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第三章 ベリンガム帝国の異変
<11>エリスの作戦2
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「これは……!!」
剣を見るなりレヴィが息を呑む。
フェンリルの動きは部屋に入った途端にスピードを落とした。天井につくくらいの高さからゆっくりと下降し、俺に近づく。
皆が見守る中、俺の側に寄り添うようにして動きを止めた。
「どういうことだ……フェンリルはアランの魔剣だ……」
父上が驚きで掠れた声で呻く。
(よかった……! フェンリル、久しぶりだな)
俺は心の中で語りかける。フェンリルはそれに応えるように、嬉しそうに俺の周りを飛び跳ねた。だが問題はここからだ。俺が右手を垂直に上げると、フェンリルは手の中に柄をおさめるようにして動きを止める。
「申し訳ございません……陛下、これからほんの少しだけ陛下と王妃様、王子様方とだけお話がしたいのですが」
途端にレヴィが目を剥いた。
「何言ってんの! そんな失礼なこと許されるわけ――」
噛みつくように言うレヴィを父上が片手で制する。
「問題ない。レヴィ、すまないが席を外してくれ」
「……畏まり、しました」
すれ違う瞬間、レヴィに殺気のこもった目で睨みつけられた。申し訳ない気がするけど、コイツにはできるだけバレないようにしたい。
扉が閉じたと同時に、俺は家族の顔を見回した。皆、一様に緊張と不安、そして動揺の入り混じった目をしている。上手く説明しなければ、どうなるかわからない。何度か深呼吸を繰り返してから、ゆっくりと口を開いた。
「突然こんなことを言い出して頭のおかしい奴と思われるかもしれませんが、俺は、アランなんです。記憶が戻ったのはここに来る少し前でした」
母上は両手で口を覆う。細い方が小刻みに震えている。それを両脇から支えるようにしてジェームズとジュードが立っている。
父上はふらふらした足取りで俺に近づいてきた。
「信じられないような話だ。顔も声も違う他国の人間から聞かされても……だがフェンリルのような魔剣は同じ魂の持ち主にしか従わないはずだ……だがあの子が死んで20年以上、誰も動かすことのできなかったフェンリルが動いた。そしてきみに従っている……」
「アラン……!!」
母上の両目から涙があふれだす。その様子を見ているだけで俺の目頭も熱くなってくる。
「ですが、フェンリルが間違いを起こさないとは限りません。なにか、もっと他に証拠になることはないのですか。例えば小さな頃の思い出話など」
末っ子のジュードの青い目には、まだ疑いの色が消えていない。
「そうですね……」
弟たちと自分しか知らない幼い頃の思い出を記憶から探っていく。
「まずジェームズ様。大嫌いな家庭教師のバートン先生のカツラを魔法で盗みましたね。隠し場所に困って俺を頼ってきたので、城の4階の北の奥、ほとんど使われていない陶器を収納している部屋の棚の一番上にある紫の壺の中に隠しましたね。俺の記憶が正しければまだあそこに置いたままになっているかと」
「なぜそれを……!! 兄上と俺しか知らないはずだ」
ジェームスは目を大きく見開いた。
「そしてジュード様。イタズラ好きのあなた一つに絞るのが難しいくらい色々なことをしでかしていましたね。ですがその中でも誰も知らないとなると……王妃様付きの侍女でペイトン子爵の三女、シャーロット嬢が初恋ですね」
「な……っ!!」
ジュードの白い頬にカッと赤味が刺す。
「ジュードおまえ、本当なのか? 俺すら知らなかったぞ」
ジュートは黙ってそっぽを向いて小さく息を吐いた。
「驚いたな……それは確かにアラン兄にしか話したことがない話です。しかも、今のいままで俺自身も忘れていたぐらいの」
ジュードは真っすぐに俺を見る。
「本当に、アラン兄、なんですね」
俺は弟の目を見てしっかりと頷いた。それが合図かのように、父上も母上も、そして弟たちもが俺にわっと抱き着いてくる。
「兄上!! 会いたかったです!」
「アラン兄!! お帰りなさい!!」
「アラン……!! 母によく顔を見せて」
