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第五章 ヴァンダービルトの呪い
<4>過保護が暴走しています2
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「これはまずい。かなりまずいな……」
残された部屋の中、俺は頭を抱える。
これから毎日、レヴィと同じベッドで寝起きしてあんな風に触れたり甘い言葉を囁かれ続けたら。
なんだか自分が自分でなくなってしまうような気がしてならない。
「なにがまずいんです?」
ベッドからかなり離れた場所からリアムが声をかけてくる。レヴィが仕事に行ったすぐ後に、リアムとシェーンが部屋へやってきた。レヴィが戻るまでの俺のお目付け役らしい。
「こっちの話だ。気にすんな。それよりおまえらずいぶん遠くないか? もっとこっちに来いよ」
シェーンが首を横に振る。
「申し訳ございません。レヴィ様のご命令で、これ以上我々がエリス様のお傍へ行くことはできないのです」
「はぁ? なんだよそれ」
リアムとシェーンの話はこうだった。
俺の私室の前で待機していた二人の前に、レヴィが突然現れたという。
「エリス様は少し体調が良くないみたいなんだ。本当は僕が付きっきりで看病したいんだけど、今日はどうしても外せない仕事がある。非常に不本意かつ不快ではあるけれど……僕が戻るまでエリス様の様子を見ていてくれ」
「我々がエリス様の看病をするということでしょうか。それでしたらすぐに準備を――」「いい。必要ない」
言いかけたシェーンの言葉をレヴィが遮る。
「エリス様の体温や脈拍に少しでも異常があれば僕に分かるようになっている。だから看病は必要ない。だがエリス様は真面目で勤勉なお方だ。僕が静養してほしいと言ってもベッドを抜け出して動き出す可能性が高い。おまえたちはエリス様がベッドを抜け出さないように、見張っていてくれればそれでいい」
レヴィはさらに、ベッドからは絶対に3メートル以上離れろという命令も付け足したという。
「なんでそんなこと……」
「レヴィ様がおっしゃるには、体調不良とはいえ熱っぽく潤んだ瞳のエリス様は色気がだだ漏れているとのこと。あまり近くで見て俺たちが変な気を起こさないようにということでした」
シェーンがげんなりした表情で告げる。
「そういうわけで、俺たちはこれ以上エリス様にお近づきになることはできません」
リアムはなんともいえない顔でため息を吐いた。
「そ、そうだったんだ。なんか悪ぃ」
決して俺が望んでいることではないが、謝っておく。戻ってきたらレヴィに抗議しようと心に決めた。
「けど俺、本当に体調悪いわけじゃないんだよな。暇だしなんか話でもしようぜ」
呼びかけると二人は同時にはい、と返してくれる。
「本当は今日からヴァンダービルトの呪いについて調べようと思ってたんだよ。シェーンは知ってるんだろ?」
「はい、多少ですが」
「よかったら話してくれるか? リアム、悪いけどシェーンの話をメモしてくれ」
リアムは頷いて紙とペンを取り出した。
「じゃあ頼む」
シェーンは頷くと、大きく息を吸った。
「ヴァンダービルト家の呪いは、俺たちが生まれるより遥か昔――もう何百年も続いていると言われています。ヴァンダービルト家にまつわる話だというのはもちろん伏せられていますが、この呪いのことを指していると言われる昔話が存在しているんです」
「昔話? それはベリンガム帝国の人間であれば誰でも知っているような話なのか?」
「おそらくは。子どもたちの読む絵本にもなっています。月の女神と銀の狼という話なんですが」
「へえ。どんな話なんだ?」
この話は有名な昔話なので、もちろん知っていた。だがリアムもシェーンも俺に前世の記憶があることはまだ知らせていない。
秘密主義のベリンガム帝国の昔話を他国の貴族が知っているのはおかしな話だろう。
「かいつまんでお話しますね」
シェーンは俺とリアムを交互に見ながら話し始めた。
残された部屋の中、俺は頭を抱える。
これから毎日、レヴィと同じベッドで寝起きしてあんな風に触れたり甘い言葉を囁かれ続けたら。
なんだか自分が自分でなくなってしまうような気がしてならない。
「なにがまずいんです?」
ベッドからかなり離れた場所からリアムが声をかけてくる。レヴィが仕事に行ったすぐ後に、リアムとシェーンが部屋へやってきた。レヴィが戻るまでの俺のお目付け役らしい。
「こっちの話だ。気にすんな。それよりおまえらずいぶん遠くないか? もっとこっちに来いよ」
シェーンが首を横に振る。
「申し訳ございません。レヴィ様のご命令で、これ以上我々がエリス様のお傍へ行くことはできないのです」
「はぁ? なんだよそれ」
リアムとシェーンの話はこうだった。
俺の私室の前で待機していた二人の前に、レヴィが突然現れたという。
「エリス様は少し体調が良くないみたいなんだ。本当は僕が付きっきりで看病したいんだけど、今日はどうしても外せない仕事がある。非常に不本意かつ不快ではあるけれど……僕が戻るまでエリス様の様子を見ていてくれ」
「我々がエリス様の看病をするということでしょうか。それでしたらすぐに準備を――」「いい。必要ない」
言いかけたシェーンの言葉をレヴィが遮る。
「エリス様の体温や脈拍に少しでも異常があれば僕に分かるようになっている。だから看病は必要ない。だがエリス様は真面目で勤勉なお方だ。僕が静養してほしいと言ってもベッドを抜け出して動き出す可能性が高い。おまえたちはエリス様がベッドを抜け出さないように、見張っていてくれればそれでいい」
レヴィはさらに、ベッドからは絶対に3メートル以上離れろという命令も付け足したという。
「なんでそんなこと……」
「レヴィ様がおっしゃるには、体調不良とはいえ熱っぽく潤んだ瞳のエリス様は色気がだだ漏れているとのこと。あまり近くで見て俺たちが変な気を起こさないようにということでした」
シェーンがげんなりした表情で告げる。
「そういうわけで、俺たちはこれ以上エリス様にお近づきになることはできません」
リアムはなんともいえない顔でため息を吐いた。
「そ、そうだったんだ。なんか悪ぃ」
決して俺が望んでいることではないが、謝っておく。戻ってきたらレヴィに抗議しようと心に決めた。
「けど俺、本当に体調悪いわけじゃないんだよな。暇だしなんか話でもしようぜ」
呼びかけると二人は同時にはい、と返してくれる。
「本当は今日からヴァンダービルトの呪いについて調べようと思ってたんだよ。シェーンは知ってるんだろ?」
「はい、多少ですが」
「よかったら話してくれるか? リアム、悪いけどシェーンの話をメモしてくれ」
リアムは頷いて紙とペンを取り出した。
「じゃあ頼む」
シェーンは頷くと、大きく息を吸った。
「ヴァンダービルト家の呪いは、俺たちが生まれるより遥か昔――もう何百年も続いていると言われています。ヴァンダービルト家にまつわる話だというのはもちろん伏せられていますが、この呪いのことを指していると言われる昔話が存在しているんです」
「昔話? それはベリンガム帝国の人間であれば誰でも知っているような話なのか?」
「おそらくは。子どもたちの読む絵本にもなっています。月の女神と銀の狼という話なんですが」
「へえ。どんな話なんだ?」
この話は有名な昔話なので、もちろん知っていた。だがリアムもシェーンも俺に前世の記憶があることはまだ知らせていない。
秘密主義のベリンガム帝国の昔話を他国の貴族が知っているのはおかしな話だろう。
「かいつまんでお話しますね」
シェーンは俺とリアムを交互に見ながら話し始めた。
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