上 下
35 / 85
第四章 レヴィの想い

<1>アラン様と僕1 ※レヴィ視点

しおりを挟む
アラン様と初めて出会ったのは王宮の庭園だった。両親とはぐれてしまい泣いていた僕を見つけて、両親のもとへ連れて行ってくれたのだ。

このままこの庭で誰にも見つけられずに死んでしまうのではないかと、不安と恐怖で泣いている小さな子どもに、アラン様は美しい紅の目を細めて優しく笑いかけて言ってくれた。

「俺がいるからもう大丈夫だ」
あの笑顔を見た一瞬で、一目惚れしていないのかもしれない。

その日、第五王子に多大なご迷惑をかけたということで両親にはこっぴどく叱られた。夕食抜きの刑に処されたが、そんなことはまるで気にならないぐらい、頭の中はアラン様のことでいっぱいだった。

どうしたらあの方にもう一度会えるのだろう。
どうしたら仲良くなることができるのだろう。

僕の頭も心もそのことでいっぱいになっていた。大勢の姉の中で育ったせいか、泣き虫で外で遊ぶより家の中で人形遊びをする方が好きな子どもだった僕は、翌日から一変した。

父にアラン様が「ベリンガム帝国至上、もっとも若くして騎士団長に任命されたお方」という話を聞き、嫌いだった剣術や体術、魔法実践の時間を倍以上に増やしてもらった。

さまざまな戦術の本を読み、政治の知識を得るために父の読む新聞等もすべて目を通した。そうして半年後、再び訪れた王城でアラン王子に「弟子にしてほしい」と直談判したのだ。

大慌てする両親を前に、アラン様は優しい笑顔で俺の願いを叶えてくれた。
そうして僕はアラン様と一緒にいられる権利を勝ち得たのだ。

だがアラン様の弟子は一人ではなかった。僕と歳の近いジェームズ王子、ジュード王子、その他にも数人の高位貴族の子どもたちがアラン様の弟子として稽古をつけてもらったりしていたのだ。

出遅れたことが悔しくて、自分よりすでに親密そうに見える奴らが許せなくて、僕は誰ともあまりつるまずに、ひたすら稽古に励んでアラン様だけを見ていた。

他の奴らからは「愛想がない」「嫌味な奴」と言われることもあったが、気にしなかった。アラン様だけを見ていたいし、アラン様にも自分だけを見ていてほしい。

でもアラン様はそんな俺にいつも困ったように笑って「みんなと仲良くしな」と諭すように言っていた。

アラン様のおっしゃることには全て従うつもりだったが、それだけは無理な話で。
頑なに頷かない俺にいつも最後は「仕方ないなレヴィは」と両頬を軽く引っ張られる。触れてくださることが嬉しくて、この手が触れるものが僕だけならいいのにといつも思っていた。

だがそんな僕の幼稚な承認欲求のせいで、それから2年後、アラン様は命を落とすことになったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

処理中です...