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第三章 ベリンガム帝国の異変

<6>あの子について※レヴィ視点

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シェーンから通信が入ったのは、ようやく反乱を制圧し終えた日だった。かなりの魔力を消費したこともあり、そろそろこの姿を保つのもきつくなっている。

すでに戦は終えたし、後処理をして明日か明後日には帰ろうと考えていた時だった。
「どうしたの。何かあった?」

あのガキが妙な動きを見せたか、面倒ごとでも起こしたのだろうか。少し棘のある声が出てしまう。だがシェーンはやたら上機嫌なようだ。

「いえ。マークから反乱の制圧が完了したと聞いたものですから。レヴィ様、体調などお変わりありませんか」
「うん、大丈夫。ちょっと長引いちゃったから魔力量の消費は想定より多かったよ。この姿を保つの、ちょっときつくなってきたら、明日か明後日には帰ろうかと思ってるとこ」

「お待ちしております! もうレヴィ様がそちらへ行ってしまわれてから1ヶ月ほど経ちますね。早いものです」
「そうだね、今回はいつもよりなが……え?」

「レヴィ様? どうされました」
「僕、1ヶ月近く戦いでこんなに魔力を使ってるのに、この姿を保ててたんだ……驚いた」

今までなら半月が限界だったろう。1度、屋敷戻って1週間ほど幼い姿に戻っての静養が必要になったはずだ。

だが今回は違う。
「これがラムズデールの癒しの力なんだ……へえ」
たった1回の口づけで、こんなにも維持できるなんて。思った以上に使える存在だ。これならもっと制限されずにさまざまな仕事をこなすことができるだろう。

「どう、あの子。変なことしてない?」
軽い気持ちで聞いたのに、シェーンは待ってましたと言わんばかりの勢いで捲し立てる。

「変どころか……! エリス様は素晴らしいお方ですよ!! あの方がヴァンダービルト家に嫁いでくださったのは神のご加護としか言えません」

「は? 何言ってんの。あの子、女遊びと浪費でさんざん――」
「それが、間違いだったのです!」

「どういうこと?」
シェーンは嬉しそうに話し出した。長すぎるし気持ちが入りすぎてるだろとツッコミを淹れたくなったか、我慢して最後まで聞いてやる。

「なるほどね。情報は全然違ってたってことか。ていうかちょっと可哀想だね」
家族に使用人として扱われるなんて、ラムズデール家は腐っていると聞いたことがあったがそれは本当らしい。

「お戻りになられましたら、ぜひエリス様とお話しなさってください。きっとレヴィ様ともお話が合うと思います」
「そう? ありがと。楽しみにしとくね。じゃ」

通信を切って、テントの灯りを消す。簡易ベッドに横になり、布の天井をぼんやりと眺める。夜の森は静かだ。見張りの騎士たちが焚いている薪がパチパチとはぜる音が時折聞こえてくるぐらいで、なんの物音もしない。

シェーンは腹心の部下で、人を見る目も信頼に足る。その彼があれだけ褒めているのだから、もしかしたらあの子は本当にいい子なのかもしれない。

でも、僕の気持ちは変わらない。離婚するまで極力、最低限の付き合いを保つつもりだ。
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