「よく帰ってきた、息子よ」
皆の優しい言葉に、気づくと俺の両目からも涙が溢れていた。
剣を見るなりレヴィが息を呑む。
フェンリルの動きは部屋に入った途端にスピードを落とした。天井につくくらいの高さからゆっくりと下降し、俺に近づく。
皆が見守る中、俺の側に寄り添うようにして動きを止めた。
「どういうことだ……フェンリルはアランの魔剣だ……」
父上が驚きで掠れた声で呻く。
(よかった……! フェンリル、久しぶりだな)
俺は心の中で語りかける。フェンリルはそれに応えるように、嬉しそうに俺の周りを飛び跳ねた。だが問題はここからだ。俺が右手を垂直に上げると、フェンリルは手の中に柄をおさめるようにして動きを止める。
「申し訳ございません……陛下、これからほんの少しだけ陛下と王妃様、王子様方とだけお話がしたいのですが」
途端にレヴィが目を剥いた。
「何言ってんの! そんな失礼なこと許されるわけ――」
噛みつくように言うレヴィを父上が片手で制する。
「問題ない。レヴィ、すまないが席を外してくれ」
「……畏まり、しました」
すれ違う瞬間、レヴィに殺気のこもった目で睨みつけられた。申し訳ない気がするけど、コイツにはできるだけバレないようにしたい。
扉が閉じたと同時に、俺は家族の顔を見回した。皆、一様に緊張と不安、そして動揺の入り混じった目をしている。上手く説明しなければ、どうなるかわからない。何度か深呼吸を繰り返してから、ゆっくりと口を開いた。
「突然こんなことを言い出して頭のおかしい奴と思われるかもしれませんが、俺は、アランなんです。記憶が戻ったのはここに来る少し前でした」
母上は両手で口を覆う。細い方が小刻みに震えている。それを両脇から支えるようにしてジェームズとジュードが立っている。
父上はふらふらした足取りで俺に近づいてきた。
「信じられないような話だ。顔も声も違う他国の人間から聞かされても……だがフェンリルのような魔剣は同じ魂の持ち主にしか従わないはずだ……だがあの子が死んで20年以上、誰も動かすことのできなかったフェンリルが動いた。そしてきみに従っている……」
「アラン……!!」
母上の両目から涙があふれだす。その様子を見ているだけで俺の目頭も熱くなってくる。
「ですが、フェンリルが間違いを起こさないとは限りません。なにか、もっと他に証拠になることはないのですか。例えば小さな頃の思い出話など」
末っ子のジュードの青い目には、まだ疑いの色が消えていない。
「そうですね……」
弟たちと自分しか知らない幼い頃の思い出を記憶から探っていく。
「まずジェームズ様。大嫌いな家庭教師のバートン先生のカツラを魔法で盗みましたね。隠し場所に困って俺を頼ってきたので、城の4階の北の奥、ほとんど使われていない陶器を収納している部屋の棚の一番上にある紫の壺の中に隠しましたね。俺の記憶が正しければまだあそこに置いたままになっているかと」
「なぜそれを……!! 兄上と俺しか知らないはずだ」
ジェームスは目を大きく見開いた。
「そしてジュード様。イタズラ好きのあなた一つに絞るのが難しいくらい色々なことをしでかしていましたね。ですがその中でも誰も知らないとなると……王妃様付きの侍女でペイトン子爵の三女、シャーロット嬢が初恋ですね」
「な……っ!!」
ジュードの白い頬にカッと赤味が刺す。
「ジュードおまえ、本当なのか? 俺すら知らなかったぞ」
ジュートは黙ってそっぽを向いて小さく息を吐いた。
「驚いたな……それは確かにアラン兄にしか話したことがない話です。しかも、今のいままで俺自身も忘れていたぐらいの」
ジュードは真っすぐに俺を見る。
「本当に、アラン兄、なんですね」
俺は弟の目を見てしっかりと頷いた。それが合図かのように、父上も母上も、そして弟たちもが俺にわっと抱き着いてくる。
「兄上!! 会いたかったです!」
「アラン兄!! お帰りなさい!!」
「アラン……!! 母によく顔を見せて」
「よく帰ってきた、息子よ」
皆の優しい言葉に、気づくと俺の両目からも涙が溢れていた。
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