魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

文字の大きさ
上 下
37 / 85
第四章 レヴィの想い

<3>アラン様と僕3※レヴィ視点

しおりを挟む
「アラン、さま……?」
僕の声に振り返ったアラン様は、いつもみたいに片眉を下げて困ったように笑う。

「ったく……なんでおまえがここにいるんだよ。説教は後でな。俺から離れるなよ」
そう言って再び前を向く。

「国王自ら最前線に出向くとはな。しかもご丁寧に変装までしやがって。大したもんだぜ」
その言葉に馬上の老人の姿がゆらゆらと揺れて次第に変化していく。

現れたのは壮年の屈強な男性だった。
「さすがだな、アラン王子。ベリンガムの次期国王と評されるだけはある」
ウィンダミア王が再び剣を構える。

「そりゃどーも。あいにく王座に興味はねえ。だがウィンダミアはベリンガムの従属国になるべきだ。ウィンダミアの国民のためにも」

「ほう。我が国民のためだと? 随分と傲慢な口を聞く」
王は眉を跳ね上げる。

「アンタら王族が交易に重税を課して、その金で派手に遊び暮らしてることは、ほとんどの隣国が知ってんだよ。ベリンガムは国民から税を搾り取ったりしない。ウィンダミアの民をバカな王侯貴族から解放してやる。それに俺たちのほうが絶対に商才あるし」

「勝手なことを言うな! この若造が!!」
「痛いとこつかれからって怒鳴るなよ。ていうか、そろそろおしゃべりは終わりにしようぜ、おっさん……かかってこいよ」
「生意気な……! 殺してやる!!」

二人の鬼気迫る様子に2つの国の兵士たちがどんどん集まってくる。だがアラン様は厳しい声で叫んだ。
「手出し無用! これはウィンダミア国王とベリンガムの王子の戦いだ!!」

ウィンダミア国王もそれに呼応するように声を張り上げる。
「一騎打ちでどちらかが死ねば、この戦いは終わりだ!!」

そうして一息の間を置いて、二人の剣から放たれる魔力がぶつかり合った。赤い炎のようなアラン様の魔力は、いつ見ても強く美しい。だがウィンダミア王の灰色の魔力も負けてはいなかった。

二人の力は拮抗しているように見える。それまで僕はアラン様と互角にやり合う人間を見たことがなかった。めったなことでは汗をかかないアラン様の額には大粒の汗の玉がいくつも浮いている。

そんな姿を前にしても、祈ることしかできない。アラン様の魔力がウィンダミア王に傷をつければ、今度はすぐにウィンダミア王がアラン様に傷をつける。

やがて、決着はついた。
互いに同時に一撃を放った直後、ウィンダミア王が馬から落下した。心臓の辺りから血が噴き出す。そうして王はぴくりとも動かなくなった。

ウィンダミアの騎士が一人、馬から降りると王へと近づいていく。王の手首に手を当てた後、虚ろな目で空中を見つめたまま動かない目を撫でるようにして閉じて立ち上がる。

「ウィンダミア王、崩御!! 我が国は敗北した!! ベリンガム帝国の勝利だ!!」
騎士は絶叫に近い声で叫ぶと、魔力で自らの胸を打ち抜き、王のそばに寄り添うようにして倒れた。

やがて怒号のような勝どきの声が鳴り響き、大地を揺する。アラン様は振り返って笑った。
「ほら、帰るぞレヴィ。おまえも乗れ」

僕は頷いて魔力でアラン様の愛馬に飛び乗った。やっぱりアラン様は無敵だと思った。この人に一生ついていくんだ、とも。
だがしばらくして異変が起きた。

いつも背筋を伸ばしているはずのアラン様が、僕の右肩に顎を乗せるようにして体を預けている。最初は密着していることに緊張しつつ胸を躍らせていた僕は、アラン様の息遣いが異常に荒いことに気がついた。

「アラン、さま……?」
片手を後ろに伸ばしてアラン様の胸や腹部にそっと触れる。
「……っ!」
手を前に戻すと、僕の手のひらには大量の血がべったりとついていた。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

モブ兄に転生した俺、弟の身代わりになって婚約破棄される予定です

深凪雪花
BL
テンプレBL小説のヒロイン♂の兄に異世界転生した主人公セラフィル。可愛い弟がバカ王太子タクトスに傷物にされる上、身に覚えのない罪で婚約破棄される未来が許せず、先にタクトスの婚約者になって代わりに婚約破棄される役どころを演じ、弟を守ることを決める。 どうにか婚約に持ち込み、あとは婚約破棄される時を待つだけ、だったはずなのだが……え、いつ婚約破棄してくれるんですか? ※★は性描写あり。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

処理中です...