魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第三章 ベリンガム帝国の異変

<14>狼神との対面1

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できるだけ早い方がいい。父上に頼んで数年ぶりに狼神の使者を召喚してもらった。使者からは日付が変わる頃に迎えに来るという返事がすぐに戻ってくる。

時計を確認すると、約束の時間まではあと2時間ほどだ。
「ちなみに俺の部屋は」
「ええ、あの頃のままに保存してあるわよ。フェンリルのこともあったけれど、あなたがいつかひょっこり戻ってきそうな気がしていたの」
母が嬉しそうに微笑む。

「ありがとうございます。今から少し、部屋を見てみたいのですが」
「俺たちが案内するよ」
ジェームズが手を挙げる。そうして俺は弟たちと連れ立って懐かしい部屋へと向かった。

「うわ、懐かしい」
部屋の中に入るなり、昔の記憶が細々としたことまで今まで以上にはっきりと蘇ってくる。

「兄弟みんなで、アラン兄が死んじゃった後も掃除したり空気の入れ替えしたりしてたんだよ。きれいでしょ?」
「ああ。ありがとな。まるで昨日まで、この部屋で寝起きしていた気がしてくる」

塵一つない室内を歩き回り、それから執務机の椅子に座る。机の一番上の引き出しを開けて、黒曜石とルビーでできた指輪とブレスレットを取り出してみる。

「これ、着けてもいいかな」
俺の言葉に弟たちはもちろん、と笑顔で頷いてくれた。この指輪とブレスレットには万が一の時を考えて、魔力をある程度貯めていた。

身に着けると、身体の中を魔力が巡っていくのがわかる。
「……っ」

エリスとしての魔力とアランの魔力が融合する感覚。なんとも形容しがたい感覚に背筋が震える。自分の中に新たな魔力が宿った確認がある。


それから2時間後、俺たちは城の裏庭を通り、メイフェア山の入口へと集まった。
しばらくすると冷たい風が吹き、それとともに黒毛の狼が2匹現れた。

(これが狼神の使者か)
初めて見る姿に緊張が走る。一匹は青い目、もう一匹は緑色の目をしている。青い目の狼が静かに口を開いた。

「ここから先は力を渡す者しか連れていけない。今度は誰だ」
「俺です」

一歩前へ進み出ると緑の目の狼が驚いた声を漏らした。
「ほう! これはなんとも不思議だ。面白いことがあるものだ。ベリンガムの子よ、我らの後をついて来い」

そう言うと2匹は森へ向かって歩き出す。1度だけ振り返って両親と弟たちに大丈夫という気持ちを込めて頷くと、急ぎ足で2匹の後を追った。
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