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第五章 ヴァンダービルトの呪い
<1>同じ寝室で1
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「……なあ。最近ずっと屋敷にいるけど、仕事は大丈夫なのか?」
狼神との邂逅からもう1ヶ月以上が経った。レヴィは屋敷にはあまりいないと聞いていたはずが、なぜか毎日俺の部屋にやって来る。
「はい。エリス様の魔力供給のおかげで遠隔でも十分に仕事が行えるようになりましたので」
魔力供給の方法が変わった後、回数も増えた。遠隔だと魔力消費が半端ないそうで、三日に一度は魔力供給を行っている。
正直、何度繰り返しても慣れない。その上、回数を重ねるごとに変な気持ちになってくるのだ。
「たまには現地に出向いた方がいいんじゃないのか」
「その必要はありません。遠隔だと一度に幾つかの場所で仕事を行うことができますし。すべて上手くいっています」
遠隔で仕事を行う際は、魔力で作ったレヴィの分身を動かしているという。基本的に仕事では常に顔をマスクで覆っているためバレることもないらしい。
「それならいいけど……」
「はい。なんの問題もございませんが」
美しい笑顔なのに、すごく圧を感じる。これ以上反論しても無駄だと悟った。
「それよりエリス様」
「うわっ! な、なんだよ」
気がつくと正面に座っていたはずのレヴィがいつの間にか俺の隣に移動している。
「そろそろ寝室を一緒にしませんか?」
「え!? なんでだよ!!」
「僕たちは夫婦ですよ。同じベッドで寝るのは当然のことでしょう」
「あ、いや……まあ、夫婦ではあるけど。父上と母上は寝室が別だったぞ?」
「それは王族の話でしょう。貴族の夫婦は同じ寝室にするのです。もしいつまでも別室だと従者や使用人たちが、僕たちの夫婦仲をひどく心配するでしょうね」
「そうなのか……知らなかった」
「きっとマークやシェーン、それにリアムたちも。間違いなく僕たちのことを心配するはずです。きっとひどくストレスを与えてしまいます」
従者や使用人たちに無駄な心配やストレスを与えることはしたくない。貴族のしきたりというなら従うのが道理だろう。
「わかった。今日から一緒に寝よう!」
俺の言葉にレヴィは目を見開く。雪のように白い肌がみるみる紅に染まっていく。
「あ、いや今のは違う! そ、そうい意味じゃなくて――っ!」
両手を振り回して言い訳をする俺を、レヴィが強く抱き締めた。
「エリス様……あまり可愛いことをなさらないでください。僕の理性が崩壊してしまいます。今だってもうギリギリなのに」
頬を押し付けられているレヴィの胸から、少し早い鼓動が聞こえる。
「なに、言って……」
「好きなんです。愛しています、エリス様」
レヴィは俺を抱き締めたまま髪の毛を梳くようにして撫で始めた。恥ずかしすぎて今すぐ離れたいのに、同じくらいレヴィの鼓動と手の感触が気持ちよくて、このままでいたくなる。
しばらくしてレヴィがゆっくりと身体を離した。
「そろそろ行かないと。その前に寝室の手配をしておきますね」
「ああ、頼む」
頷く俺にレヴィは嬉しそうに笑う。それから右耳に唇を寄せると甘い声で囁く。
「それでは夜にまた会えるのを楽しみにしてます」
「……なっ!」
赤くなる俺にウインク一つ残してレヴィは姿を消す。転移魔法で仕事に戻ったのだろう。
一人きりになった部屋の中、俺は熱を持った頬を両手で挟んでしばらく呆然としていた。
狼神との邂逅からもう1ヶ月以上が経った。レヴィは屋敷にはあまりいないと聞いていたはずが、なぜか毎日俺の部屋にやって来る。
「はい。エリス様の魔力供給のおかげで遠隔でも十分に仕事が行えるようになりましたので」
魔力供給の方法が変わった後、回数も増えた。遠隔だと魔力消費が半端ないそうで、三日に一度は魔力供給を行っている。
正直、何度繰り返しても慣れない。その上、回数を重ねるごとに変な気持ちになってくるのだ。
「たまには現地に出向いた方がいいんじゃないのか」
「その必要はありません。遠隔だと一度に幾つかの場所で仕事を行うことができますし。すべて上手くいっています」
遠隔で仕事を行う際は、魔力で作ったレヴィの分身を動かしているという。基本的に仕事では常に顔をマスクで覆っているためバレることもないらしい。
「それならいいけど……」
「はい。なんの問題もございませんが」
美しい笑顔なのに、すごく圧を感じる。これ以上反論しても無駄だと悟った。
「それよりエリス様」
「うわっ! な、なんだよ」
気がつくと正面に座っていたはずのレヴィがいつの間にか俺の隣に移動している。
「そろそろ寝室を一緒にしませんか?」
「え!? なんでだよ!!」
「僕たちは夫婦ですよ。同じベッドで寝るのは当然のことでしょう」
「あ、いや……まあ、夫婦ではあるけど。父上と母上は寝室が別だったぞ?」
「それは王族の話でしょう。貴族の夫婦は同じ寝室にするのです。もしいつまでも別室だと従者や使用人たちが、僕たちの夫婦仲をひどく心配するでしょうね」
「そうなのか……知らなかった」
「きっとマークやシェーン、それにリアムたちも。間違いなく僕たちのことを心配するはずです。きっとひどくストレスを与えてしまいます」
従者や使用人たちに無駄な心配やストレスを与えることはしたくない。貴族のしきたりというなら従うのが道理だろう。
「わかった。今日から一緒に寝よう!」
俺の言葉にレヴィは目を見開く。雪のように白い肌がみるみる紅に染まっていく。
「あ、いや今のは違う! そ、そうい意味じゃなくて――っ!」
両手を振り回して言い訳をする俺を、レヴィが強く抱き締めた。
「エリス様……あまり可愛いことをなさらないでください。僕の理性が崩壊してしまいます。今だってもうギリギリなのに」
頬を押し付けられているレヴィの胸から、少し早い鼓動が聞こえる。
「なに、言って……」
「好きなんです。愛しています、エリス様」
レヴィは俺を抱き締めたまま髪の毛を梳くようにして撫で始めた。恥ずかしすぎて今すぐ離れたいのに、同じくらいレヴィの鼓動と手の感触が気持ちよくて、このままでいたくなる。
しばらくしてレヴィがゆっくりと身体を離した。
「そろそろ行かないと。その前に寝室の手配をしておきますね」
「ああ、頼む」
頷く俺にレヴィは嬉しそうに笑う。それから右耳に唇を寄せると甘い声で囁く。
「それでは夜にまた会えるのを楽しみにしてます」
「……なっ!」
赤くなる俺にウインク一つ残してレヴィは姿を消す。転移魔法で仕事に戻ったのだろう。
一人きりになった部屋の中、俺は熱を持った頬を両手で挟んでしばらく呆然としていた。
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