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第四章 レヴィの想い

<6>レヴィの想い1

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ヴァンダービルト邸に戻った翌日、レヴィは俺の部屋に現れた。部屋で寛いでいた俺とリアムは飛び上がるほど驚いた。

レヴィはリアムに席を外すように言いつけてあっという間に追い出してしまう。二人きりになった部屋には気まずい沈黙が流れている。

メイフェア山で正体がバレた時、昔の名で呼ばれて不覚にも泣いてしまった。男が簡単に涙を見せるななんて言っていた身としてはなんとも情けない。

(それにしても、いきなり来たわりに黙り込んでるけど何しに来たんだ?)
不審に思ってチラリと視線を送ると、こちらをガン見しているアクアマリンの双眸とぶつかった。

「ひっ! な、なんだよおまえ! なに見てんだよ!」
「……アラン様、いえエリス様」

レヴィは大股歩きで近づいて、一気に距離をつめてくる。思わず後ずさりしたが、すぐにベッドにぶつかって座り込んでしまう。

「申し訳、ございませんでした……本当に。今までのご無礼の数々、どうかお許しください」
レヴィは片膝をついて頭を下げる。

「いやいやいや! いいって! そりゃわかるわけないし! 俺だって思い出したの、ここに来るほんの少し前だから。狼神のことがなかったら、誰にも言わないつもりだったし」

「許して、くださるのですか?」
レヴィは顔をが得た。

「許すもなにも、隠してた俺が悪い。こっちこそごめんな」
片膝をついてしゃがみ込んだままのレヴィの頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。その様子が犬みたいで可愛くて、しばらくそうして撫でてしまう。

やがてレヴィは撫でていた俺の右手を取って、頬を擦り寄せてくる。そこで俺はハッとした。そうだ、コイツは今、俺より年上なんだった。輝くように美しい男が俺みたいな奴に犬のように擦り寄っている光景は、なんだか倒錯的すぎる気がする。

さりげなく手を引き抜こうとしたのに、やんわりと拒否されてしまう。レヴィは上目遣いに俺をじっと見た。

「エリス様がそばにいながら気がつかないで生きるなんて後悔してもしきれない。危うく離婚してしまうところでした」

「てことは離婚、しねーの?」
「当然でしょう。エリス様、僕の気持ちをもうご存知ですよね」
「あ、うーん、まあ」
気まずい。しかもこんなに直球に言われるとは思わなかった。

レヴィは長く濃い銀の睫毛を伏せる。
「お恥ずかしいです。ご本人を前にしているとも知らずに、あんなに愛を語ってしまって」

「はは。俺もさすがにびっくりしたけど……ありがとな。恋なんてする前に死んじまったし、生まれて変わってからも生きるだけで必死だったからさ。誰かに恋するなんて考えたこともなかったけど……でも、嬉しかったよ」

「エリス様……ありがとうございます」
再び顔を上げたレヴィに微笑むと、微笑み返してくれる。けれど、その笑みがいつもと少し違うように見えるのは気のせいだろうか。

ゆっくりとレヴィが立ち上がる。そうすると目線が逆転し、俺が見上げる形になった。だが次の瞬間、レヴィの姿がブレるように揺れる。

気がつくと、実年齢よりも若い17歳の姿に戻っていた。

「レヴィ!? 大丈夫か!?」
「申し訳ありません……またお力を貸してくださいますか」
「ああ、もちろんだ!」

力強く返事をしてしまってから、ハッとする。エリスが俺だと知られてから、魔力供給の行為をするのは初めてである。

(レヴィは俺を好きなわけで……いやでも好きなのは前世の俺だから今の俺じゃないけど……でもやっぱりなんだか気まずいな)

あらためて彼の想いを考えて、気まずさのようなものに襲われる。だがレヴィの不安げな声で思考の淵から現実に引き戻された。

「エリス様? 嫌になってしまわれたのですか?」
捨てられた子犬のような顔。レヴィは知らないだろうが昔から俺は、この顔に弱い。

「い、いや全然っ! さあ来いっ!!」
勢いよく立ち上がって両手を広げる。レヴィは少し笑って俺の胸に飛び込んできた。

「うわっ!」
勢いよく飛びつかれたはずみで、そのままベッドに重なるようにして倒れ込んでしまう。

「申し訳ございません、エリス様。大丈夫でしょうか」
鼻先が触れそうなほどの距離で、真上から顔を顔を覗き込まれる。あらためてまじまじと見ると、本当に綺麗な顔をしているなと実感してしまう。

長い白銀のまつ毛に覆われた、宝石のように輝くアクアマリンの

瞳。白く透き通った肌は、騎士団長として戦いに明け暮れいるとは思えないほど滑らかだ。

高く鼻筋の通った小作りな鼻に、ピンク色のバラの花びらを貼り付けたような可憐な唇。男にとってこの形容詞が褒め言葉なのかは微妙だが、恐ろしいほどに美しい。

思わず手を伸ばして、頬に触れてみる。
「なあ、おまえこんなにきれ……かっこいいのに、なんで顔隠してんだよ」

レヴィは少しだけ目を見開いた後、小さな声で聞いてきた。
「僕、かっこいいですか?」

「おう! めっちゃくちゃ!!」
ウインクし、片方の手で目の前でグッドサインを作って答えてやると、レヴィの顔が目元からじわじわと赤く染まっていく。具合でも悪いのだろうか。

「どうした? なんか顔赤くなってんぞ」
レヴィは大きなため息とともに俺の肩口に顎を乗せるようにして顔を埋める。

「……エリス様、その言葉は嬉しすぎるし可愛すぎます」
「へ?」

ゆっくりと再び顔を上げたレヴィの目は見たこともないほど熱っぽく煌めいていた。
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