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第三章 ベリンガム帝国の異変

<9>王城到着

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それから結婚のお披露目の日までレヴィと顔を合わせることはなかった。当日の朝になって、ようやくマークがやって来て、予定を告げる。

「本日は日暮れ頃にお屋敷を出発致します。その後、陛下や皇妃様にご挨拶と少々のご歓談の後、ご帰宅となります。お帰りは少し遅くなると思いますので、午後の早い時間まではゆっくりとお過ごしください」

「わかった。事前に準備しておくことや頭に入れておくことは――」
「ございません」

「え!? でも挨拶の一言ぐらいは」
「必要ないそうです。ただ黙ってレヴィ様のお側に立つ。それが今晩のエリス様のお仕事です」

有無を言わせない調子に、頷くことしかできなかった。マークの足音が十分に遠ざかってから、部屋の隅に控えていたリアムが駆け寄ってくる。

「なんですかあれ。まるで余計なことするなって言ってるみたいじゃないですか」
「実際そうなんじゃないか」

正直、余計なことどころではないことをするつもりでいる。もともと、レヴィに国王への謁見を頼もうとしていたのが、こんな好機はない。レヴィには悪いが、俺の思うとおりにやらせてもらう。


数時間後、俺とレヴィはヴァンダービルト家の馬車に揺られて王宮を目指していた。
向かい合って座るレヴィは腕組みをしている。すでに顔には黒い仮面を着けているので表情が読み取れない。

おまけに一言もしゃべらない。沈黙に耐えきれなくなった俺は、ついに声をかけた。
「国王陛下の前でも仮面を着けてるのか?」

暫く間を置いて、レヴィがこっちを見る。
「国王陛下の前では外すよ。陛下はこの家の呪いのことも知ってるしね」
「そっか」

再びの沈黙。もう話しかけてくるなというオーラを感じ、俺は窓から見える景色をぼんやり眺めることにした。

間もなく馬車が停車する。レヴィ素早く立ち上がる。
「着いたみたいだね」

レヴィにエスコートされて馬車を降りる。目の前には懐かしい漆黒の城が聳え立っていた。
ベリンガムの王城――ガレス城はすべて黒曜石で造られている。天に向かって聳え立つ塔の先端にはエメラルド、サファイヤ、ルビーという3つの宝石が飾られている。

城を見上げていると、心の中が懐かしさで一杯になる。俺の部屋は今、どうなってるんだろうか。東の塔の部屋があったあたりに視線を彷徨わせていると、横から肩を突つかれた。

「なにぼーっとしてんの。行くよ」

ベリンガムの五大貴族といわれる5つの名門貴族たちは一般の貴族たちと同じ入口からは入城しない。その家紋のついた馬車だけが通過できる入口が別にあるのだ。名門筆頭のヴァンダービルト家も、もちろん特別な入口から入城する。

こっちからだと国王一家の住む棟へ到着するのが早い。待っていた城付きの従者たちに案内されて王たちの待つ部屋へと向かった。
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