊かな庭園内には色とりどりのバラやユリ、ダリアが咲き乱れている。
魔法で季節問わず、枯れずに咲き乱れるようになっているのは王宮と同じだ。
庭園の真ん中に配置された大きな噴水の近くにあるガセボまで辿り着くと、俺たちは中の椅子に座った。
いつも笑顔のレヴィは眉を寄せて渋い表情で腕組みをしている。
「エリス様のご希望は全て叶えて差しあげたいと思っています。ですが今回は反対です」
「なんで?!」
「月の女神に会いに行くなんて危険すぎます」
「そうかもしれないけどさ。そうでもしなきゃ解呪できないだろ」
調べた結果、この呪いはかけた本人つまり月の女神でないと解呪できないことがほぼ確実になった。
「会いに行ったとして、会ってくれるかもわかりませんよ。女神はヴァンダービルトに何百年も薄れないような憎しみを持っているはずです。相手は神です。戦うことになったらまず勝ち目はないでしょう」
「だから俺が行くって言ってんだろ? 俺はヴァンダービルトの人間じゃないし」
「結婚したので今はもうヴァンダービルトの人間でしょう」
「ま、まあそうだけど。血筋としては違うわけだから話しくらいは聞いてくれるんじゃないか?それに元はベリンガム家の人間なんだし」
事実、月の女神は王家には祝福を施してくれている。狼神の様子を見ても少なくとも俺とは話をしてくれるのではないだろうか。
「解呪薬の開発を頑張りますので」
だがレヴィは厳しい表情を崩さない。
ここはいったん引き下がった方が良さそうだ。
「そうか。わかったよ」
大人しく応じると、やっとレヴィが微笑んでくれた。
だがほっとしたのも束の間、膝の上に置いていた右手をぎゅっと掴まれる。
「エリス様」
「な、なんだよ」
「今はとりあえず返事をしておいて、折を見て一人で女神に会いに行こうなんて思ってないですよね?」
心の内をあっさり見抜かれて動揺が走る。必死にそれを表に出さないように笑顔を作った。
「大丈夫だよ! さすがにそんなことしねえよ」
「そうですか。よかったです。もしそんなことをなさったら、一生僕らの寝室から一歩も出さないで暮らしていただくことになりますから」
「わ、わかったから! おまえ時々怖いぞ!」
「ふふ。すみません。エリス様のことになると自分でも驚くほど制御できなくなってしまって」
レヴィは握ったままの俺の手をひっくり返して恋人繋ぎにする。
「ば、ばか! ここ外だぞ」
「誰もいませんよ。人払いしてありますから」
そう言ってレヴィは体をもっと密着させてきた。シャツ越しに伝わる体温に落ち着かない気持ちになってしまう。
「エリス様」
「……なに」
「魔力供給、お願いしてもいいですか?」
「は?! ここで?!」
「はい。ここで」
「おまえ……そんなこと言ってるけどまだ大丈夫だろ」
「いいえ。実はもうこの姿を保っているのがやっとなんです」
言い終わるなりレヴィの体が少年に戻った。
「だから…….ね? お願いします」
「う……わ、わかった」
「ありがとうございます。優しいエリス様が大好きです」
レヴィの手がゆっくりと離れ、俺の両頬に添えられる。
「んむっ」
そこからはいつも通りの時間が始まる。いくら大事な事とはいえ、外でこんなことをしている事実に鼓動がいつも以上に早くなっていく。
いつしか俺は縋るようにレヴィのシャツの胸元あたりを両手でぎゅっと握っていた。
魔力供給で頭がぼうっとしていく。だが俺は心の中で呟く。
(ごめんレヴィ。俺は絶対に女神に会いに行くよ。そしておまえの呪いを解く)
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